第一話(中編)

○公園(夜)

 海藤と成瀬は並ぶようにブランコに乗り、缶コーヒーを飲む。
 缶コーヒーは海藤のおごりだ。

海藤歩

はあぁぁ、いやぁ、
キミのおかげで助かったよ

 海藤は小さくブランコを揺らしながら空を仰ぐ。

成瀬夢実

い、一体どういうことなんですか、
説明してください!

 海藤は混乱している成瀬を見て、ふっと笑い

海藤歩

今の……?
ああ、お見合いだったんだ

成瀬夢実

お、お見合い?

海藤歩

うん、相手は取引先の社長の娘さん。

海藤歩

その気はないから嘘で婚約者が居る!って、断っていたんだ。でも、ずっと疑われてて。

海藤歩

……そんな時にキミが通ってきたわけ

成瀬夢実

そう、だったんですか……

成瀬夢実

な、なんだ……
そういうことだったんだ

成瀬夢実

って!なんで私、ほっとしているのよ……!

 そんな成瀬の気持ちを知らず、海藤は言う。

海藤歩

でもまぁ。これで1つ、肩の荷が下りたよ

成瀬夢実

海藤歩

お見合いの話、実はあと12件あるんだ

成瀬夢実

じゅっ、12件!?
そんなにお見合いの話が出ているんですか!?

海藤歩

驚きすぎ

と海藤は可笑しそうに笑う。
 それを見た成瀬は海藤の姿を見て、つられて笑う。

成瀬夢実

私、海藤上司と仕事のことしか話したことがなかったけど。
こんなふうに笑った顔、新鮮かも……

 そんなことを成瀬は思っていると、海藤が成瀬の服装を下から上まで眺めて

海藤歩

そういえばキミ、いつもとは違う雰囲気だよね。パーティかなんかの帰り?

成瀬夢実

あ、えっと実は、その……

成瀬夢実

合コン、だったんです

海藤歩

えっ!?キミが、合コン?

 驚いた顔で海藤は成瀬を見やる。

海藤歩

……へぇ、その手のイベントには興味がないのかと思ってた。

海藤歩

だって会社ではメガネかけてるし、地味な格好してるし?

海藤歩

ああ、でも……

成瀬夢実

海藤歩

今日のキミの服装。
馬子にも衣装って感じだよね

成瀬夢実

ちょっ!?それ、褒めているんですか!?

海藤歩

うん?
一応、褒め言葉かな。
……それで?一応聞くけど、
合コンどうだったの?

 そう聞かれて、成瀬は合コンでの出来事を思い出す。
 合コンで会った人達はとても気さくな方が多くて、楽しかった。
 だが、いまいちピンと来なくて、気が乗れず途中で帰ったことを思い出した。

成瀬夢実

本当は途中で帰りました。
なんて、言えない……

 成瀬は苦笑いを浮かべて

成瀬夢実

た、楽しかったですよ。
ええ、お持ち帰りはされなかったですけど

海藤歩

……ふーん

 海藤はじっと成瀬の顔を見る。
 そして何かを察したように、それ以上のことは何も言わない。

 二人はしばらく話をせずにコーヒーを飲む。ふっと海藤は立ち上がり

海藤歩

そうそう。
ついでに一言、言わせてもらうと……

成瀬夢実

海藤歩

今日のキミの服装、
馬子にも衣装って感じだよね!

成瀬夢実

いっ、今!
同じ言葉を二度言いましたよね!?

大事なことなんですか?
そうなんですか!?

 海藤はニヤリと笑い

海藤歩

さあ、どうかな?
じゃあ俺、帰るから。キミも早く帰りなよ?

と、ひらひらと手を振って歩く海藤の背中を、成瀬は見送った。

成瀬夢実

………

成瀬夢実

み、見合いが……12件も…!?
しかも二度も「馬子にも衣装」って……!!

 成瀬は海藤の言葉に打ちのめされた気分になり、ブランコを宙に揺らす。
 そんな気分を吐き出すように大きくため息をつくしかなかった。

【第一話(中編) おわり】

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