第一話(中編)
第一話(中編)
○公園(夜)
海藤と成瀬は並ぶようにブランコに乗り、缶コーヒーを飲む。
缶コーヒーは海藤のおごりだ。
はあぁぁ、いやぁ、
キミのおかげで助かったよ
海藤は小さくブランコを揺らしながら空を仰ぐ。
い、一体どういうことなんですか、
説明してください!
海藤は混乱している成瀬を見て、ふっと笑い
今の……?
ああ、お見合いだったんだ
お、お見合い?
うん、相手は取引先の社長の娘さん。
その気はないから嘘で婚約者が居る!って、断っていたんだ。でも、ずっと疑われてて。
……そんな時にキミが通ってきたわけ
そう、だったんですか……
な、なんだ……
そういうことだったんだ
って!なんで私、ほっとしているのよ……!
そんな成瀬の気持ちを知らず、海藤は言う。
でもまぁ。これで1つ、肩の荷が下りたよ
?
お見合いの話、実はあと12件あるんだ
じゅっ、12件!?
そんなにお見合いの話が出ているんですか!?
驚きすぎ
と海藤は可笑しそうに笑う。
それを見た成瀬は海藤の姿を見て、つられて笑う。
私、海藤上司と仕事のことしか話したことがなかったけど。
こんなふうに笑った顔、新鮮かも……
そんなことを成瀬は思っていると、海藤が成瀬の服装を下から上まで眺めて
そういえばキミ、いつもとは違う雰囲気だよね。パーティかなんかの帰り?
あ、えっと実は、その……
合コン、だったんです
えっ!?キミが、合コン?
驚いた顔で海藤は成瀬を見やる。
……へぇ、その手のイベントには興味がないのかと思ってた。
だって会社ではメガネかけてるし、地味な格好してるし?
ああ、でも……
?
今日のキミの服装。
馬子にも衣装って感じだよね
ちょっ!?それ、褒めているんですか!?
うん?
一応、褒め言葉かな。
……それで?一応聞くけど、
合コンどうだったの?
そう聞かれて、成瀬は合コンでの出来事を思い出す。
合コンで会った人達はとても気さくな方が多くて、楽しかった。
だが、いまいちピンと来なくて、気が乗れず途中で帰ったことを思い出した。
本当は途中で帰りました。
なんて、言えない……
成瀬は苦笑いを浮かべて
た、楽しかったですよ。
ええ、お持ち帰りはされなかったですけど
……ふーん
海藤はじっと成瀬の顔を見る。
そして何かを察したように、それ以上のことは何も言わない。
二人はしばらく話をせずにコーヒーを飲む。ふっと海藤は立ち上がり
そうそう。
ついでに一言、言わせてもらうと……
?
今日のキミの服装、
馬子にも衣装って感じだよね!
いっ、今!
同じ言葉を二度言いましたよね!?
大事なことなんですか?
そうなんですか!?
海藤はニヤリと笑い
さあ、どうかな?
じゃあ俺、帰るから。キミも早く帰りなよ?
と、ひらひらと手を振って歩く海藤の背中を、成瀬は見送った。
………
み、見合いが……12件も…!?
しかも二度も「馬子にも衣装」って……!!
成瀬は海藤の言葉に打ちのめされた気分になり、ブランコを宙に揺らす。
そんな気分を吐き出すように大きくため息をつくしかなかった。
【第一話(中編) おわり】