第一話(後編)

○翌日、会社内、オフィス(昼)

成瀬夢実

………

 成瀬はオフィスで仕事をしている。
 お昼を過ぎた頃、普段よりも周りがざわついてことに成瀬は気づく。
 隣の席の、秋峰爽子(成瀬の同僚、女、35歳)が成瀬に声をかける。

秋峰爽子

ねえ、聞いた?

 成瀬はパソコン作業をしながら

成瀬夢実

何が?

秋峰爽子

噂で聞いたんだけど……
海藤上司、婚約者が居るらしいよ?

成瀬夢実

!!?

 秋峰は話を続ける。

秋峰爽子

相手は分んないけど、噂では……
同じ会社の人なんだって!

成瀬夢実

へ、へえぇ……そうなんだ

 成瀬はそう返答していると、丁度、パソコン画面にメールが来たという通知が出る。
 成瀬はメール画面を開く。差出人は海藤上司からだ。

海藤歩

《 海藤歩からのメール内容 》
 仕事が終わったら、ちょっと付き合って

成瀬夢実

………

成瀬夢実

多分、あの噂について、だよね……

 成瀬は遠くのデスクに座っている海藤をちらりと見る。
 海藤は何食わぬ顔でパソコン作業をしている。
 成瀬は海藤に大丈夫ですとメールを返信する。しばらくして返信が来る。
 仕事終わりに成瀬は海藤に会うことになった。

○会社近くのBar内(夜)

 就業時間後、成瀬は海藤と合流して近くのBarに居た。
 カウンター席に二人並んで座る。

海藤歩

キミ、何か飲む?

成瀬夢実

あ、私、カクテルあまり飲んだことがないので、おすすめで……

海藤歩

じゃあ俺のおすすめを頼んどくね

 海藤はカウンター前に居るマスターを呼び海藤は注文する。

海藤歩

マスター、俺はいつものやつと、
彼女にはホワイト・レディを

マスター

………

 マスターは静かに頷き、注文したものを作り始める。

成瀬夢実

………

 成瀬はスマートに注文する海藤の姿を見て、少し見とれてしまう。

成瀬夢実

海藤上司、よくここに来るんですか?

海藤歩

ん?ああ、仕事終わりによく、ね。

海藤歩

誰かさんとは言わないけど、
その人がよく仕事のミスをするから。
ストレス発散に、かな?

成瀬夢実

うっ……すいません

 成瀬は思い当たる節がたくさんあることを思い出し、矢にグサグサと刺された気分になる。
 海藤はニヤリと微笑んで

海藤歩

成瀬さん、何謝ってるの?

海藤歩

別にキミの話をしているわけじゃないから

と成瀬の様子を見て楽しそうに笑う。

成瀬夢実

………

成瀬夢実

昨日から思っていたけど、
海藤上司って意外とSだわ……

 しばらくして、注文した飲み物がやってくる。
 成瀬にはホワイト・レディ、海藤にはジントニックが運ばれくる。
 成瀬は目の前に置かれたカクテルを見て海藤に尋ねる。

成瀬夢実

これは?

海藤歩

ホワイト・レディっていうカクテル。
キミには飲みやすいだろうと思って。
飲んでごらん?

 そう海藤に進められて、成瀬はおそるおそるカクテルを一口飲む。

成瀬夢実

爽やかな酸味と甘み……
レモンとベリーの味がする

成瀬カクテルが飲みやすくて二口めを飲んでいると、視線を感じた。
 海藤は成瀬の様子を見てふっと笑う。

成瀬夢実

な、何見てるんですかっ

 成瀬は少し照れてしまい、顔をそむけると

海藤歩

いや?キミがあまりにも顔を揺るませて飲んでいるものだから

 と海藤はジントニックを飲んだ。
 しばらく二人は会話もせずにカクテルを飲んでいると、海藤が口を開く。

海藤歩

キミ、あの噂……耳にした?

成瀬夢実

……はい

海藤歩

……どうやら、昨日の出来事をお見合い相手の社長が、言いふらしたみたいなんだ

成瀬夢実

言いふらした……
だからこんなに早く噂が……

海藤歩

そうなんだよ。幸いにも相手はキミだとバレてはいないみたい、なんだけどね

海藤歩

迷惑かけてごめん……

成瀬夢実

いえ……

海藤歩

ということで、キミに提案なんだけど

 少し改まった口調で、海藤は成瀬を見つめる。

成瀬夢実

 成瀬は少し首をかしげる。

海藤歩

俺と既成事実、作らない?

 海藤は意地悪そうな顔で、成瀬を見つめる。

成瀬夢実

!!?

 海藤の突然の提案で成瀬は驚きのあまり、わけが分からず硬直してしまった。

【第一話(後編) おわり】

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