──ルームメイトの面接から、3日後。
──ルームメイトの面接から、3日後。
(蒼山くんから連絡こないなぁ。
面接、落とされちゃったのかな?)
(でも、不合格の場合も
必ず連絡するって
言ってたし……)
(あ、メールがきた!
差出人は……蒼山くんだ!!)
差出人 Deep blue
宛先 [email protected]
件名 蒼山です。ルームシェアの件で
日付 20xx/03/05 19:28
栗崎由衣 様
お世話になってます。蒼山悠斗です。
先日はルームメイトの面接に
来てくださって
ありがとうございました。
是非、栗崎さんとルームシェアをさせて
いただきたいと思います。
栗崎さんのご意向も聞きたいので、
都合の良いお時間に電話をください。
(うそっ?
やった、合格だ!
これで蒼山くんと暮らせる!!)
(まあ、振られたばっかりだけどね。
それでも蒼山くんの側に居たいなんて、
私も未練がましいなあ……)
(あ、そうだ。
さっそく電話しないとっ)
はい、蒼山です
くっ、栗崎です!
メール見ました!
ありがとうございました!
こちらこそ。
栗崎さんの方はどうですか?
予定は変わっていませんか?
是非よろしくお願いしますっ。
今日か明日にでも、
入居したいんですけど……
……え?
今日か明日ですか?
(あ、変に思われちゃったかな。
家出してるってこと話したら、
断られちゃうかもしれないし……)
すみません。
いくらなんでも
急すぎますよね
いえ。
何かご事情が
あっての事でしょうし、
すぐ来ていただいても構いませんよ
えっ、いいんですか?
私がどんな人間かも
わからないのに……
(あー、なに言ってんだろ私。
なんで自分から
怪しまれるようなこと
言ってるの?)
ははっ。
面接で話した感じでは、
とても信頼できる印象でしたよ。
それに……
それに?
あ、いえ。
とりあえず準備もあるので、
明日でもいいでしょうか?
は、はい!
じゃあ、明日行きますね!
じゃあ、
住所をメールしておきます。
これからよろしくお願いしますね、
栗崎さん
こちらこそ、
よろしくお願いします
(蒼山くん、優しい。
私が思った通りの人で、
本当に良かった……)
──翌日。
部屋に集まったのは、私と、蒼山くん。
そして……。
飯田隆司です!
改めてよろしく!
飯田……くん?
面接に受かったんですか?
ああ!
これからよろしくなっ
よろしくお願いします……
(あーあ。
嫌な人が受かっちゃったな。
他に応募した人が
いなかったのかなぁ?)
これから3人で
仲良くやっていこうぜ!
なあ、悠斗?
そう言いながら飯田隆司は、
蒼山くんの肩に手を置いた。
(なんか馴れ馴れしい……。
蒼山くんに触らないで欲しいなぁ。
私のモノじゃないけどさ)
はい、よろしくお願いします
だめだめ!
これから一緒に暮らす
っていうのに、
堅苦しすぎ!
そうですか?
面接でも言ったけど
俺は18歳で悠斗とタメだから、
タメぐちでいいぜ。
あと、名前も呼び捨てでいいから
はは。
じゃあそうさせてもらうよ、隆司
(蒼山くん、順応性ありすぎ!)
由衣も、
俺のこと隆司って呼んでくれよな
えっ……?
どうして私の名前、
知ってるんですか?
ん?
この間の面接で、
自己紹介してたじゃん
ああ、覚えてくれてたんですね
だからあ、敬語やめようぜ。
タメぐちタメぐち!
う、うん
(ぐいぐい来るタイプだなぁ。
でも、思ったより
悪い人じゃなさそう)
(それにしても、
飯田隆司って名前……。
どこかで聞いた気がするなぁ……)
それからなんとかバイトも見つけて、
新しい生活にも慣れてきた頃……。
蒼山くんに、
ずっと疑問に思っていたことを聞いてみた。
ねえ、蒼山くん。
どうして私と隆司を合格させたの?
唐突だな
だって、ずっと気になってたから
そうだな……。
最初の隆司の反応を見て、
栗崎には恋愛感情を
持たなさそう……
って思ったからかな
恋愛禁止だもんね……。
私に魅力が無くて
良かったね……
いや、そういう意味じゃなくて!
隆司はしっかりとしていたから、
軽率な行動は取らないと思って……
いいよ、無理しなくても。
蒼山くんも私のこと、
しっかりしてそうだから
選んでくれたと
思ってもいいのかな?
ああ……。
もちろんそうだよ
ありがとう。
ちょっと嬉しいなぁ
お礼を言うのは俺の方だよ。
栗崎みたいないい子が来てくれて、
感謝してるんだ
蒼山くん……
どうした?
う、ううん。
なんでもないっ
そうか?
(どうしようっ。
今のめちゃくちゃ嬉しい!)
そういえば、
バイトの方はどうなんだ?
なんとかやってる。
アルバイトなんて生まれて初めてだから
緊張してたけど、
周りの人たちが優しくしてくれるんだ
それなら良かった。
栗崎に合ってるのかもな
えへへ、そうかな?
そういえば蒼山くんこそ、
大学はどんな感じ?
ああ、色々と
良い刺激を受けてるよ。
高校とはやっぱりレベルが違うな
蒼山くんって、すごいよねえ。
有名大学に現役合格したんだもん。
勉強なんて楽勝でしょ?
そんなことないさ。
受験勉強でかなり
プレッシャーを感じて、
ストレスで髪が抜け落ちるかと思ったよ
(頭が光る蒼山くん……。
思わず想像しちゃったけど、
ハゲてる蒼山くんも大好きです!)
なに笑ってるんだよ。
今、ハゲの俺を想像しただろ?
し、してないしてない!
嘘つけっ
コツン☆
いたーいっ
(優し~く頭を叩かれちゃった。
幸せ……)
そういえば学費も部屋代も、
ご両親に出して
もらってるんだよね。
どうしてルームシェアを始めたの?
部屋代といっても、
少ししか援助して
もらえなくてさ……
本当は友達と住む予定だったけど、
部屋が決まった後に
友達の親が倒れてしまったんだ
そうなんだ……
で、その友達は家業を継ぐために、
実家に帰ったんだ
部屋を引き払うことも考えたけど、
せっかく条件のいい部屋なのに、
もったいなくなって
ああ、わかる。
駅から近くて便利な割りに、
家賃が安いもんね
そうそう、眺めもいいし
ところで、その友達って……。
実は彼女だったり……?
はは、違うよ。
男の友達
なんだぁ、そっかぁ!
どうしてそんなに
嬉しそうにするんだよ。
変なヤツだな
嬉しそうになんかしてないよぉ
(蒼山くんって、
高校の時は寡黙でクールな
イメージだったけど……)
(こうやって実際に話してみたら
すごく楽しくて、
前よりもずっと
好きになっちゃった)
(でも、恋愛禁止なんだよね。
ツライなぁ……)
入ってもいいか?
どうぞー
この前借りた漫画、
ぜんぶ読んだから返す!
もう読み終わったんだ。
どうだった?
けっこう面白かったぜ。
女向けの漫画も読んでみるもんだな
そう?
勧めて良かった
サンキュ。
お礼に俺の秘蔵のDVDを
貸してやろう
秘蔵って……。
やらしいDVDだったら
いらないけど
失礼だなあ、そんなんじゃねーよ。
この映画マジで感動するぜ。
由衣なら絶対ハマるから!
そんなにオススメなんだ。
じゃあ、今から一緒に観ようよ
悪りぃ。
今から学校に行かないといけねえんだ。
そんでその後はバイト
日曜なのに学校に行くの?
デザインの課題、
来週の月曜までに提出しないと
ダメなんだよ
今日はたまたま先生が
学校に来てるらしいから、
届けに行こうと思って
一日でも早く提出しなきゃ駄目なんだ?
デザインの専門学校って、
結構キツそうだね
いや、そうでもねえよ。
俺が早めに出したいだけ
へえー、意外。
隆司ってマジメなんだね
意外ってなんだよ。
こう見えても俺は学費を自分で払ってる
超マジメ人間なんだぜ
えっ、そうだったの!
大変じゃない?
そりゃ大変だけど、
親父が金は出さないって言うから
仕方ねえだろ
隆司のお父さんって、
厳しいんだね……
厳しいっつうか、
親父に普通の大学へ行け
って言われて
大ゲンカしたんだよ
俺は自分の店を持つのが夢だから、
親父の反対を振り切って
専門学校に進んだけどな
そんな話、初めて聞いた。
なんかすごい……。
自分の将来、きちんと考えてるんだ
まあな。
その為にバイトして、
軍資金も貯め込んでるんだぜ
ねえねえ、
隆司が出したいのって何のお店?
教えてよ
ばーか。
夢は他人に言うと
叶わなくなるって言葉、
知らねえのか?
えーっ。
ケチーッ
あっ、そうだ。
さっきのDVDだけど、
悠斗と観るなよ。
一人で観ろよ?
どうして?
一人で観た方が集中できるだろ?
じゃ、俺はもう行くから
あ、うん。
行ってらっしゃい
なんか新婚さんみたいだな
なに馬鹿なこと言ってんの。
早く行きなよ
はははっ
(もうっ。
私なんかに興味無いくせに、
たまに変な冗談
言うんだから……)
深夜になってから、
私は隆司に言われた通りに一人でDVDを観た。
その映画は、切ないラブストーリーだった。
お金を持たずに夢だけを持って
上京して来た男の子が、
初恋の子と再会するんだけど、
その女の子が記憶喪失になっていた
というお話で……。
(胸が締めつけられちゃう。
映画の中の出来事なのに、
他人事とは思えないよ……)
(すごくいい映画。
明日、隆司にお礼を言わなくちゃ)
私は涙を拭いながら、映画を最後まで観た……。