ここは月都!
帝国枢密院!
Fight Over!
The Winner is……
治天下ゼウス & Thunder-Swan!
ま、こないなもんやろ。
まけ、ちゃった……
元気出しや。ボンの歳でワイとあれだけやれたら大したモンやで、ホンマに。
トイファイト始めてから、まだ二月も経ってへんのやろ? どえらいこっちゃやで、ホンマ。
ぼくは、ぼくはっ、ヴォルフスケーニヒの男は、勝たなくちゃいけないのに、まけちゃだめなのに、勝利は義務なのに、うあっ、なんで……勝たなきゃいけないのに……!
泣いたらアカン、ボンは男の子やろ、な?
めんどくさいやっちゃな……もうぜいたくは言わへん、弱くてもかまへんから遊びを遊びとして見れるやつに会いたいわ……
世界各国のチャンピオンもみんな骨のない連中やった。世界大会はただ、地位の確認のために行くことになるんやろうな……そして期待の新鋭とやらがこれか……えろうつまらんこっちゃやで、ホンマ……
ここは月都!
帝国枢密院!
我々ゲルマニア帝国の使命、それは世界統一です。
諸勢力の思惑がぶつかり合う混沌が、世界の自然な姿です。しかし、混沌を許してはなりません。自然よりも、臣民の幸福を私は優先します。
人は、誰であれ幸せになるべきです。誰であれ、帝国臣民となる権利があります。幸せを享受する権利が。
演説するマーヤ!
おびえる枢密院顧問官ら!
皆、今はだまって従うしかないと
あきらめている。
そう思わなかった者たちは
皆、既に死んだからだ。
その権利をないがしろにする者たちがいます。自らの地位にしがみつこうとする小悪党たちです。「民族自決」「世界秩序を保つ」、という欺瞞によって彼らは人々の権利を不当に侵害しています。彼らを、悪を許してはなりません。
一部の顧問官らが
わずかに目の色を変える。
侵略戦争を繰り返すことで
発展してきたゲルマニアでは
世界征服に関して
肯定的な考えを持つ者も
少なくないのだ!
我々はゲルマニア。狼の法により、世界を導くことを定められた存在です。善のため、人々の幸福のため、戦いましょう。
マーヤが演説を
終えるやいなや
拍手と歓声が爆発する!
無論心からの賛意ではない!
彼らは恐れている!
古今に例のない!
女の狼王を!
ふふ
ここでも
何人かが命を落とした。
拍手のタイミングが
不適切だったのか
へつらいの言葉が拙かったためか。
四肢と首を失くして
血を流すだけの彼らに
答えは永久にわからない。
生者とて
答えを知りうるだろうか?
この狼王の内面を覗くことが
どうすればできるというのか!?
ふふ……明日、あの子たちは帰って来るかなぁ? ……夢の庭……世界統一の第一歩……うまくいったらほめてあげよう……好き……いい子……
お?
え?
どうやら、新しいトイファイターがやって来るようだ。みんな、よくしてやりたまえ。
昨日の夢と同じだ……ここがトイファイトの世界か……
こんばんは、呑龍カケト。ようこそ、「夢の庭」へ。
うわぁ、すごいお面! テレビで見たけど! でもすげえ!
すぐに慣れるよ。カケト、君はトイファイターだ。これからは、好きな夜にここで遊ぶといい。
かや子さんたちが言ったように、トイファイトにはショウ・ビズとしての側面もある。私の手足は短く、現世ではお金が必要だから。だが、トイファイトは遊びだ。楽しくなくちゃいけない。君が嫌になったら、続けなくてもいいんだ。楽しんでくれた方が、私は嬉しいがね。
いいんだ! なんか楽しそうだから、とりあえずやってみるって決めたんだ。かや子なんて、あんまり気にしてないぜ!
……ん? てか、なんであんたはおれがかや子に頼まれてトイファイトを始めたって知ってるんだ? おれ、言ったっけ?
君が知っているからだ。
そろそろ私は行くとしよう。君を独占するのは皆に悪いから。
ああ……
よう、カケトはん。ワイは治天下ゼウス。よろしゅうな。
よろしくな! おれは呑龍カケトだ!
さっそくトイファイトしたいんだ。けど、トイはどっからとってきたらいいんだ? 枕の横に置いて寝れば持ってこれると思ったんだけど、持ってこれなくてさ。
呼んだらええ。自分の使うトイを、呼べばトイは応えてくれるもんや。
そっか、なるほどなあ。ありがとなゼウス。助かったぜ!
おおきに。これでもワイはトイファイトには詳しいんや。そやから聞きたくなったらなんでも聞いてやー。
ああ! よーし。
来い! ファイアビートル!
何も起こらない!
いや!
カケトの手の内に
わずかに光が集まる!
光の色は赤!
ファイアビートルのボディと同じ色!
あれー? ファイアビートルはだめなのかな……それなら……来い! アイスシザーズ!
やはりわずかに光が集まるばかり!
今度の光の色は青!
アイスシザーズと同じ色だ!
……アイスシザーズもだめなのか……
くそ、それならブラススクイド! 来い!
カケトの手の内に
真鍮色の光が集まり
消える。
くそっ! 何がいけないっていうんだよ!
ま、ま、落ちつきや、カケト。初めてならよくあることや。ゆっくりトイのイメージを固めていけばええ。
そのトイはなんなんや? スピンソードの新型か何かか?
なんか変な新製品なんだ……えーと、作った人はヨロイビートルって言ってた、「戦闘甲虫ヨロイビートル」、だったかな?
ヨロイビートル? 聞いたことあらへんなあ……まあええわ。ビートルってことは、カブトムシやクワガタムシみたいな形してるんやな?
ああ。ファイアビートルとアイスシザーズはそんな感じだったよ
ん? 引っかかる言い方やな……もしかして、「何とかスクイド」はイカなんか?
うん、イカっぽかった。
……なんで甲虫のトイやのにイカがあるんや?
うわわ……なんでだろう……いったん気にすると、気持ち悪いくらい変な気がする……あのさ、実はイカだけじゃないんだ……もう一つあるんだけど、それは……
タコだったりするんか?
いや、竜イメージだって言ってた、作った人が。ドラゴヒスイって名前だ。
……まあまあかっこええ名前やな。しかし、なんで、四種中二つが甲虫やないのに、戦闘甲虫なんて名前のトイにしたんやろ?
うわわ……どうしてなんだろう……今度作ったおっちゃんに聞いてみるよ……
……あー……だめだ……世界が俺を馬鹿にしている気がする……いや、真実だ……どうせ今夜の生中継で俺のトイはゴミ扱いされて、ますます売れなくなるんだ……インターネットでたたかれる……
お風呂あがりましたー。って、あれ? どうしたの、お父さん?
かや子か……いや、お前は悪くない、悪いのは父さんだ……悪くないんだけど、かや子、お風呂上がりだからって全裸でいるのはよくないと思うぞ……もう高校生だろう……
いいじゃない、別に。お家の中なんだから。
うーむ。しかしなあ。淑女のふるまいとしてそれはどうなのだろう?
性別なんて関係ないでしょ。お父さんて、よくわかんないよね。未成年飲酒とかは気にしないのに、こういうところは細かい……
そうなのか? ……振舞いにおいて、俺はだめな親父だ。が、規範というものがどうあるべきかはちゃんと考えているつもりだったのだが……
ああーっ! だめだだめだ! 俺はだめなんだ! うううっ。くそーっ! 今夜の生中継で俺は世界の笑い者! クソコラの材料! ああ! うう!
もう! しっかりしてよ! とりあえずお風呂入って、頭冷やしてきなさい!
風呂に入ったら温まるのでは?
おばか! とっとと行ってきなよ!
いいぞ! ファイアビートル!
ファイアビートルは
自在に地を駆ける!
ヨロイビートルはゼンマイ駆動のトイ!
緩急をつけ
自在に方向転換をするその姿!
この場所――「夢の庭」ならでは!
ここが現世であったなら!
かやうに縦横無尽な動きは
不可能であろう!
そう!
「夢の庭」とは!
「玩具販促アニメや漫画のような
驚くべきパフォーマンスを
トイに発揮させたい!」
そんな夢物語を叶える場所なのだ!
だいぶ慣れたみたいやな、カケト。
おう! 思い通りめちゃくちゃに動かせて楽しいな!
ええこっちゃ。な、そろそろワイとトイファイトせえへんか?
おう! やろうぜ!
やっとトイファイトだ! なんか長かった!
へへ……そうこなあかんで。若いうちは勇猛果敢でなきゃあかん。へへ……
待った。ゼウス君。彼のデビュー戦の相手は君じゃない。僕だ。
プランスピュールのボン……!
なんなんや、カケトはワイが青田買いしたんやで。
うわぁ、金髪……! 女子向けのまんがに出てきそうなイケメン……!
こんにちは、初めまして。
僕はアルテュール。アルテュール・マリー・ド・プランスピュール。
よろしく! 俺は呑龍カケト! 日本語うまいんだな、アルテュール!
ふふ、僕には君が生まれながらのフランコフォンのように思われるよ、カケト君。
この場所は便利でね、何語の話者も等しく自在に意思疎通ができるんだ。
そうなのか! すごいなあ!
僕もそう思う。君と言葉を交わせて、嬉しいよ。さ、それではトイファイトを行おう。
おう! ん、でも、先にゼウスとやるつもりだったからな……
彼はオードブルに向いてはいない。だから先の楽しみにとっておいた方がいいと思うな。
え? なんでだ?
あまりにも強すぎ、また容赦がなさすぎる。最近は少し落ち着いてきたけれどね。今は引退してしまった、かつての世界チャンピオンの他に、ゼウスを負かした相手を僕は見たことがないほどだ。
そうなのか!? ゼウス! すっげえなあ!
あー、まあ、そうやな……
……アルテュール……余計なこと言いくさりよって……! これでカケトがおびえて使い物にならんようなったら、ただじゃおかんで、ホンマ!
ついこの間も、初心者の心を砕いていた。彼に悪気はない。ないのだろうが、強すぎると、どうにもならないことがある。
だから僕とやろう、カケト君。
やだね! ゼウスがそんなすごいんなら、なおさら戦わなくっちゃ損だ!
そんな……!
カケト……! 自分、骨のあるやっちゃなあ、気に入ったで、ホンマ!
地の底から鳴り響くような
恐るべき音響!
あな! これは!?
何であろう……!?
角笛の音だ!
うわ! なんだ!
何だろうね?
また新顔かー?
もしかして……まさか……いや、間違いない……リッターホルン……!
そう!
これはリッターホルン!
ゲルマニア騎士が
出陣の際に吹き鳴らす
独特の角笛だ!
傾聴せよ! トイファイターら!
我が名はラプラス! ラプラス・レールプッター!
私はキティ・ヴォルフスキント・トーテントホター。キティって呼んでね。
我らはゲルマニア帝国が派遣騎士! 傾聴せよ、トイファイター! そしてオネイロイの庭師よ!
偉大にして慈悲深き、狼王陛下マーヤさまは「夢の庭」を世界統一の御大業のため必要としていらっしゃる! ゆえに当地は我々ゲルマニア帝国が接収する! 接収後はトイファイトは禁止! 作戦遂行の邪魔となるがゆえ! わかったな!?
なんだよ、それ! いきなり来て無茶苦茶言ってんじゃねえ! おれは一回もやってないんだぞ! トイファイト!
おのれ小僧……! 帝国騎士たる私にそのような口を利くとは……! 無礼討ちにしてくれる! プルプルンアイゼン!
輝く菫色!
駆けるトイ!
おお! これは……!?
なんと! ポリレールだ!
ファイアビートル!
カケトの命を受け!
疾走する火炎甲虫!
だが遅い!
プルプルンアイゼンを!
阻むこと叶わず!
うわっ!
くくく……思い知ったか小僧……だがもう命乞いには遅すぎる……!
ポリレール
――モーターによって動く、
列車を模したトイである。
レールを敷設した場所しか
満足に走れないため
トイファイトに用いることは
非常にむずかしい!
だがレール上でのスピードは
他のトイの追随を許さぬ!
ファイアビートルが
間に合わなかったのも
無理からぬこと!
だが!
いつの間に
レールを敷いたというのか!?
絶命せよ! 己が無礼を悔いつつな!
驀進するプルプルンアイゼンを
ご覧いただきたい!
そう!
先頭車両の足元だ!
ご覧いただけただろうか!?
プルプルンアイゼンが驀進する
直前にレールが置かれているのだ!
これは尋常の技ではない!
いかに「夢の庭」が
トイの性能を夢幻の域に高める
超常空間とは言えども!
これはトイの性能でなく
適時適所にレールを置く
トイファイターの超絶技量の産物だ!
くそっ! ファイアビートル!
火炎甲虫は菫の鋼鉄の真正面へ!
破砕音! 無惨なり!
ファイアビートルは砕け散った!
何たる殺風速度!
プルプルンアイゼンの
直撃を受ければ命はあるまい!
うわわ、アイスシザース!
無駄だ!
殺風列車に!
破壊されるアイスシザース!
さらにブラススクイドが止めにかかる!
ああ! 無惨なり!
ブラススクイドもまた粉砕さる!
うおぉーっ! ヒスイドラゴン!
主の命を護るため
その身をさらけ出すドラゴヒスイ!
だが!
お前一人では無理なのだ!
悲しきかな弱き者!
何たる暴虐! 何たる殺戮!
上級職業軍人が
無礼なだけの子供を殺すとは!
おお! これが帝国の目指す
世界秩序だというのか!?
ドラゴヒスイ……それに
否!
カケトぞ死なざりける!
プルプルンアイゼンの
殺風速度は失われていた!
必死で列車を止めた
ドラゴヒスイ!
そして協力者!
サンダースワンの力によって!
世界チャンピオン、治天下ゼウスさまのサンダースワンや!
なああんさん、ちょっと大人げなくあらへんか?
なっ……! 私のプルプルンアイゼンを止めるとは!
あらあら。帝国騎士ともあろうものが、こんなボクちゃんさえ殺せないなんて。やっぱりゲルマニアの血が薄いとダメなのねえ。
おのれ……よくも恥をかかせてくれたな! 絶対に殺す……!
まて! 騎士たちよ! むいなあらそいはやめるがよい! 「ゆめのにわ」はあそびのばしょ! いたずらに、うつしよの戦争をもちこむのはよくないぞ!
そういやこのボン、ゲルマニアの王子やった……こういうときはしっかりしとるんやな……。
お黙りあそばせ、オスカー殿下。我らはマーヤ陛下の勅命を受けた身です。邪魔立てするなら、何者といえど排除する権威を与えられています。Verstand?
そんな……だからってころすなんてひどいよ。
Scheiße! お黙りあそばせ! そう言ったでしょうに! 私は二度三度と話をするのは嫌いですわ、殿下。
治天下ゼウス!と、そこの赤い服の無礼な小僧!
呑龍カケトだ!
私は貴様らに決闘を申し込む! この場所にはトイ以外の武器は持ち込めぬため、トイファイトで勝負だ!
人数合わせのため、私も参加しますわ。面倒だけれど。どのみち何十人か粛清しなくては、非ゲルマニア人は接収の意味を解さないでしょうし。
望むところや! なんやなんや! 面白うなってきたやないか! とちゅうでビビったりしたらアカンで~
やってやらあ! プリンプリン安全なんてプリンのふたみたいに捨ててやる!
おのれプルプルンアイゼンさえ愚弄するとは……! 絶対必定確定決断的に! 殺す……!