兵士たちは門を開ける準備を始めた。

――でもあの慌て方は
どういうことなんだろう?
 
 

アレス

通行許可証、
効果があったみたいだね。

ミューリエ

アレスよ、書面を見てみろ。
キリヤの身分を解き明かす
何かが書いてあるはずだ。

アレス

そっか、
署名とか判とかあるはずだもんね。

 
僕は返してもらった通行許可証に
目を落とした。
 
 
 
 

 
 
 
 
 

キリヤ

   ~通行許可証~

この書面を持つ者とその一行に
オヒラ領内のいかなる場所への
立ち入りも認めるものとする。

      キリヤ・アリスト 

 
 
 
 
 

 
 
 

アレス

えっ?
もしかしてキリヤさんは……。

ビセット

はい、キリヤ殿はオヒラ州の
前ご領主様だったようですね。
つまりレビィちゃんは現伯爵様の
ご令嬢ということになります。

アレス

そうだったのか……。

ビセット

おそらくキリヤ殿は
爵位を譲ってからあの牧場で
隠居生活を
なさっているのでしょう。

ミューリエ

キーサスとカノンは
近衛兵という訳か。
一般人にしては動きに
ムダがないと思っていたが、
これで納得した。

タック

――あっ! オイラ、思い出した!

アレス

思い出したって、何をっ?

タック

オイラ、数十年前に試練の洞窟の
巡回をした時に
遺跡でキリヤと会ってる!

タック

あの時とは
姿も印象も違っていたから、
全然気がつかなかった……。

タック

確かあの時、
アイツは領主になるのを
迷っていて
相談に乗ってやったんだ。

シーラ

そういえば、
手紙を受け取っていましたよね?
読んでみてはいかがですか?

タック

そうだな。

 
タックはキリヤさんから受け取った
封筒を取り出し、
それを開封して中を読んだ。

そして時折頷きつつ黙って読んでから、
手紙を折りたたむ。
 
 

タック

――なるほどな。
キリヤはオイラの姿を見て
すぐに誰なのか思い出したらしい。

ビセット

エルフ族は歳を重ねても
そんなに外見が
変わりませんからね。

タック

それで一緒にいるアレスのことを
勇者だと悟ったようだ。
当時、オイラが何者なのかを
話したからな。

シーラ

だから優しく
接してくれたわけですね?

タック

というよりは、
とりあえず
怪しいヤツらではないって感じの
判断をしたみたいだな。

ミューリエ

キリヤも水臭いヤツだな。
それなら身分を隠さず、
全て話してくれれば
良かったものを。

タック

オイラたちの言動を観察して
どんな連中かを
見極めたかったんだろう。
アイツは勇者ご一行って理由だけで
特別扱いするような男じゃない。

シーラ

数十年経てば、
タック様自身も
変わっている可能性が
ありますものね。

タック

そうか? たった数十年じゃ
そんなに変わらないと思うぞ?

ビセット

寿命の長いタック殿にとっては
たった数十年という
感覚なわけですか。

タック

そしてアレスは見事、
キリヤのお眼鏡に
かなったということだな。
オイラへの手紙の中でも
お前に感謝を
伝えておいてくれって
念押しされてるくらいだ。

アレス

そうだったのか……。

タック

やったな、アレス!
将来、もしレビィと結婚すれば
伯爵家に入れるぞ!
キリヤの後ろ盾があるからな!

 
タックはハイテンションで
僕の肩をバシバシと叩いた。

力が入りすぎていて、ちょっと痛い……。
 
 

アレス

…………。

アレス

僕は地位や財産が目的で
レビィちゃんと
結婚する気はないよ。
それに彼女はまだ子どもだから、
軽い気持ちでの約束かもしれない。

タック

ん~、まぁな~。
それは否定しないけどさ~。

アレス

もちろん、あの約束が本気で、
これからもずっと
その気持ちが変わらないなら
真摯に対応するつもりだよ。

シーラ

…………。

アレス

だけど僕だってこの先、
誰かを好きになるかもしれない。
その時はきちんと断るさ。

アレス

あの約束は大人になった時、
お互いに好きな人が
いなかったらって条件だからね。

タック

オイラ、
断るのは
勿体ない気がするけどな~。
あの子、
将来きっと美人になるぞ?

タック

それとも気になっているヤツが
いるのか~?

アレス

っ!

アレス

い、いないよぉ!

ビセット

ふぅっ、良かったぁ!

タック

ビセット、お前は黙ってろ。
いつもいつもツッコミをさせるな。

ビセット

タック殿、妬いてるんですか?

タック

なんでだよっ?
そんなわけがあるかっ!

シーラ

――あのっ!
ア、アレス様はミューリエ様が
好きなのではないのですかっ?

 
シーラは思い詰めたような顔をして、
声を上擦らせながら叫んだ。
そして唇を噛み、
真っ直ぐに僕を見つめている。

どうしたんだろう?
体が少し震えているみたいだけど?
 
 

ミューリエ

シーラ……。

タック

アレス、どうなんだ?

アレス

……うん、好きだよ。

シーラ

……っ……。

アレス

でもそれは憧れというか
尊敬に近い気持ちかな。
師匠とかお姉さんって感じに
思ってる。
だから恋愛対象とは考えられない。

シーラ

っ!

シーラ

そ、そうだったんですか……。

アレス

むしろ僕が
気になっているのは……。

ミューリエ

シーラよ、
私だってアレスに対して
恋愛感情など持っていない。

ミューリエ

命を賭けて守りたいと
思えるくらい、
大切な仲間には違いないがな。

タック

オイラの方がお前より
アレスのことを
大切に思ってるけどな~♪

ビセット

私だってアレス様のこと
大好きですっ!!

アレス

みんなからそう言われるのは
嬉しいけど、
なんか照れちゃうな。

兵士A

――皆様、準備が整いました。
どうぞ、お通りください。

タック

よ~し、行こうぜ~☆

 
兵士に声をかけられた僕たちは、
開けられた門へと歩を進めた。
真顔で門の横に整列している
彼らの前を通るので、
僕は恐縮してしまったけど……。


こうして無事に門を抜けた僕たちは、
ゲートのある遺跡へと歩いていったのだった。


――第4の試練の洞窟はもうすぐだ。
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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