兵士たちは門を開ける準備を始めた。
――でもあの慌て方は
どういうことなんだろう?
兵士たちは門を開ける準備を始めた。
――でもあの慌て方は
どういうことなんだろう?
通行許可証、
効果があったみたいだね。
アレスよ、書面を見てみろ。
キリヤの身分を解き明かす
何かが書いてあるはずだ。
そっか、
署名とか判とかあるはずだもんね。
僕は返してもらった通行許可証に
目を落とした。
~通行許可証~
この書面を持つ者とその一行に
オヒラ領内のいかなる場所への
立ち入りも認めるものとする。
キリヤ・アリスト
えっ?
もしかしてキリヤさんは……。
はい、キリヤ殿はオヒラ州の
前ご領主様だったようですね。
つまりレビィちゃんは現伯爵様の
ご令嬢ということになります。
そうだったのか……。
おそらくキリヤ殿は
爵位を譲ってからあの牧場で
隠居生活を
なさっているのでしょう。
キーサスとカノンは
近衛兵という訳か。
一般人にしては動きに
ムダがないと思っていたが、
これで納得した。
――あっ! オイラ、思い出した!
思い出したって、何をっ?
オイラ、数十年前に試練の洞窟の
巡回をした時に
遺跡でキリヤと会ってる!
あの時とは
姿も印象も違っていたから、
全然気がつかなかった……。
確かあの時、
アイツは領主になるのを
迷っていて
相談に乗ってやったんだ。
そういえば、
手紙を受け取っていましたよね?
読んでみてはいかがですか?
そうだな。
タックはキリヤさんから受け取った
封筒を取り出し、
それを開封して中を読んだ。
そして時折頷きつつ黙って読んでから、
手紙を折りたたむ。
――なるほどな。
キリヤはオイラの姿を見て
すぐに誰なのか思い出したらしい。
エルフ族は歳を重ねても
そんなに外見が
変わりませんからね。
それで一緒にいるアレスのことを
勇者だと悟ったようだ。
当時、オイラが何者なのかを
話したからな。
だから優しく
接してくれたわけですね?
というよりは、
とりあえず
怪しいヤツらではないって感じの
判断をしたみたいだな。
キリヤも水臭いヤツだな。
それなら身分を隠さず、
全て話してくれれば
良かったものを。
オイラたちの言動を観察して
どんな連中かを
見極めたかったんだろう。
アイツは勇者ご一行って理由だけで
特別扱いするような男じゃない。
数十年経てば、
タック様自身も
変わっている可能性が
ありますものね。
そうか? たった数十年じゃ
そんなに変わらないと思うぞ?
寿命の長いタック殿にとっては
たった数十年という
感覚なわけですか。
そしてアレスは見事、
キリヤのお眼鏡に
かなったということだな。
オイラへの手紙の中でも
お前に感謝を
伝えておいてくれって
念押しされてるくらいだ。
そうだったのか……。
やったな、アレス!
将来、もしレビィと結婚すれば
伯爵家に入れるぞ!
キリヤの後ろ盾があるからな!
タックはハイテンションで
僕の肩をバシバシと叩いた。
力が入りすぎていて、ちょっと痛い……。
…………。
僕は地位や財産が目的で
レビィちゃんと
結婚する気はないよ。
それに彼女はまだ子どもだから、
軽い気持ちでの約束かもしれない。
ん~、まぁな~。
それは否定しないけどさ~。
もちろん、あの約束が本気で、
これからもずっと
その気持ちが変わらないなら
真摯に対応するつもりだよ。
…………。
だけど僕だってこの先、
誰かを好きになるかもしれない。
その時はきちんと断るさ。
あの約束は大人になった時、
お互いに好きな人が
いなかったらって条件だからね。
オイラ、
断るのは
勿体ない気がするけどな~。
あの子、
将来きっと美人になるぞ?
それとも気になっているヤツが
いるのか~?
っ!
い、いないよぉ!
ふぅっ、良かったぁ!
ビセット、お前は黙ってろ。
いつもいつもツッコミをさせるな。
タック殿、妬いてるんですか?
なんでだよっ?
そんなわけがあるかっ!
――あのっ!
ア、アレス様はミューリエ様が
好きなのではないのですかっ?
シーラは思い詰めたような顔をして、
声を上擦らせながら叫んだ。
そして唇を噛み、
真っ直ぐに僕を見つめている。
どうしたんだろう?
体が少し震えているみたいだけど?
シーラ……。
アレス、どうなんだ?
……うん、好きだよ。
……っ……。
でもそれは憧れというか
尊敬に近い気持ちかな。
師匠とかお姉さんって感じに
思ってる。
だから恋愛対象とは考えられない。
っ!
そ、そうだったんですか……。
むしろ僕が
気になっているのは……。
シーラよ、
私だってアレスに対して
恋愛感情など持っていない。
命を賭けて守りたいと
思えるくらい、
大切な仲間には違いないがな。
オイラの方がお前より
アレスのことを
大切に思ってるけどな~♪
私だってアレス様のこと
大好きですっ!!
みんなからそう言われるのは
嬉しいけど、
なんか照れちゃうな。
――皆様、準備が整いました。
どうぞ、お通りください。
よ~し、行こうぜ~☆
兵士に声をかけられた僕たちは、
開けられた門へと歩を進めた。
真顔で門の横に整列している
彼らの前を通るので、
僕は恐縮してしまったけど……。
こうして無事に門を抜けた僕たちは、
ゲートのある遺跡へと歩いていったのだった。
――第4の試練の洞窟はもうすぐだ。
次回へ続く!