牧場を出てさらに2日ほど歩くと、
ようやくオヒラの城下町へ到着した。
ゲートがあるのは、
さらに1日ほど進んだ場所にある
遺跡の中らしい。
町の中では
いたるところで兵士や傭兵の姿が見られ、
空気がピリピリとしている。
少しでも彼らの気に障るようであれば、
トラブルになりかねない状態だ。
一般国民たちはその空気を
肌で感じとっているようで、
目を合わせないようにしつつ、
目立たないように道の隅を小さくなって
歩いていた。
牧場を出てさらに2日ほど歩くと、
ようやくオヒラの城下町へ到着した。
ゲートがあるのは、
さらに1日ほど進んだ場所にある
遺跡の中らしい。
町の中では
いたるところで兵士や傭兵の姿が見られ、
空気がピリピリとしている。
少しでも彼らの気に障るようであれば、
トラブルになりかねない状態だ。
一般国民たちはその空気を
肌で感じとっているようで、
目を合わせないようにしつつ、
目立たないように道の隅を小さくなって
歩いていた。
なんか息が詰まりそうだね。
はい、私もそう思います……。
タック様、
オヒラ州はマウル連邦内でも
静かな方なんですよね?
そうだ。
つまりマウルの城下町は
ここ以上にピリピリしてるって
ことだろうな。
オイラもここまで
キナ臭くなっているとは
思わなかったぜ。
この感じですと、
レビィちゃんが牧場へ避難したのも
分かるような気がします。
どうやらここに
長居は無用のようだな。
必要なものを買い揃えたら、
さっさと出発しよう。
あぁ、それがいいな。
買い出しはオイラとビセットで
行ってくる。
ミューリエには
アレスとシーラのことを任せるぞ。
承知した。
2人とも、気をつけてね。
おうっ♪
お任せあ――うわっ!
その時、
ビセットさんは後ろから歩いてきた兵士と
ぶつかってしまった。
その人はちょっと強面で、
眉をつり上げている。
ぶつかってきたのは相手側だとはいえ、
これはちょっとマズイ雰囲気かも……。
貴様っ、
ぶつかってくるとは
どういうつもりだ?
それは言いがかりというもの。
ぶつかってきたのは
あなたの方ではないですか。
何だと? 俺に逆らうつもりか?
あはははっ!
すみません、
コイツはバカなものですから、
どうかお許しください~☆
タックはペコペコしながら、
兵士の手にさりげなく金貨1枚を握らせた。
すると兵士は手の中身をチラリと見て
確認すると、
黙ってそれを懐の中に収めた。
そして軽く咳払いをしてから
タックを見下ろす。
まぁ、今回だけは見逃してやる。
今後は周囲に注意することだな。
はい~、
そういたしますです~。
兵士はその場から立ち去った。
その姿が見えなくなると、
タックはビセットさんの頭を思いっきり叩く。
バカ野郎!
騒ぎになったらどうするんだ!
うぅ、面目ないです……。
でも私は悪くないですよねっ?
ねっ? アレス様っ?
そうなんですけど、
タックの言うように
騒ぎになるのもマズイですよ。
こんな調子では、
住民の皆さんは大変でしょうね。
だろうな……。
んじゃ、
さっさと買い出しを済ませよう。
行くぞ、ビセット。
こうしてタックとビセットさんは
買い出しへ出かけた。
僕たちは近くの広場で
2人が戻ってくるのを待ち、
1時間後には
オヒラの城下町を出発したのだった。
その後、オヒラ旧街道を半日ほど進み、
道が2方向に分かれている場所へ
差しかかった。
右へ行けば峠越えでコーナ州へ向かうルート、
左が僕たちの目指している
遺跡へ続くルートだ。
だが、その左の道はなぜか兵士たちによって
封鎖されている。
木製の巨大な門が道に立ち塞がり、
左右は先が見えないくらい遠くまで
高い柵が続く。
あの、お訊ねしますが、
こちらの道は通れないんですか?
そうだ。この先はオヒラ州を治める
アリスト伯爵家の別荘がある。
民間人は立ち入り禁止だ。
でも以前は自由に行き来が
出来ていたと思うのですが~?
それは数年前までの話だ。
前アリスト伯爵が
ご子息である現アリスト伯爵へ
爵位をお譲りになった際、
民間人はここから先に
入れない決まりに
あらためられたのだ。
では遺跡には行けないのですか?
遺跡だと?
なんだ、貴様らは観光客か。
こんなゴタゴタしている時期に
のんきなものだ。
許可がない限り、
通ることは出来ん。
諦めるんだな。
困ったなぁ……。
するとシーラが僕に近寄ってきて、
耳打ちをする。
アレス様、
キリヤ様からいただいた
通行許可証を
見せてはいかがですか?
あっ! その手があったね。
でもここはオヒラ州のご領主が
直轄している場所なんだよね?
キリヤさんの通行許可証が
通用するかな?
ダメで元々です。
とりあえず、見せてみましょう。
そうだね。
僕は懐の中から通行許可証の入った封筒を
取り出した。
それを見張りの兵士の前へ差し出す。
なんだ、これは?
通行許可証です。
これで通していただけませんか?
通行許可証だと?
兵士の1人は僕から封筒を受け取ると、
その外見を訝しげに眺めていた。
ただ、封蝋の紋章を見た瞬間、
目を白黒させる。
こっ、これはっ!
少年、これをどこで手に入れた?
まさか盗んだものではあるまいな?
えっ?
僕たちを疑ってるんですか?
そう問いかけると、
兵士たちは顔を真っ青にしながら
慌てて首を横に激しく振った。
額には汗が滲み、
引きつった笑みを浮かべている。
どうしたんだろう、この態度の変わり様は?
い、いやっ!
そうではございません!
し、失礼いたしましたっ!
確認のために
お訊ねしたいのですっ!
なんだ、こいつら?
急に丁寧な言葉遣いになったぞ?
やはりあの通行許可証には
何かあるのかもしれませんね。
その通行許可証は、
ここから3日ほど
街道を歩いていった先の
牧場主さんにいただいたものです。
っ!?
ち、ちなみに
その牧場主様のお名前は?
キリヤさんという人です。
一緒にいたのは
キーサスさんとカノンさん。
それとレビィちゃんです。
アレスはレビィと仲良くなって、
結婚の約束までしたしな~☆
タック、
余計なことは言わないでよぉ……。
兵士たちはギョッとしながら
顔を見合わせていた。
唾をゴクリと飲み込み、唇を振るわせている。
そして震える手で封筒を開け、
中に入っていた書面に目を通した。
――ヒィッ!
し、失礼いたしましたっ!
どうぞお通りくださいっ!
だが、門が閉じられたままでは
通れんぞ?
そそそ、そうでございましたっ!
すぐに開けますので、
少々お待ちくださいぃっ!
ででで、
ではこちらはお返しいたします。
なにとぞ、
ご無礼をお許しくださいませ!
兵士たちは門の向こう側にある
詰所に向かって叫び、
やってきた何人かの兵士に小声で
何かを話していた。
するとその全員が一様に息を呑み、
即座に門を開ける準備を始める。
かなり慌てているようで、
手元が狂ったり転んだりしているのが
見受けられる。
――そこまで効力があるなんて、
この通行許可証には
どんな秘密があるんだろう?
次回へ続く!