ー勇者の家ー
ー勇者の家ー
魔法、魔物、魔王……。
これらに使われている『魔』とは
どんな意味か考えたことはあるか?
突如始まった
ソルフェさんのクイズタイム。
生徒二人はなんと答えるでしょうか?
召喚士シーラ
えーっと…
改まって考えたことは無いです。
まぁ、それが普通だ。
では、『魔』とはどういう意味だと思う?
悪いことだろ!
即答のポメラさん。
スピード命です。
んー…。
何か悪いことの意味…としちゃうと
魔法は悪いことになっちゃいますよね…。
…ぐっ
そうだな。
やはりシーラは思慮深いな。
好きだぞ、そういうところ。
え…
(・∀・)ニヤニヤ
何かを想像してニヤけるポメラさん。
言っておくが、変な意味ではないぞ。
あと、ポメラのそのストレートな
ところも好きだから安心しろ。
…え…あ…いやぁ~
照れるなぁ…
思わぬブーメランです。
ええと…魔とは、不思議な物、
みたいな意味ですかね?
話題を変えたいシーラさん。
そうだな、ニュアンス的には
そんなところだ。
『魔』とは
『名づけた側にとって理解しがたいもの』
と私は定義している。
俺からしたら、魔法使いなんて
存在そのものが理解し難いしな。
意味もなく悪態をつくポメラさん。
…む。
ちょっと、ポメラ…。
誤答の罰として、ポメラには
速度の制約を与える。
ソルフェさんの指先から光のような物が
ポメラさんの足に放たれ、
ポメラさんの両足に
くるり、と絡みつきます。
うぉぉ!足重っ!
行動阻害の呪詛だ。
足に通常時の10倍の
負荷がかかっておる。
えっ…?
しれっと、酷いお仕置きをするソルフェさんに
シーラさんは戦慄します。
ところがどっこい、
そこはさすがのポメラさん。
こんな作り物の重さなんかにゃ
負けないぜ!
うおりゃーー!!!!
わははははー!
呪詛に抗うポメラさん。
部屋中を走り回ります。
トレーニングの手助けでしかないな。
我から見ればポメラの方が理解し難い。
この筋トレ魔め。
あははは…
乾いた笑いをするシーラさん
さて、お仕置きはさておき…。
先ほどの話の裏を返せば
『理解が進めば魔ではなくなる』
ということでもある。
俺はソルフェの良き理解者だぜ!
例えば、今現在魔法と呼ばれている物も
体系だった研究が進み
万人に理解可能な書物を作ることができたら
それはおそらく魔法と呼ばれなくなり
別の名前がつくだろう。
錬金術などがいい例だ。
昔はアレも魔法として扱われていた。
へぇ…そうなんですね…。
魔物も魔物側にとって見れば
自分らはただの生物…。
異形であったり、生態系が不明であり
理解できない価値観であったり
制御不能であるから我々人間は
魔物としているだけ。
あ…。
ある程度研究が進み
彼らの存在意義や考え方が
それなりにわかれば
獣や妖怪、悪魔などに分類される。
まぁ、悪魔なんかはわかっていることが
『好む思考が我々人間にとって悪事である』
という点だけで分類されてしまうがな。
そして
一呼吸置くソルフェさん。
同様に、魔王も
その創ろうとする世界の思想や価値観が
我々にとって理解し難い…
…理解し合えない存在の王が故に
魔王なのだ。
…私…これまで…
そんなこと考えたりもしませんでした…。
ソルフェージュ様は
もう少し魔王の気持ちを
考えてみた方が良い、
という事が言いたいのですね?
いや、それは少し違う。
…え?
そもそもの思考が違えば
価値観も違うのだから、
それに合わせてしまうと
自分自身が破綻してしまう。
勇者が魔王の価値観を理解したら
魔王を倒せなくなっちゃうぜ!
私が言いたいのはだな…
お互いに違う存在であり
お互いの正義があるという事だ。
…シーラよ。
そなたがこの先に
対魔関係で悩んだことがあれば、
この考えに立ち戻ると良いだろう。
はい!
さて、では契約プロセスの話に戻ろう。
召喚の契約プロセスは、
基本中の基本でありながら
詳細を理解していないと
命取りになる。
…ごくり。
まず大きく分けて
無名《むみょう》契約と
有名《ゆうみょう》契約がある。
これはスクワイアに対して
名を授けるか否かなのだが…
名を授けることによって
マスターとスクワイアの関連付けの
強度が変わってくるのだ。
お名前で…?
まず、無名契約。
これは召喚後おおよそ1日が
有効な契約期間だ。
期間超過時の契約の解除は自然に行われ
超過ペナルティ等は無い。
大抵は役目が終わったら契約完了となる。
この前喚んだワイルドウィンドさんは
お名前付けなかったからこれね。
次に、有名契約の内の名縛法だ。
めいばく…ほう?
名縛法は呼称のみで名を授けた場合が
それにあたる。
有効な契約期間は、
契約後三度の日の出を迎えるまで、
解除はお互いの同意で解除される。
だが、名縛法は恐ろしいリスクを
はらんでおる。
そのリスクとは…なんですか?
解除せずに契約期間を超過した場合、
名縛反魂が発生する。
めいばくはんごん?
スクワイアとマスターの関係が
入れ替わってしまうのだ。
ええ!?
そして、この点を改良して作られたのが
有名契約の内の名縛心法だ。
名縛心法は呼称に加えて
何らかの書類に記名をする事で契約する。
その有効期間は無期限となる。
故に名縛反魂は発生しない。
記名する書類というのは
何でも良いのですか?
マスターの自筆であれば何でも良い。
但し、扱いには注意しろ。
なぜなら、解除の際にはその書類に
解除の旨を記載する必要があるのだ。
俺達の仲間だった召喚師は
その辺が面倒くさくて
いっつも無名だったな。
そう言えば、ライルには名札を
付けてあげてたわね…。
あれで名縛心法で契約したことに
なってたのかしら…。
この前の狐を見る限り
本能的に『有名契約』を使っていたようだが
名縛法と名縛反魂は知らなかっただろう?
はい…。
いつも頭の中にお名前が浮かぶので
スクワイアをそのお名前で呼んでました。
それが名縛法と言うものだったなんて…。
あ…そういえば…
イナリは名縛法で契約してるけど、
もうすぐ3度目の日の出を迎えちゃう…
でも、行方がわからないし…
どうしよう…。
聞いてみようかしら…。
あ、あのー…
ソルフェージュ様。
どうした?
質問か?
行方がわからなくなったスクワイアって
どうやったら探せますか?
基本的にスクワイアが
勝手に行動することはない。
有名契約ともなればなおさらだ。
ただ、何らかの理由で
行動不能になった場合は
帰還しないこともある。
その場合は再度召喚を行えば
呼び寄せることが出来る。
名縛で使用した名を呼ぶ必要はあるがな。
だが、呼び寄せることが出来ない例外も
二つある。
…例外…。
一つ。
スクワイアが死んでいる場合。
これはいいだろ。
説明は省こう。
二つ。
召喚譲渡が行われた場合。
…召喚…譲渡?
召喚譲渡まで話すと長くなるからな。
その話はまた今度しよう。
シーラよ、この質問をしたという事は
行方不明のスクワイアがいるという事だな?
はい。先日呼び出した
ワイズ・フォックスのイナリが
昨日から行方不明で…。
あのキツネか!
ヤツは賢く悪知恵も働く
上級スクワイアだ。
名縛法や名縛反魂も心得ており
よく契約事故をおこす種として有名だ。
うぅ…どうしましょ…。
とりあえず、今すぐ再召喚してみるのだ。
はい!
お、召喚か?
遙かなる東方の神の使いよ。
知恵と知識の探求者よ。
その力、我にも貸し給へ。
いでよ、イナリ!
…現れないな。
どうしたんだろう…。
ふぅむ…。
ともかく、
名縛反魂の危機はなさそうなので
それは安心しておけ。
…はい。
* * *
さて、一通り基本は教えたので、
これより就職の儀を行う。
心の準備は良いか、シーラ?
はい、ソルフェージュ様。
ソルフェさんは懐から
書物を取り出し
シーラさんの前に立ちます。
アルザレアの召喚の父
クロノスの名において
ここに、
召喚士シーラの誕生を
宣言する!
パァッ!
シーラさんの周りが
淡く光ったような気がしました。
シーラ、おめでとう!
ようやく無職じゃなくなったな!
ありがとう、ポメラ。
一方、浮かない顔のソルフェージュさん。
私の思いすごしであれば良いのだが…。
願わくばシーラの行く先に
さちあらんことを…。
つづく
【勇者勇の装備】
レベル :7
めいせい :205
ぶき :新品の短剣
よろい :鋼鉄のよろい
かぶと :いつもの額当て
たて :なし
どうぐ :ファンガスの切り身(黄)
野ばらのペンダント
焼豚×2
焼きとり×3
なかま :
とくぎ :ファイアブレス
じょうたい:ツギノへ向かった模様
【シーラの装備】
レベル :1
めいせい :100
ぶき :いつもの本
よろい :いつもの服
かぶと :いつもの飾り
たて :なし
どうぐ :
なかま :戦士ポメラ・大魔導ソルフェージュ
とくぎ :野良しょうかん
じょうたい:新入召喚士