【第十話 】
『担いで』
【第十話 】
『担いで』
そうか・・・鳴海ちゃん。キミも行ってしまうか
はい。マスターにはお世話になりました
鳴海の言葉にマスターは大きく首を振り答えた。
私も一緒に働いて助かりもしたし、何より楽しかったよ。世話になったのは私の方だ
ごめんなさい。私の事、何も聞かずにずっと置いてくれて・・・
日は暮れて、遠くからは車の音が聞こえ、近くでは流れる水の音と焚火の音がパチパチと聞こえ、トキオは眼を覚ました。
上着とマフラーは焚火の近くに乱雑に置かれ、手錠で繋いでいた筈のアタッシュケースは側に置かれていた。
身体には法則も規則性もない巻き方で包帯が巻かれていた。
辺りは暗く、ここは下水道の様だった。
起きた?
声をかけたのは寺島鳴海だった。
何でお前がいる?
それが、助けてくれた相手に言う台詞?
トキオは自分の身体に乱雑に巻かれている包帯を指差し言う。
コレが?『助ける』?
そうだ。それと、アレもだ
鳴海は、焚火の方を顎で指し示す。そこには相変わらず、パチパチと音を立てて燃え盛る炎と―――トキオの上着が―――
焦げてんじゃん!!
二人は向かい合って座っていたが、その間には微妙な空気が流れた。
先程と違うのは、炎の勢いが弱まった事と、トキオの上着が離されて置かれている事。
・・・まぁ。親父さんのマフラーが無事だっただけでも有り難く思うんだな
お前、どんな悪党だ
・・・・・・
さすがに、鳴海も黙った。多少なりとも悪気は感じているのが分かり、トキオは少しホッとした。
ってか、どうやって俺をココまで運んだんだよ?
・・・担いで
馬鹿力か?
本当だから仕方ない
手錠も…お前が壊したってのか?
ちぎった
ヘンな奴だなお前
それだけ言うとトキオは立ち上がろうとするが、まだ上手く立てない。
鳴海は立ち上がり言う。
寝てろ。見張りは私がするから
はぁ?見張りって・・・そんな事、頼めねぇよ。警察も、たぶんUC-SFも俺の事追ってるし・・・
でも今の身体じゃ、どのみち戦えないし、逃げる事もできない
お前なら戦えるってか?
・・・戦える
真剣な表情で、睨みつける鳴海の瞳は冗談などではなく正しく本物だった。決して確信の無い闇雲な返答ではなく確たる自信からくる返答である事が伺えた。
何も聞かずか・・・
本当はマスターと一緒に働いてたいけど―――私
マスターはそっと、鳴海の肩に手を置き、いつもと変わらぬ優しい表情で言った。
鳴海ちゃん・・・私は分かってたよ。こんな日がいつか来る事も、なんとなくキミの事もね。トキオ君の話を聞いて手伝えると思ったんだよね
マスターはそのまま鳴海を強く抱き締め言葉を続ける。
だから、戦いが終わったら帰っておいで。ココがキミの家で、キミは私の娘なのだから
長い沈黙の後、鳴海は叫んだ。
私はもう逃げたくないんだ。戦うと決めたアンタと私は一緒に戦う!そして本当に幸せに暮らす。暮らして見せる!この力で―――
鳴海の胸の辺りが突然光りを放ち、一瞬にして鳴海は光りに包まれ、直ぐに光が弾ける。そこに鳴海の姿は無く、あるのは金色に輝く戦士の姿。
お、オメ・・・ガ・・・オメガなのか
分かったら、ゆっくり休め。いいな
直ぐに鳴海は元の身体に戻り、その場に座る。
ビックリした・・・
そうか?私はアンタの回復力に驚きだ。そんなに包帯が役に立ったか?
いや、この回復は『メディカル・アーム』俺の右腕の力さ。そもそも包帯だけじゃ、どーにもなんねぇ。しかも、これだけ雑だと邪魔としか言いようがねぇて
なっ!?何を言うか!
少し照れながら怒る鳴海にトキオは手を指し出す。
七星時生。アンタって呼ぶのは止めてトキオで、よろすく
指し出された手を鳴海は軽く握る。
寺島鳴海・・・と、と、とりあえず寺島さんと呼べ
おう!よろすくな!鳴海
・・・いや、だから・・・
その後トキオは無理やり手を離され、ほとんど口も聞いてもらえず眠るしかなかった。