カプリチョーザ
イタリア語で「気まぐれ」の意味。なのでお店にこのメニューがあれば店長の気まぐれな一枚ととらえて注文すべきである。


誰にでも、実際そんなに仲良くは無かったけど

すごいファンになってしまうクラスメイトというのが

一人や二人いたのではないだろうか。


今回紹介するのは高校生二、三年生の時、

ずっと隣の席にいたカプリチョーザくんである。


自慢ではないけど、

県でナンバーワン進学校に入った僕は

担任曰く

先生

お前らは学校創立100年以来の大馬鹿野郎どもだ


といわれるクラスに入っていた。

事実、卒業後の大学進学率が著しく低かったのを

よく覚えている。


その中でも特にクラスの偏差値を

先陣切って真下に牽引していたのは

隣の席のカプリ君だったと断言できる。

彼は中学時代、

サッカーで東北選抜に選ばれた実績を活かした

スポーツ推薦で本校に入学したのはいいものの

素行不良、煙草で停学、腰痛で欠場を繰り返すなど

今季のソフトバンクの松坂大輔並に

期待はずれな学生だったといえる。

言うまでもなく勉強は全く出来なかった。

典型的なマークシートの時だけ

ちょっとやる気になるタイプの人間。


でもそれはあくまで学校側から見た評価の話であって

彼はとにかく陽気で魅力的であった。


今も残っているのかはわからないが

彼の実家は自動車整備工場を営んでいて

その従業員用ジャンパーはイケない台湾のお土産的な

血色の悪い太ったミッキーマウスみたいな

イラストを採用していた。


それが昨今のオリンピック佐野氏ロゴ問題のように

クラス内でパクリかオリジナルか

という論議が勃発した事がある。

ピッツァ

パクリだろ!カプリくん、しかもそれは一番やっちゃいけないトコの奴だよ

カプリくん

うるせえよ!オリジナルだよ!そんなに文句言うならお前らにやらねえから

ピッツァ

え、くれるの?


結局クラス一同カプリくんに謝罪して

みんな偽ミッキーのパーカーをもらった

はずなのだけれど何故か自分だけもらえなかった。

理由は未だによく覚えていない。


京都、奈良、大阪方面の修学旅行で同じ班だったのだが

カプリくん

大阪に行きたいレコード屋があるから班行動は適当に参加しておいた事にしといてくんね?


とヘッドフォンつけながらどこかに消えてしまったし

とにかくタバコで停学していたので

隣席だった僕に授業の番が回ってくるのが

早くてやや迷惑していた。


ある家庭訪問が終わった後でカプリくんが

カプリくん

先生。俺の母ちゃんに何かしたろ?

先生

何がだ?

カプリくん

先生が家庭訪問に来てから妙に良い匂いすんだよ。先生、母ちゃん抱いたろ?最近、ウチも家計がピンチで晩飯のおかず一品減ったからな。んで、いくら握らせたのよ?

その瞬間クラス中が大爆笑の渦だったが

先生が教科書の角で本気でカプリ君の事を殴った


という物凄い音で一気に凪いだのを

今でもよく覚えている。

それでも隣席の僕のアングルからはカプリ君の

“クラスの爆笑取ってやったぞ”

的な不屈な笑みのアップが覗けてぞっとした。


そんな悪びれた様子の無いカプリ君の心根を察したのか

担任の老英語教師が不意に

先生

san of a bitch!(サノバビッチ→娼婦の子供→このクソガキが、の意)

とシャレが効き過ぎて教師失格レベルの

スラングを言われたわけだが

県下一の進学校といえど

学校始まって以来の記録的バカクラスだった僕らに

一発でそれがわかる生徒がいなかったので

先生は黒板にスペルと意味を書いて教えてくれた。

高校生活で最も刺激的な英語の授業だった。


それから風の噂では




ファッション誌の素人枠で写真を撮られていたよ


東京でDJやってるらしい


アパレルの店員をやってるらしい


などなどたくさんの目撃情報があったようだが

当の本人に僕は高校卒業以来あった事が無い。

どれも本当のように聞こえるし嘘のようにも思える。

だってカプリ君はなんでもありの

気まぐれな人間なのだから。






ただ間違いなくサッカーはしていないだろうな

というのは断言できる。

La fine

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