第13話「恐怖のイベント夏祭り」(後編)











 前回のあらすじ。
 わたしたちは168時間、
 握手会をすることになりました。



 というわけで、イベント三日目です。
 ついに、はなびさんがキレました。

やってらんないわよおおおおおおおおお!


 テントの中。頭を抱えながら叫ぶはなびさん。
 もはや絶叫です。

なんなの!?
なんであたしたち、
こんな軟禁みたいになってんの!?
七日連続握手会は、まだわかるわよ!
でも仮設シャワーに、
神社のお手洗いを借りて!
なんでテントで暮らしているの!?
これがアイドルのやることなの!?


 叫ぶはなびさんに、誰もが目を合わせません。
 そう、余計な体力を、
 使いたくないと思っているのです。

 わたしたちは交代交代で休みながら、
 三日間、立ちっぱなし握手会をしていました。
 狂気の沙汰です……。

ねえ、芦原!

ぎくう


 捕まりました。

あんただって寮に帰りたいでしょ!
ねえ、帰りたいでしょ!?

帰りたいですけど~


 困った顔で辺りを見回しますが、
 誰も助けてくれなさそうです。

さーって、またあくしゅ、がんばるぞー

あっ、ミミタンまで目を逸らしました!


 それよりも、はなびさんに、
 首根っこを掴まれて苦しいのです。

だったらプロデューサーに直訴するわよ!
こんなふざけたイベントやめたいって!

そう言っても、
あれからプロデューサー、
こないじゃないですかあ

そうなのよ! それもおかしいわよ!
なんで二日目から、
プロデューサーがいないのよ!
なんなのよこの極限状況!


 はなびさんが指差した先には、
 延々と握手待ちのファンが列を作っていました。

どうして168時間連続で握手会して、
168時間連続でお客さんが来るのよ!

それはぁ……


 ――イベントだから。

 わたしは喉元まで出かかった言葉を引っこめました。

 そう、これはあくまでも、
 ソーシャルゲームのイベントなので、
 現実との整合性なんて、
 あってないようなものなんです。

 朝も昼も夜も、
 わたしたちは握手を続けています。

うう、もう屋台を、
全部制覇しちゃうわよ……
手も腫れちゃうし……


 ふーふーと手のひらに息を吹きかけながら、
 はなびさんは徐々に涙目になってゆきます。

 はなびさん、割とメンタル弱いんです。

あ、あの、わたし、
休憩代わってきますね

うう


 こうして、三日目が始まります……。





ずっとずっと前からファンです!
きょうもすごく可愛いっすね

ありがとうございます

ずっとずっと前からファンです!
きょうもすごく可愛いっすね

ありがとうございます

ずっとずっと前からファンです!
きょうもすごく可愛いっすね


 もはや三春さんも死んだ目です。
 どっちがモブかわからない感じです。

 そうなんです。
 ファンの方はひたすら、
 同じセリフしか喋っていませんし。
 ……ものすごいNPC感です。

 そんな中、
 がんばって笑顔を返している人がいます。

ずっとずっと前からファンです!
きょうもすごく可愛いっすね

はい、ありがとうございます!
私、がんばりますね!


 そうです、白雪瑠璃ちゃんです。

瑠璃ちゃん、休憩代わるよー

あっ、愛子センパイ!
はい、でも私、まだ大丈夫です!
なんだか楽しいんです!


 不眠不休で握手を続ける瑠璃ちゃんは、
 目の下にクマを作りながら笑います。

こんな新米の私に、こんなにたくさんのファンの方が会いに来てくれて、
私、もっともっとがんばらなきゃって思いました!
愛子センパイにもたくさん迷惑をかけて、
ごめんなさい!
私もっともっとがんばりますね!

そっかー! 瑠璃ちゃん、
アイドルに目覚めたんだね!
がんばってね!


 わたしは笑顔で瑠璃ちゃんを応援します。

三徹明けで、頭がおかしなことになっているだけだと思うわ


 実はわたしもそう思います。










 四日目、
 五日目、
 六日目、
 七日目……と、
 わたしたちは、ゾンビ状態のまま握手を続けます。

シルクもうだめですぅ……

……ボクも燃料切れ~……


 ひとり、またひとりと倒れてゆき、
 テントの中に引きこもってゆくアイドルたち。
 正直わたしも倒れたかったのですが、
 でも体だけは丈夫なんですよね。

 そんな中、瑠璃ちゃんは、
 いまだ笑顔で握手を交わしていました。

もう表情筋が固まっちゃって、
笑顔しかできないんです!


 それ大丈夫なの……。

 みんなが心配そうに見つめる中、
 しかし瑠璃ちゃんは力こぶを作ります。

私、アイドルのこと舐めてました!
これがアイドルなんですね!
生きるか死ぬの瀬戸際で私、
ようやく理解しました!
アイドルとは笑うことと見つけたり、です!

もう大丈夫じゃなさそうだわ

そうですね!

なんでですか!?


 最終日前、瑠璃ちゃんに、
 わたしたちはセンパイストップをかけました。

 テントで一日療養してもらいましょう。











 そしていよいよ、最後の日、
 ――八日目が始まります。

 日付が回って真夜中、
 わたしは気合を入れ直します。

よーし、がんばりますよー

元気だねえ、愛ちゃん……

まあ丈夫さと笑顔だけが取り柄だからねー

初めてあなたのこと、尊敬したわ……


 ボロボロのアイドルたちの中、わたしは微笑みます。

もう正直両手は腫れて、
感覚とか全然なくなっちゃったけど、
でもがんばります、わたし


 こんな真夜中にライトアップされた握手会場と、
 集まっているファンを眺めながら。

わたし、ずっとずっと、
アイドルになりたかったから、
自分がアイドルだと感じられる舞台を、
諦めることなんてできないんです

でも、体を壊すわよ

大丈夫です、だってわたし、
――アイドルが好きですもん!


 にっこりと笑う。
 すると、三春さんは面食らった顔をしました。

……そう、すごいわね、あなたは

えへへへ、そう、ですか?

ええ、そうね、
あと十五時間。がんばりましょう

はい!

うう、長いよお……
でも、あたしもがんばるよお

ありがとね、ミミタン!

これがおわったらかえれるこれがおわったらかえれるこれがおわったらかえれるこれがおわったらかえれる……

が、がんばりましょうね、はなびさん


 虚ろな目のはなびさんの手を引いて、
 わたしは外に出ます。

 すると――。

おー、おまえらー

あれ、どうしたんですか、プロデューサー

いやー


 あ、もしかして、
 わたしたちのことが心配で来てくれたのかな。
 そうなのかな、だったら嬉しいな!

 しかしプロデューサーさんは頭をかきます。

今回のイベントさ、
実は上位入賞の賞品を見てなくてさー、
なんかSRキャラが手に入るらしいじゃん?


 ぺらぺらとチラシを手に持っています。

 そうです、今回はなんと上位入賞で、
 SR(スーパーレア)のキャラが手に入るのです。
 わたしたちR(レア)をしのぐ、
 すごく強いアイドルです。

 そのためにきっとプロデューサーは。
 わたしたちにがんばるように言ってきたんでしょう。

 ですが――。

で、SR丘恵美らしいじゃん?
――でも俺、別に丘のこと興味ないしさ


 プロデューサーはハハッと笑います。

もうイベント走んなくていいや
帰ってレッスンしよう

……

……

……

 こうして、わたしたちの、
 初めてのイベントは終わりました。

もうイベントなんて、こりごりよー!

 めでたし、めでたし――。






そして、
新しいアイドルがやってくるのです!












◆夏祭りイベント最終結果◆

チーム:ラブリーえんじぇる

最終握手ポイント:220320

最終成績:9361位
 

 

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