第14話「若葉瑞樹おねーさんは、Lv19よー」






ちょっとー、
聞いてよミントちゃんー

はいはい聞いているよー、
瑞樹ちゃんー


 若葉瑞樹さんは、みんなのお姉さんです。
 全員の中で一番の年長者さん。

 そして、宮古ミントちゃんこと、
 ミミタンと大の仲良しです。

プロデューサーがさー、
最近シルクちゃんばっかり可愛がって―、
やっぱりもうだめなのよー、
26歳でアイドルなんて無理なのよー

そんなことないよー、
瑞樹ちゃんは可愛いよー

可愛くてもダメなのよー……
だって年なんだものー……

年でも大丈夫だよー、
プロデューサーは絶対、
オトナのおねーさんも好きだよー

そうかなあー、
本当にそう思うかなあー、
ミントちゃんそう思うー?
ほんとー?

ほんとほんとー


 相槌を打ちながら、
 ミミタンはぺらぺらと雑誌をめくっています。
 もしかしたら話を、
 まったく聞いていないのかもしれません。

 でもそう思わせないのは、
 ミミタンの人間力のたまものでしょう。

ううー、ミントちゃんー、
だめよーだめだめよー、
私きっともうすぐで、
餌にされちゃうんだわー、
そういう未来が見えるものー


 すると、瑞樹さんは、
 その場でタロットカードを並べ始めました。
 涙目です。

 瑞樹さんの個性は『占い』です。
 いつもなにかしらタロットカードとか、
 水晶玉とか、そういうものを持ち歩いています。

ほらほらー、おねーさんは、
もうすぐで餌にされるって未来が見えるわー……

見えないよー、大丈夫だよー、
よしよしーいい子いい子ー

ううー


 ミミタンの膝に顔をうずめて、
 瑞樹さんは頭を抱えています。

 あっ、羨ましい!

瑞樹さんー、わたしも占ってくださいよー

ううー、いいけどー


 ぐすぐすと鼻をすすりながら起きあがる瑞樹さん。

なにを占うー?

えー、じゃあわたしの恋愛運とかー

定番だねー

うう、若いわ、若すぎるわ
おねーさんには眩しいわ……


 と、瑞樹さんは、タロットを机の上に並べます。

恋愛運、恋愛運……うーん、
あっ、出たー、
えーとね、って……


 瑞樹さんが固まりました。

え、なんですなんです?

瑞樹ちゃん、どうしたの?

まさか、こんなことがあるなんて……


 わなわな震える瑞樹さん。
 そのカードを覗き込むと――。







「名状しがたきもの」よ

ええっ!?

そんなのタロットにありませんよね!?

そうね、こんなの、
おねーさんも初めてだわ……

と、とりあえず、いい意味なんですか?
悪い意味なんですか?

わからないわ

わからないんですか!?

つまり、あなたの運勢は誰にもわからないってことよ……。
愛子ちゃん、あなたの恋愛は、誰にもわからないのよ!
未来は誰にもわからないわ!

それを占うのが、
占いなんじゃないですか!?


 わたしの叫び声が事務所にこだまします。
 瑞樹さんは、ユニークで面白い先輩だと思います。










 
 
 168時間耐久の握手大会が終わり、
 わたしたちの日常が帰ってきました。

 瑠璃ちゃんが元気になって、
 はなびさんはしばらく寝込んで、
 あとのみんなはだいたいいつも通りです。

 わたしもまだ餌にはされず、元気に生きています。

はー、早くライブがやりたいわねー

はなびさん、もう具合いいんですか?

あたしはアイドルだからね。
ライブをやれば治るわよ

握手会もアイドルのお仕事だと思いますけど

168時間ぶっ続けは、
アイドルのお仕事じゃないわ!

確かに


 そんな風にレッスンを続けている最中です。
 プロデューサーと三春さんがやってきました。

おーいはなびー、特訓するぞー


 その後ろにはぞろぞろと、
 目隠しをされた丘ちゃんがいます。

丘っすよー

おー、なんすかここー、
なんすかここー

ここから丘の、
アイドル生活が始まるんっすねー

ふっふっふーっす


 いつものことです。
 はなびさんは、はーい、と立ち上がります。

矢中、あんたすっかり、
丘ブリーダーっぽいわね

……


 三春さんはなにも言いません。

 プロデューサーがケータイを掲げると、
 やはり丘さんたちが断末魔をあげながら、
『三つ』の光となって、
 はなびさんの中に吸い込まれてゆきます。

 はなびさんは笑ってはいませんが、
 しかし冷や汗を流しています。

お姉ちゃんが餌にされたのを見て、
それ以来、あたしあれ苦手なのよねー……


 前にそう言っていました。

 と、そこまではいつものこと。

あれ?


 ひとり餌にされなかった丘ちゃんがいます。

プロデューサー、
丘がひとり余っているわよ?

ああ、いいんだ

???

へ?

……


 みんなを見回して、
 プロデューサーはうなずきます。

次のライブのリーダーはこいつにするから
じゃあよろしくな、丘

了解っす!


 えええええええ!?

 驚愕の声が響き渡ります。

な、なんで丘が!?
あたしがリーダーじゃないの!?


 顔色を変えるはなびさんの前、
 不敵な笑顔を浮かべる丘ちゃんは――。

 ――金色に輝く腕章を腕につけて、
 どんと胸を叩きました。

この『SR』丘恵美に、任せるっす!
丘の時代がやってきたっす!



 前回の最終ランキングで、
 一万位以内に入っていたため、
 上位報酬がもらえたらしいのです。

ま、まじで……

 うちの事務所には、
 こうしてついに、
『スーパーレア』が、加わったのでした。

 
 

 
















 若葉瑞樹(R)
 
 Lv 19 / 30
 親愛度 100 / 100

 特技:クローバーメロディ
 効果:全体のソングパワーを10%UP

 長野県出身の26才のアイドル。
 もともとモデルであり、スタイルは抜群。
 年の割に幼い性格である。

 取得個性:占い

第14話 「若葉瑞樹おねーさんは、Lv19よー」

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