第12話「恐怖のイベント夏祭り」(前編)









なんですかこれ?


 女子寮の廊下に貼り出された紙を前に、
 わたしたちは首を傾げています。

 そこにはこうありました。
 
『イベント開催のお知らせ』

 イベント……?

なんだろうねー

イベントって書いてあるんだから、
イベントでしょ

どうかした?

あっ、ミハリンポン!
そう、これなんです

誰がミハリンポンよ。えっと


 三春さんがじっと張り紙を見つめる。

……イベント開催のお知らせ、
って書いてあるわね

わかります

知っているよー

それぐらい読めるわ

あとはなにもないわ

だから知っているって!

別に私だって、
なんでも知っているわけじゃないのよ


 目を逸らしっつつぶやく三春さん。
 まあ確かにそうですよね。

 しかしイベント、イベントかあ。
 なんかソーシャルゲームみたいですね、あははー。

ってこれ、
ソーシャルゲームの世界でした!


 どうやらイベントが始まるようです。









おー、来たかお前らー


 と、事務所には、
 ラブリーえんじぇるの十名が集められました。

 プロデューサーは携帯電話を掲げながら、
 一同を見回します。

つーわけで、イベントのお知らせだー

イベントってなにするの?


 美也さんがいなくなった代わりに、
 今はリーダーの、はなびさんが尋ねます。

『マラソン』だなー

……マラソン?

えっ、走るの?


 みんな眉をひそめます。

違う違う、イベントの一種だよ
今回は夏祭りでの握手会とビラ配りだな


 おー。

 一同は拍手をします。

なんかそういう、
ファンと触れ合うイベントって、
やったことなかったわね

そういえばそうねー

夏祭りで握手会とビラ配りかあ

楽しそうかもー

おー、そりゃよかった


 するとプロデューサーは、
 さらに一枚の紙を出しました。

じゃあ早速、あさってから頼むぞ


 はーい。

 みんながそう返事する中、
 わたしはその紙をちらっと眺めた。

 するとそこには、
 夏祭りのスケジュールがあります。
 

9月1日15時~9月8日15時

 まで、とありました。

あれ、夏祭りって一週間もやるのかな?


 そのときは、のんきにそんなことを考えていた。
 でも、甘かったのです。










わー、お祭りですねー

まだまだ暑いわね……


 はなびさんが日傘をさしながらうめきます。

時間があったら、
あとで屋台を回りたいね、愛ちゃん

うん、ミミタン!


 わたしたちはニコニコとうなずきます。

あら、ずいぶんと仲良くなったのね

そーですよー、三春さん
あれーひょっとして焼いてます?
焼いちゃってます?
えへへー、焼いてるのー? ミハリンポンー

誰がミハリンポンよ
でも、仲良いってことはいいことだわ
ね、瑠璃さん

……そうですね……


 あらら、瑠璃ちゃんはまだまだ元気なさそうですね。

よし、ここはひとつ、
センパイが励ましてあげましょう!

いや、大丈夫だから
やめて、大丈夫だから
愛子さんはなにもしなくていいから

なんでですか!?

前から思っていたけれど、
あんたってめちゃめちゃ図太いわよね……


 はなびさんまで。

 と、わたしたちはてくてくと歩きます。

おーし、ここが会場だぞ


 プロデューサーが待っていたのは、
 屋型テントの下でした。

 握手会はここでやるんですねー。

わー、楽しみですね
あともう少しで始まるんですね

そうねー


 そしてプロデューサーが、
 隣の大きなテントを指差します。

で、寝るとこはそこのテントな
簡易シャワーもあるし、
周りから見えないようになってっから

……へ?


 目を丸くします。

じゃあ、がんばろうな、みんな

???


 プロデューサーは近くにあった椅子に腰かけます。
 そして、『イベント』が始まります。



 近くに立っていたランプに
『0』の文字が点灯しました。

 するとすぐに、
 ひとり目のファンの方が現れます。

は、はなびさん!

な、なに?

ずっとずっと前からファンです!
きょうもすごく可愛いっすね

あ、ありがと


 はなびさんが慌てて握手をすると、
 ランプが1になります。

 人は次々と、ひっきりなしに現れました。

 そのたびにわたしたちは握手を交わしてゆきます。

ひー、忙しいです!


 これが握手会!
 こんな戦争みたいな感じなんですね!

 列は途切れず、延々と続いています。
 ランプはすぐに100を突破しました。

ていうか、おかしくないですか!?
わたしたちなんで、
こんなに人気あるんですか!?

わかんないよ!
あっ、次の人たちがもう来ちゃう!


 わたしたちは交代で休憩を取りながら、
 握手をし続けます。
 すぐに何時間も経過しました。

 一時間、二時間……。










 そして、15時から20時になって、
 辺りが暗くなっても、人の列は途切れません。

これ、夏祭りいつまで続くんでしょう……

21時ぐらいじゃない……?


 ウィダーインゼリーを飲みつつの休憩です。

ずっとずっと前からファンです!
きょうもすごく可愛いっすね

は、はい、
ありがとうございます……


 瑠璃ちゃんもがんばって対応しています。
 かすかに笑顔がこぼれていました。

 ファンが支えてくださっているから、
 わたしたちは輝いていられる。
 そんな当たり前のことを確かめられる時間、
 なんですが。

 22時になっても、人の波は途絶えませんでした。

ずっとずっと前からファンです!
きょうもすごく可愛いっすね

え、ええ、ありがとうね


 プロデューサーは割と早い時間で、
 帰っていきました。

「このぶんだと俺いなくても平気だよなー」って。

 屋台も延々と営業しています。
 まるでここだけが時の止まった世界のようです。

ど、どういうことなんですかー!


 目が回りながら握手をして、
 わたしはふと気づきました。

ま、まさか……


 そう、夏祭りイベントは確か、

 ――9月1日15時から9月8日15時まで。

 そう書いてありました。




 168時間!?















◆夏祭りイベント◆

 握手をしてポイントをためて、
 上位入賞を目指そう!

 上位入賞者には特別なカード、
『SR丘恵美』をプレゼント!


 

第12話 「恐怖のイベント夏祭り」(前編)

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