チーズ作りの見学を終えると、
僕たちは牧場のお手伝いをすることにした。
見学させてもらったんだし、
泊めてもらえるんだもん。
それくらいはしないとね。


ビセットさんとタックは
キーサスさんやカノンさんと
家畜の世話全般、シーラは食事の用意、
ミューリエはキリヤさんと小屋掃除の担当だ。

そして僕はレビィちゃんの面倒を
看ることになった。

といっても依然として懐いてくれないので、
今のところは危険なことをしないよう
目を配っておくことくらいしか
できないんだけどね。


でもせっかく仲良くなれそうな機会だから、
僕はアレを作っているところだ。

――これは昔、
故郷の村のお姉さんたちから
教えてもらったもの。

うん、これで完成だ!
 
 

アレス

レビィちゃん、
こっちにおいでよ。
野花の冠を作ったよ。

レビィ

っ!?

 
レビィちゃんは野花の冠を見ると、
大きく息を呑んだ。
そして瞳をキラキラと輝かせながら
近寄ってくる。

足取りはまだ恐る恐るという感じだけど、
仲良くなれるきっかけとしては成功かも……。
 
 

アレス

これをあげる。
良かったら、
作り方も教えてあげるよ。

レビィ

……ホント?

アレス

もちろんだよ!

レビィ

わぁあっ!

 
レビィちゃんが初めて笑ってくれた。
屈託のない可愛い笑顔。
見ているだけで僕の心まで
穏やかになってくる。


そのあと、
僕は野花の冠の作り方を教えてあげたり、
草笛の演奏をしてあげたり、
薬草についての話をしてあげたりした。

おかげでレビィちゃんは
すっかり僕と打ち解け、
夕食の時にはそばから離れなくなるまでに
なっていた。


キリヤさんの話によると、
レビィちゃんが短期間で見ず知らずの他人に
懐くのは初めて見たとのことだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 







 

夜も深まり、
僕たちはリビングでお茶を飲んで
色々な話をしていた。

この場にいないのは、
すでに部屋で眠っているレビィちゃんだけだ。
 
 

キリヤ

アレスさん、
今日はレビィの面倒を
看ていただき
ありがとうございました。

キリヤ

あんなに楽しそうな姿、
久しぶりに見たような気がします。
本当に感謝しています。

アレス

いえ、僕も楽しかったですし。

キリヤ

ここには私をはじめ、
年の離れた男ばかり。
あの子には申し訳ないなと
思っていたのです。

タック

でもアレスが女の子っぽい遊びを
色々と知っているとはな~♪

アレス

僕の村には
男の子が少なかったからね。
どうしても遊びは
女の子向けのものが
中心になっちゃうのさ。

ミューリエ

だが、その経験のおかげで
レビィは心を開いたわけだ。

シーラ

アレス様と
あんなに仲良さげなんて、
レビィちゃんに嫉妬しちゃいます。

ビセット

ホントですよぉ!
私も嫉妬しちゃいますぅっ!

タック

ビセット、お前は黙ってろ……。

カノン

皆様はこれからどちらに行かれる
おつもりで?

タック

オヒラの城下町だ。

キーサス

そうですか。
オヒラ州は田舎とはいえ、
城下町はそれなりに危険です。
よからぬ連中もいることでしょう。
どうかお気をつけください。

アレス

はい。

キリヤ

アレスさん、
これをお持ちください。

 
 
 

 
 
 

アレス

手紙ですか?

キリヤ

通行許可証が入っています。
私は国の役人と
顔見知りでしてな、
それがあれば大抵の場所に
入れることでしょう。

アレス

ありがとうございます。

キリヤ

タックさんにもこちらの手紙を
お渡しいたします。

タック

オイラに?

キリヤ

中身はあなたへの私信です。
道中のお暇な時にでも
ご覧ください。

タック

分かった。

 
キリヤさんは優しげに微笑んでいた。
その穏やかな瞳は、
何かを思い出して
懐かしんでいるかのような感じ。
やっぱりタックとの間に
何かあるのかもしれない。


それにしても、
一存で通行許可証を発行できるなんて、
キリヤさんは何者なんだろう?

お役人と知り合いってことは、
元貴族とか
かつてお城勤めをしていたとかって
ことなんだろうな……。

でもそういう人とこうして知り合えたのも、
何かのご縁なのかもしれない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
翌日の朝、
僕らは牧場の出入り口に立っていた。
キリヤさんたちは見送りに
出てきてくれている。

でも困ったことにレビィちゃんは
僕の足に抱きついたままなので、
出発できないでいた。
 
 

キリヤ

レビィ、
アレスさんを離してあげなさい。
旅立てないだろう?

レビィ

嫌……行っちゃ……嫌……。
ずっとここにいて……。

アレス

レビィちゃん……。

ミューリエ

困ったな……。
無理に引き離すわけにも
いかんし……。

アレス

じゃ、あと半日遊んだら
離してくれる?

レビィ

…………。

 
レビィちゃんは静かに首を横に振る。
 
 

タック

やれやれ……。

シーラ

レビィちゃん、
アレス様のことが好きなんだ?

レビィ

……うん、大好き。

ビセット

モテモテですねぇ、アレス様。

アレス

ビセットさん、
茶化さないでくださいよ。

シーラ

レビィちゃん、
アレス様が好きなら、
信じて待ってあげるのも
大切じゃない?

タック

くくくくっ!
シーラがそれを言うかぁ?
自分のことは棚にあ――

ミューリエ

タックは少し黙ってろっ!

 
 
 

タック

――ゲフゥッ!

 
ミューリエの肘鉄砲がタックの腹に炸裂した。

完全に無警戒だったタックは
モロにそれを食らい、
涙を浮かべながら悶え苦しんでいる。
 
 

シーラ

どうかな、レビィちゃん?

レビィ

……アレスお兄ちゃんが
私と約束をしてくれたら
離してあげる。

アレス

何を約束するの?

レビィ

絶対にまた遊びに来て。
絶対の絶対。

アレス

もちろんだよ!
約束するっ!

レビィ

あと、大人になったら
私をお嫁さんにして。

アレス

えぇっ!?

キリヤ

ははは、なんとっ!
それはめでたいことだなっ!
我が一族の将来も安泰だ!

アレス

えっとぉ……それは……。

アレス

レビィちゃんが大人になって、
その時に僕にもレビィちゃんにも
ほかに好きな人がいなかったら
結婚しようか?

レビィ

うんっ、それでいいっ!

タック

強力なライバル登場だな、シーラ?
このままでいいのかぁ~?

シーラ

知りませんよ、そんなこと!

 
レビィちゃんは
ようやく僕の足から離れてくれた。
そして僕たちは笑顔で指切りをした。

その後、キリヤさんたちに別れを告げ、
牧場を旅立ったのだった。


――未来のことは分からない。
ただ、少なくとも
再びレビィちゃんと一緒に遊ぶためには
世界を平和にしないといけない。

ああいう幼い子の笑顔を守るためにも、
僕はもっと頑張らないと!
 
 

 
 
 
次回へ続く……。
 

第60幕 アレス、婚約する!

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