……これで、10人目と11人目
あと一人で、ゲームが始まるわ……

そうわたしたちに言い、彼女は席にを勧めた。
わたしたちは、言われたとおり置いてあったソファーに座る。
混乱したままの頭で。

その顔からして訳分からず連れてこられた側なのでしょう?
もしかして、誰かに誘拐された?

その問いに、わたしたちは激しく首肯した。
それを見て、頭を抱えたように、彼女は呟く。

半分近くが……望まないまま、か……

その言葉は……深い、悲しみを滲ませていた。
この人は……何かを知っている?

静流

一体何を知っているんですか?
わたしたちは突然射殺されそうになりました
ここで、何が起きているんです?

ひより

ちょ、ちょっと静流……

ひよりが止めるが、わたしは理不尽に立ち向かうつもりだった。
現実にわたしたちは殺されかけた。
危うく死人になるところだった。
そんなの誰かに説明されないと納得できやしない。

知りたいと思うのは当然よね?
でもそれは、私の口からよりは奴から聞いたほうがいいわ

静流

やつ?

そのうち、姿を見せると思う
ただ言えることは、ここは非常識の世界
言い換えれば、戦場なの
……生命を賭けないと、死ぬわよ
覚悟を、決めなさい

……ここが、戦場?
誰かと殺し合いでもするというのか?
でもさっき、実際追われたから何となく、察しはついていた。
まさかとは思っていたんだけど……昨日ひよりが調べていた都市伝説。
首を傾げるひよりに代わり、わたしは問う。

静流

これって、「願いが叶うゲーム」ですか?

わたしは口に出して問うと、ここにいたメンツの空気が変わる。
知っていたのか、という鋭い目線でわたしを見る。
……なんだ? この変な空気。
わたしを値定めするような目は。
ひよりがビビっているが、私は動じずに続ける。

あら、知ってたの?

静流

噂ぐらいは……
どんな願いも叶えてしまうゲームがあるって話は聞いたことがあります
てっきり、わたしは都市伝説かと思っていたんですけどね

ひより

えええっ!?
これがそのゲームだっていうの!?
アレだけ調べても何も出てこなかったのに!?

静流

……とまぁ、連れのバカがこのゲームに関して最近調べていたんですよ
わたしは詳細は知りません
多分巻き添えでここにきたんですね……

素っ頓狂な声を出すひよりを指差してわたしは肩を竦めた。
わたし、完全に巻き添えだった。調べていたのはこいつであって、わたしは本当に聞いたことがあるだけだったのに。

同情的な目で見られている。
昔からひよりに巻き込まれ体質なわたしだから、もう慣れた。
一方、ゲームを調べていたと言うと今度はネットリした目線でひよりをみる他の人。

静流

願いの範囲とかは知りませんよ?
それにそんなもんには興味もありませんし

もう完っ全に巻き込まれているだけね
……不幸だったわね、お互いに……

静流

お互いに……ですか
ってことは速水さんも巻き込まれた
あるいは誘拐されたと思うんですけど
その割には落ち着いていますね?
しかも何があるか知ってるかのような口振りをしてくれていますが?

わたしが発現の揚げ足を取って聞くと、強ばったような表情で彼女はわたしをみる。
お互いに、ってことはこの人も誘拐された可能性はある。
そういう示唆させるようなことを言った。
でもそう言ってるのに、わたしたちのほうにほうける訳でじゃなく、妙に冷静で、淡々と他者に説明できる余裕がある。
内容を知っているかのような言いぶりにも違和感がある。
それが不自然だと思った。だから聞いた。

……これは一本取られたわね
一言でそれだけ読まれるなんて

静流

お褒めいただき光栄ですね
何か知ってんなら、早く説明してください
生憎とわたしは、我慢弱い性分です
これ以上焦らすと、暴力に訴えますよ

わたしは周りの人達をぐるりと一瞥し睨み付ける。
さっきから続く理解不能な現実に苛立ちを覚えているのはひよりがわたし見てビビってるのが証明している。
わたしは我慢できない、短気、キレやすい。
今どきのそういう若者だ。
周りの人たちがわたしを見る目がまた変わった。
危険人物――視線はそういう目だ。

しょ、初対面で喧嘩腰とかよくできるわね……

静流

そんなん、関係ねえんですよ?
わたしチビで軽いですけど……喧嘩、結構強いんで
速水さんぐらいのモヤシなら時間30あれば血祭りに出来ますが?
無論、秒で

人数は……わたしとひより含めないで、10人前後。
内訳は極端に小さい子供が一人、中年のおっさんが二人に……年上と思われるメガネの優男、あとはチンピラ? みたいなひと。
残されたのは大体の男女。同年代だと思う。
大丈夫、これなら過去に殺ったときと大差ない。
得意なエアガンないけど……。
まあ徒手空拳でもある程度はできるだろうしね。
血祭り上等。全員ぶっ殺して聞き出してやろうじゃん。

血気盛んなことね……
血走った野良犬みたいな目をしてるわ

静流

そりゃ大いに結構
んで? 闘んの? やらないの?

何時の間にか敬語まで捨ててるし……
チンピラみたいね、ほんとにもう……

…………
一戦交えて教えてあげる
そっちもどうなっても知らないからね?

そう言って、彼女――速水がポケットから何かを取り出して、感触を確かめるように数度振る。
ひよりがそれに悲鳴を上げる。
ま、今回はわたしが巻き込んでるし、しゃーないか。
周りも息を呑む。血腥い展開になりそうだ。
キョトンとしていた子供は男の人に目隠しされて、キョロキョロしてる。

静流

へぇ……
武器ありか、まあいいよ
使えばいいじゃん

…………

彼女が取り出したのは……小さな鎌だった。
柄の中に刃を収納できる多分農作業用の一品だろう。
切っ先をわたしに向ける。

静流

ハッ、何を取り出すかと思えば
そんな鎌程度で何ができるのさ?
誰もが刃物見せればビビるとでも思った?
残念でした、わたしは怖くないんでね
そんなん叩き落として腹に一撃ぶち込めばわたしの勝ちだ

刃物に怯えない……か
荒事に慣れている証拠ね
喧嘩とかするようには見えないけど
貴方意外に野蛮なのね?

静流

余計なお世話だっての
まぁ、丁度いいよそれ
それでお前のハラワタ盛大にぶちまけてやる

わたしは、元々暴力沙汰を過去に何度も起こしている。
こんな見た目のわたしだが、喧嘩で警察にお世話になったことなど中学時代、何度もあった。
そんなわたしですら高校生になれたんだ。世の中甘いよね。
エアガンが好きなのは、あの快感があるから。
人はエアガンで撃たれると痛い痛いと悶えて転がる。
それを見下ろして、踏み付けて、蹴り飛ばすのがわたしは大好きだ。
だから、わりと暴力で思い通りにすることが多かった。
もしもあれが本物の銃なら、もっと楽しくできるのに。

静流

きなよ
綺麗な紅い花、咲かせてやる

臨戦態勢に入り、ひよりが興奮したわたしを宥めようとするので取り払おうとしていると。

武田

そのへんにしておかねぇか速水の嬢ちゃんよ
相手は子供だぜぇ?

チンピラ風の見た目のデブが速水に言う。
鼻を鳴らして、彼女は鎌を案外あっさりと引っ込めた。

静流

ちょっと!
ここまできて逃げんのかぁっ!?
コラ速水!! かかってこいよゴルァ!

ひより

あんたもいい加減にしなさい静流!

わたしよりも体躯があるからってひよりめ、羽交い締めにしやがった!
痛い痛い、胴体締めてる締めてる!

元より、私に争うつもりはないわ
ちょっと仕掛けられたから乗ってあげただけ

ぬわにぃー!?
乗ってあげただけぇー!?
つまり遊ばれたのかわたしは!?

静流

わたしをわざと乗せたなぁー!?
殺す、お前殺す!!

ひより

お、と、な、し、く、し、な、さ、い、っ!

ジタバタ暴れるわたしを押さえるひより。
くそ、普段モヤシなのにこういうときで押さえるの上手いんだから昔から!

武田

また……おもしれぇ子がきたなぁ

ゲラゲラさっきのチンピラがわたしたちを見て笑う。
超腹立ったので、怒鳴って反論。

静流

うっせーこの豚ロース!
わたしとやんのかハム野郎!?

武田

誰が豚ロースのハム野郎だこのチビッ!?

静流

オメーに言ってんだよチャーシュー面!

武田

アァッ!?
豚ロースと叉焼美味えじゃねえか舐めんなッ!
ってかブタさんに思いっきり失礼だろうが謝れやテメェ!

……反論するとこ、そこなの?

静流

ブタに謝るわけねーだろが!
家畜風情に謝る馬鹿がどこにいる!

武田

テメェブタさん見下すのも大概にしとけよアァッ!?

静流

オメーこそブタさんブタさん連呼すんな!

武田

ブタさんはなぁあれですげぇ優秀なんだぞ!
テメェさては知らねえなぁ!? 
ブタさんの偉大さをォ!

静流

ブタの何が偉大だよ!
あんなん家畜だろうが!

武田

知らねえなら教えてやるよぉ!
耳の穴かっぽじってよぉく聞け!

それからわたしたちはチンピラ豚野郎によるブタさん講座を聞かされる羽目になった。
何がどうしてそうなったのか、わたしは知らない。

な、何が起きてるの……?

知らない。

チンピラ豚のブタさん講座

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