シグレの言葉に、青い宝石はぱっと表情を明るくする。

やっぱり、魔法の香りがする人はすごいね。平和だね。お母さん、前は私の話を聞いてくれなかったんだよ

お母さんって呼ぶの、やめていただいてもいい? シグレって呼んでほしいんだけど

 シグレが、つんとした声で言う。青い宝石はしゅんと寂しそうに顔を歪ませた。

……ごめんなさい

 子どもだ。百年以上生きていると言う彼女は、しかし、その精神に大人びたものは一切感じとることができなかった。

 幼い子供。見た目よりもさらに幼そうだ。


 そのことに、シグレ自信も気がついたのだろう。ふう、とため息をついて、シグレは眼鏡をくいとあげる。

ごめんなさいね、私も子どもなの。

でも、私の知らないことをあなたは知っている。

話を聞きに来たのよ、今日は。

それって、私の中ではすごい進歩なの

 そういうシグレの表情は、どこか苦しそうでもあった。

わからないことだらけなの、すべて教えて

 青い宝石は、シグレの言葉に表情を変えた。

なっ……

 俺は驚いて、思わず後ずさってしまった。
 その表情は、憤怒の表情だった。

私だって、わからないことだらけだよ。

どうして、魔法を使えない人は、魔法を使う私たちのこと、悪いっていうの? 

なんでおか……シグレさんは、そんなに偉そうなの? 私が何をしたって言うの?

それは、例えばあなたは、過去に災害を引き起こして

シグレさんは、それ、見たの? 

そんなの嘘だよ、私がたまたま遊びにいったところで起こったんだ、私は助けようとしたんだ! 

悪い魔法使いもいるよ? 

でも、いい魔法使いもいる! 

私はただみんなと仲良くしようとしているのに、どうしていつのまにか、私は捕まらなくちゃいけなくなったの! 

私たちは悪い存在になったの!

 わっ、と青い宝石は泣き出した。

わかってくれるのはお母さんとお父さんだけだった! みんな嫌い! みんな嫌い!

おーい、おちつけお嬢ちゃん!

 キツネがひょいと顔をだし、青い宝石に歩み寄った。

 ひょこひょこと近寄ってくるキツネに、青い宝石は後ずさる。

 明らかに警戒され、キツネは苦笑した。

俺の家族は、みんなあんたのことが好きだったよ。

俺も、ずっとあんたに会いたいと思ってた。

会って、謝ろうと思ってた

 青い宝石が、ふーふーと息をしながら、キツネの言葉を黙って待っている。

俺は、あんたがいつか現れて、俺を、俺の家族をその魔法で救ってくれるって、勝手に信じて、でも来ないだろ? 

勝手に絶望した。

あんたは、あんたで大変なのに、あんたのことなんて考えもしなくて、神様みたいにただ祈ってた。

俺たちは勝手だよな。

勝手に神様だと思ったり、勝手に悪魔だと思ったり。

許してくれ

 青い宝石の息が落ち着いてくる。キツネは、静かに青い宝石を見つめている。

……話を聞いてほしい

 宝石のような瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。

ただ、それだけなの

うん。そうだよな、ごめんな。

みんなあんたのこと、見ちゃいなかった

だから、話したくなかったの

聞くよ、聞くから、話してくれ

 こくん、と青い宝石が頷いた。

 キツネはこっそり俺に目配せをする。うーん、かっこいい。

どうして女はこうもヒステリックなのかね

キツネ、一言余計なのよ

 シグレがキツネの背中をばしりと叩き、そのままキツネの横に立つ。

私の話も、聞いてくれるわよね

 青い宝石は、シグレを睨み付けたまま、こくりと頷いた。

じゃあいいわ。まず、あなたの話を聞きましょう

4 忌むべき魔法は隠れた青色(18)

facebook twitter
pagetop