本部に帰るまでの車の中で、俺はシグレさんに切り出した。

あの、さっきダミーから伝えてほしいことがあるって言われてます

……私に?

 助手席のシグレさんは少しだけ振り替えって、後部座席に乗る俺の目を見つめた。

 俺がひとつ頷くと、シグレさんは肩をすくめた。どうぞ、ということらしい。

まず、お母さんは、混乱していて、えっと

三人の話は聞いてくれなかった

 サンザシのアシストが入る。

覚えていますので、私が一言一句たがわぬように復唱しましょう!

 感謝の気持ちを込めて静かに目配せをしたあと、俺はサンザシに続く形で、ダミーの言葉を伝える。

……三人の話は聞いてくれなかった。

お母さんをずっと待ってた。

今も、待ってる。見つけてほしくて

 シグレは黙って、前を向いたまま、俺の言葉に耳を傾けている。

お母さん、言ってた。

娘が、私たちの仲間になるのよ、そうしたら、お母さんは娘にすべてを話すのよ、あなたのことをわかってくれるわよ

……お母さん?

 シグレが、中指で眼鏡をくいとあげる。

お母さんが二人になるわよ、お母さんってよんでいいのよ。

こんな世界は、もうすぐ終わるのよ……って

 シグレは、そう、と腕を組んだ。

お母さんが二人になるって、どういうことだ?

 キツネがハンドルを切りながら、シグレに問う。

そのままの意味じゃないかしら。

母の言葉よ、多分

 私の、と付け加えて、ああ、とシグレは後部座席に自分の全体重を任せた。

母の遺言ね

……シグレのおふくろさんは、青い宝石と……親交があった?

そうみたい。

自分のことを母と呼ばせるほどの親交。

そして、私たちの知らない何かが、まだあるのよね

嫌に冷静だな

 キツネの言葉に、ふ、とシグレは笑った。

 乾いた、でも、どこか優しい笑いだった。

訳がわからなすぎると、冷静になるのよ。

両親が死んだときもそうだったわ

 シグレは、静かに目を閉じる。

こんな世界はもうすぐ終わる

 はあ、とため息をつく。

その言葉の真実をつかむまで、多分もう、涙もでないわよ

俺の胸の中でさんざん泣いたもんね、涙もかれるほど!

殴るわよ

顔はやめてね!

 俺は思わず笑ってしまう。
 さっさとくっつけばいいのに、このふたり。

 






 本部の一番上は、埃まみれ、クモの巣だらけの無法地帯だった。

 ゴホ、とシグレが咳をすると、白い埃がふわりと舞う。

あの扉を開ければ、時計の真裏よ










 シグレが指した扉に手をかけ、ゆっくりと押す。


 時計の裏は、狭い部屋だった。

 何年も前にはここに人が住んでいたのだろうと思わせるような部屋だ。

 ベッドに本だな、ランプなど、が埃を被った状態でひっそりとそこにある。



 そんな部屋の真ん中に、にこりと笑う少女が立っていた。

魔法の香りがする人、あなたね

 青い宝石は、そう言って深々と頭を下げた。

 俺も下げ返すと、にこりと微笑んで、俺の後ろに目をやる。

お母さんだ

……どういうことか、説明してもらえるかしら

4 忌むべき魔法は隠れた青色(17)

facebook twitter
pagetop