キツネが叫ぶと同時に、俺は駆け出していた。
駆け出しながら、サンザシに静かに問う。
落ち着け、シグレ!
お母さんって何?
どういうことよ、この魔女!
また意味のわからないことを言って、むかつくのよ!
よりによって何と勘違いしているのよ!
私の前でその言葉を口にしないでよ!
サミー、行けるか!
キツネが叫ぶと同時に、俺は駆け出していた。
駆け出しながら、サンザシに静かに問う。
魔法の香りがするって言ったよな
ええ、とサンザシは頷いた。その表情は、不安に満ちている。
俺は、特に抵抗をしない青い宝石の手をつかみ、なあ、と聞いた。
どういうことだ
わかるだけ、魔法の香りがする、あなたから。あと、死の香り
静かに、青い宝石は微笑んで、うつむく。
お母さんと会いたい。
死んだって聞いてた。悲しかった。
かくれんぼ、おわっちゃったと思っていた。
お母さんに会いたい。お父さんにも会いたい。
私は本物じゃない。
ダミーは、いつもお母さんって、お母さんのことを呼んでいたのに、捕まるって聞いてた。
でも、魔法の香りは、私がはじめて
……いったい何をいっているんだ?
かくれんぼ、楽しい
無邪気な笑顔を、浮かべる。
かくれんぼ、したいの。それだけなの。
魔法使いは、悪くないよ。仲良くしたいんだよ
言い終わって、ぱあっと、彼女は頬を染める。
ぜんぶ聞いてくれた、ありがとう。
いつもね、ぜんぶ言い終わる前に、さよならって、止められる、ダミーは
……だから、最近は話を聞いてくれそうな人を待っていたのか
そう、お母さんか、お父さんか、あなた
青い宝石は、微笑む。
魔法使いを待っていた。
あなたは魔法使いじゃないのかな、わからない、でも、魔法の香りがするから、わかってくれると思ったの。
お母さんは、混乱して、三人の話は聞いてくれなかったけど、でも、伝えて
青い宝石は、子供のように、笑う。
お母さんをずっと待ってた。
今も、待ってる。見つけてほしくて
カチリ、と電源の切れたような音がする。
お母さん、言ってた。
娘が、私たちの仲間になるのよ、そうしたら、お母さんは娘にすべてを話すのよ、あなたのことをわかってくれるわよ
ふっと倒れていく。
お母さんが二人になるわよ、お母さんってよんでいいのよ
どさりと、倒れる。天井を見ながら、彼女は言う。
こんな世界は、もうすぐ終わるのよ
青い宝石はゆっくりと目を閉じて、動かなくなった。
サミー!
後ろから、キツネが走ってくる。
そこではじめて、自分が彼女と一緒に座り込んでいたことに気がつく。
いつからだろう?
立ち上がると、キツネの心配そうな表情が飛び込んできた。
大丈夫かよ?
……ええ。シグレさんは?
大丈夫じゃない。
どうやら彼女、青い宝石に会うたびにお母さんって言われていたみたいなんだ
お母さんを待っていたって、彼女はいっていました
お母さんを待っていた。俺はもう一度呟いて、もしかしたら、と思う。
かくれんぼだと言っていた。
ここはどこだ? 巨大な衣服の倉庫。
タンスだ。
コインランドリーにいた、洗濯機の中にいた。
これは、洗濯、洗濯桶。
資料の写真、見つかったのは、巨大焼却炉。
……ストーブだ
サミー?