銃を構えるキツネを、こら、とシグレがどつく。

驚かさないの。

あのね、サミー、銃を使うことは多分無いわ、あくまで威嚇用よ。

青い宝石はこちらを攻撃するようなことがないと思うから……攻撃されたら、しかえしてちょうだい。

撃ち合いになんてならないから

あ、ほっとしてる! 

サミーちゃんがわかりやすくほっとしてる!

シグレさん、キツネさんのこと一発殴っていいですかね

一発なら多目にみるわよ

酷いんだけど! 顔はやめてね

 と、楽しい掛け合いがすんだところで。


 シグレが自分の装備を今一度確認しながら、倉庫を睨み付ける。

キツネ、サミー、二人とも私についてきて。三人で行動するわ。

キツネと私で捕獲をする、サミーはあくまで補助役、見学と思っていてもいい。

無理はしちゃダメ

あいよ

わかりました

目標は青い宝石の捕獲。

ダミーの場合も、同様よ

 シグレが、中指でくいと眼鏡を持ち上げる。

本物だといいわね

 言って、静かに走り出す。俺も、キツネも、その後を静かについていく。

ところで、崇様は発砲経験ありませんよね?

 サンザシが、てこてこと走りながらさらりととんでもないことを言ってくださった。

 その通りだ。どうしようとサンザシに目をやると、サンザシはいい笑顔で親指を突き上げていた。

じゃ、万が一の時はサポートしますよ

 ああ、頼りになるサポートさんだ!

 倉庫の中は、真っ暗だった。

 上の方にある窓から、淡い光が差し込んでいる以外に光源は見当たらない。

 たくさんの段ボールが積み上げられている。

かくれんぼよ、簡単にいうと

 シグレが、回りに警戒しながら言った。

この中のどっかいにいるっことは、情報班が調べあげてくれてるの。

だいたいどっかでうずくまってるのよ、抵抗もしないことが多いわ。

本物だったらどうかわからないけれど……過去の事例だと、本物はその場で魔法防御を発動、その後、どうしたかは資料を読んだかしら?

 試されてるのかなあと思いつつ、俺は頷く。

ええ、根気勝負で、こちらが撤退するまで微動だにしなかった

正解よ。

本物が出てきたことは少ないけれど、最近は見つかりしだい交渉に踏み切ってる、ってことは資料にあったかしら?

ありましたが、詳細はなかったです

オーケー、詳細はね、いやだ、の一点張りなのよ。

ここ五年くらいかしらね。

しかも、あなたじゃいやだって、言われるみたい

 はは、とシグレは乾いた笑いを飛ばす。

だから、ここ五年は、青い宝石の殲滅メンバーは変わるのよ。

私は、このときを待ってたの。本部に近い箇所に現れたってことは、何かがあるって、そう考えたの。

同時に、いろいろな経験を持ってそうなあなたを今回採用したのは、どうにかしてあなたじゃいやだ以外の回答を得たいから。

若い力は重要よ。

もし見つけたらよろしく頼むわね

 その説明が終わるのを、「彼女」は待っていたのかもしれない。


 それとも、ただの偶然か。


 シグレが言い終わって、わずか数秒後。俺たちが、一歩前進しかしていない、わずかな時間を置いて。







魔法の香りがする








 段ボールの間を縫うようにして、静かに、現れた。



 青い髪、学生服を着た、笑顔の、青い宝石。


 青い宝石は、目を丸くして、震える。

お母さん


 視線の先にいた、シグレが、息を飲む。

お母さん?

 シグレの声が震える。

お母さん。やっと、迎えに来てくれたの


 耳をつんざく発砲音。

 反射的に体が硬直する。

 キツネが叫ぶ。

4 忌むべき魔法は隠れた青色(14)

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