名探偵がよく、犯人を追い詰める最後のトドメとして、大勢の前で指差し、犯人はお前だ、という感じでやる。
あれはただの演出かと思っていた。
名探偵がよく、犯人を追い詰める最後のトドメとして、大勢の前で指差し、犯人はお前だ、という感じでやる。
あれはただの演出かと思っていた。
でも実際、こうして体験してみると、意外と悪くない。
見ていて、あいつが追い詰められていくのを見ているのは楽しい。
しかも私は名探偵のお仲間であり最初から答えを知っている。
どんどん顔色が悪くなるのを見て、何故か高揚感を覚えた。
彼女はテロリストという人殺しでありながら、終了させる為に、名探偵気取りで、真っ直ぐ一人の参加者を人差し指で、示した。
その先にいたのは――
最後の狼……
それは10番小田、あなたよ
…………
速水が指さした相手――小田海音。
彼女は、俯いて黙っていた。
みっともなく言い訳をするかと思ったが、彼女は何も言わない。
もう、投了――言い逃れ出来ない空気になっていることを、流石に察していると見た。
速水も黙り、彼女が何かを言うのを待つ。
でも小田は……喋らない。黙秘を選んでいる。
そこでやはり、あの馬鹿が邪魔をする。
……ちゃんと根拠はあるんだろうな?
小田を指名した、確たる証拠があって
こいつは……。
筋金入りの邪魔者だ。
目障りでしかない。
また、でしゃばってきた。
黙れと言ったはずだ門崎
速水の邪魔をするな
お前も殺されたいのか
巫山戯るな!
また人が殺されそうになって
私の脅しにそう、声を荒らげようとする門崎。
だが……彼はどうやら、頭が悪いようだ。
周りの空気を、こいつは読めない。
門崎、マジでうるさいぞお前
ちょっと黙れよ
超うざい……
こいつ身代わりにすればよかった……
ぎゃあぎゃあぎゃーぎゃーさっきから……
何ですか門崎先輩、死にたいんですか?
残された参加者が、門崎を批難を始めた。
こいつは今クリア目前のゲームを妨げる異分子。
生き残りの最大のチャンスを邪魔する、狼以上に目障りな奴なのだ。
くっ……
流石に、私達全員を敵に回してまで、我を貼る度胸もない。
所詮正しくあろうとするだけの偽善者、ということだ。
正しさが人を救うとは限らない。
正しさが人を護るとは限らない。
それが、世の中ってものだ。
数が支配する世の中では、多い人が勝つ。
数が、真理なのである。
小田……
黙っているだけではわからないわ
反論なり、降参なり、したらどう?
無言の抵抗は、見苦しいわよ
反論も、抵抗も、許しているのだ。
違うならシンボルを見せろ、最初にそう言っている。
でも彼女は見せようとしない。動きもしない。
その間に、速水は目撃したという話を、みんなに説明する。
偽善者以外、みんな納得していた。
…………
何時までも時間稼ぎされても面倒ね
みんな……こいつが犯人よ、片付けましょう
ずっと、彼女は黙っている。
投票され、自分が死にそうになっても尚、語らない。
喚くのは偽善者のみ、偽善者は最後まで邪魔だった。
あたしが……
小田が漸く口を開いたのは……偽善者以外の、全ての参加者の票が集まったあとだった。
なに? 今更命乞い?
悪いけどあなたで最後だから誰も聞かないわ
無情に切り捨てる速水により、私達の意思統一は完了している。
彼女は最早死ぬのみ。
そう、誰もが思っていた。
だが……彼女は、これから死ぬと言うのに……。
わらっている?
いつからあたしが、最後の狼だと勘違いしていたの?
本物の狼は、この中にいるっていうのにね
!?
何か勘違いしているようだから教えてあげるけど……
確かにあたしは最後の、役職の狼
それは間違いない
ご明察、テロリストの速水さん
貴方方は見事、このゲームに勝利しました
これで貴方達は人狼ゲームには勝ちました
でもラストのゲームが残っています
それをクリアしない限りは……誰も、この館から出ることは叶いません
な、何を言っているの……?
困惑する速水。
だけど、驚いているのは速水だけじゃない。
まさか小田、私のことを言ってるのか!?
何であいつが……私のことを知っている!?
私のことは、誰も知らないはずじゃなかったのか!?
表情だけは取り繕い、彼女の言葉を戯言だと言って聞き流してる風に装う。
内心は……戸惑いが嵐のように吹き荒んでいる。
残念なのは、速水さん
貴方が……
ああいや、これだとネタバレですね
黙っておきましょう
ひとつ言えば、『ゲームマスター』は一人ではなかった
そういうこと
あたしは初心者でもなんでもなく、このゲームに参加しているゲームマスターの一人……要するに主催者側の人間なの
……!?
ゲームマスターが一人じゃない!?
どういう……ことなの……?
私はそんなこと、全く知らないのに!!
小田は滔々と、代わって饒舌になり語る。
このゲームの裏側を。
最初はこんなはずじゃなかったのよね
あのお喋りが余計なことを散々してくれたおかげでゲームそのものが成り立たなくなってしまった……
お陰様でこちらは大損害よ、まったくもう
お喋り、とは皆様の前に出てきた彼のこと
彼は新参者でルールにこだわる愚か者でね
彼のせいで参加者がバタバタ死んだ……
これが最大の誤算だった
ゲームマスターが進んで参加者を殺すなんて、有り得ない
挙句には、あたし達の知らないところで自分の思い通りに動いてくれる参加者を誑かし、ゲームの中で好き勝手させていたことよ
これがまさか、こんな風になるとは思ってなかったでしょうね
……バレている。
私の存在が、あいつには……複数いるというゲームマスターにバレている。
私が話していたあの相手は、氷山の一角にすぎず、支配者はいくつもいるのか……。
しかも、あいつは……仲間割れでもしていたのか?
でなければあんなふうには言われまい。
小田が支配者のその一人だというのなら、まさか……。
もうこのゲームに価値はないわ
だから、早々に終わらせることにしたの
本当なら、三日目なんて序盤も序盤よ?
やれやれ……
ゲーム内であの子を始末しようとしたら、いきなり自滅者が出る、攻撃は阻止される……
計算外もここまでくると珍しいわ
せめてもの償いをしてもらうわよ、人狼君
貴方も、死んでもらうから
貴方の死をもってして、このゲームは終了とさせてもらいます
あたしだけが死ぬなんて、そんなことは認めない
……ああ、やっぱり巻き込まれた。
あいつはどうやら彼らにとっては裏切り同然でゲームを進めていたようで、今日だけ顔を見せなかったのはまさか……消されたから?
兎に角、私も巻き込んで小田は死ぬつもりらしい。
これでハッキリした。
初夜に私が狙われたのは、あいつは彼らを先導して共犯者である私を始末しようとしたからか。
悪目立ちしたわけでもなく、あいつの悪意で死にかけた、と。
それをあいつが把握してなかったのはきっと小田とは別行動していたから。
盛り上がり優先、ルール遵守のあいつはほかのゲームマスターには嫌われていたようだ。
故に、私達以外にも分裂している状態でこのゲームは進んでいた、と。
恐ろしいもんだ。
まさか、最後にこんな大捕物になろうとは。
……そう
つまりそいつを殺せば、終われるのね?
ええ
皆さんに余計な混乱を招いたこと、ゲームマスターの一人として、深くお詫び致します
この破綻したゲームを終わらせる人狼は、まだ貴方達の中にいますよ
そして残された裏切り者
貴方は精々、その生命でのゲームのフィナーレを飾りなさい
正体を知ってはいますが、それではあたしが貴方に対して気が済まない
貴方も、この人たちに殺されるがいいわ
ルールに則り、抗えない数の暴力で……
バタンと開いた、談話室のドア。
昨日見た連中がぞろぞろと入ってきて、何とも言えない表情で、彼女を拘束して行く。
……彼らは、そのお喋りの部下か何かなのだろう。
私に対しては、一瞥するだけで何も見せずに、そのまま去っていった。
最期に、小田はこう残していった。
それでは皆さん、ごきげんよう
ゲームクリアおめでとうございます
そして……ラストゲーム、頑張ってください
あの女があそこまでアクティブに動いていたのも、あいつはやっぱり慣れていたのが理由だった。
彼女は連れ去られ、テレビ画面には真っ赤な血文字で,、
ゲーム終了
と真っ黒な画面に浮かび上がっていた。
波乱なことはあった。
でも、これで……カタチだけ、ゲームは終了したのだ。
これでもう、殺し合いは終わった。
残るは……裏切り者を見つけ出すことだけ。
人狼、を。
最後の……一人?
本物の、狼……?
気づいてなかった。
小田は、私が死を望んでいるコトまでは、知らなかった。
だからか、何も言わなかった。理由らしきことを。
ああ、よかった。
これで、最後の最期で、願いが叶った。
私は、救われる。
……そう、あなたか……
次第にざわめき出す。
最後の一人は誰だ、と周りを警戒し続ける。
そんななか、彼は切り出した。
みんな、黙ってて悪かった……
今だから言えるけど、『探偵』は……俺だ
そうブレスレットを見せたのは、不動。
彼は死にたくなくて、ずっと黙って隠れていた、と言う。
見せたシンボルは、確かに探偵のものだった。
これで、身の潔白が不動は立つわけだ。
でも。
これで……。
……えっ?
…………
――文月が私の顔を見上げる。
速水が、私の方に向く。
今ので、十分。もう、二人には気付かれちゃった。
真澄……探偵じゃないの?
……
縋るように見上げる文月の癖っ毛を優しく手漉きしながら私は微笑むだけ。
不信感を抱いているのに、彼女は大人しくしていた。
何があった、と不動に訊ねられて、迷いに迷ったように文月が16の一件の一件を説明する。
私は、16が狼であることを、予め知っていたことを。
探偵だと思っていたのに、実際は違うことを。
どういうことだ?
なぜお前が、探偵でもないお前があいつが狼だと知っていた?
不動が私に強く問うが、私は文月の髪の毛を撫でている。
……柔らかいなぁ、文月の髪の毛。
上質な、手入れされた猫の毛みたいで、ずっと撫でていたくなる。
…………
彼女は困り、後悔しているようだった。
全幅の信頼をしていた私が、裏切ったかもしれない。
話さないと約束したのに、話してしまった。
そんな顔させてごめんね、文月。
あと……どの口が言うんだろうけど。
嘘ついててごめん、速水。
何となく、そう思った。
悪いことしたな、って。
おかしいなぁ、迷いなんてないのに。
これが望みだったのに。
漸く死ねるのに。
なんだか、ちょっと切ない。
ちょっと悲しい。
ちょっとさみしい。
ちょっと泣きたい。
もういいわ、不動
何も言わない私に、ゲーム終了したのをいいことに暴力に頼ろうとしていた不動始め男連中。
それを制したのは、速水だった。
あなたは……
最初から、私達を……
参加者すべてを……
裏切っていたのね……
――住吉っ!!
彼女が、悲しそうに叫ぶ。
速水は私のこと、少しは信用してくれていたし。
これ、まごうことなき裏切りだよね。
でもさ、最初からじゃん。
こうなること見えてたじゃん。
なんでもいいじゃん。
どうでもいいじゃん。
ふっ……
ふふふっ……
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
そうさ、私は自分勝手なやつなんだ。
だから好き勝手やってたんだ。
みんながどう思うが知ったことじゃない。
私、死にたいだけなんだし。
ばーれちゃったぁ、ばれちゃったぁ♪
げーむますたにいってやろう♪
今はめいっぱい、笑おうよ。
願、い叶うんだ。
長年の、いうなれば夢が。
笑って迎えようよ。
後悔とかないよ?
嘘じゃないよ?
やらなきゃよかったとか、思ってないよ?
嘘じゃない絶対、微塵も思ってない。
やー、その通り!
私が最後の、ほんもんの裏切り者!
あんたらの中に混じって引っかき回していた人狼その人でありますよ!!
最期ぐらい……笑って逝こう。
涙を、隠すために。