……ゲームマスター……聞こえてる?
多分、あんたも気づいてると思うけど……。

……今日で全ての決着がつく……。
……例のアレ……私の部屋に……。

……都合の悪い分部は消せるよね?
……最期に、私が……しておくから……。

……盛り上がると思うけど、見せられないでしょ……。
……お疲れ様、お互いに……。
……うん、それじゃあ……。

さようなら、ゲームマスター

今日で……全ての決着をつけるわ

掃除を終えて、私達は一度時間をおいた。
ショッキングなモノを見せつけられて、みんな動揺しているということで、間を開けたことで落ち着くように配慮したのだ。
ゲームマスターは、今日はシンプルに、テレビに結果だけ記しただけで姿は見せなかった。

1番狼 ルール違反により粛清 

とだけ、表示していた。
姿を見せないのは、私が今日で結末を迎えると報告したからだ。
彼はもっと長続きするかと思ったのだが、ルール違反が多すぎて話にならない、このゲームはもう続けても疲れるだけなので早急に終わらせるように、私に最期を託した。

今日で、終わりだ。
良くも悪くも、全部が終わる。
私の待ち望んでいた、結末が訪れる。
何年も待っていた終焉が、私の救いが。
結局、ゲームの中で私は死ぬことは叶わなかった。
でも、それももうどうでもいい。
私も、ここで終わるから。絶対に、終わるから。

全部、これで終わらせてみせる

真澄

…………

三日目で最終日。進行はあいつに任せる。
まるで事件解決の時の名探偵のように場を仕切る彼女は、見ていて頼もしく見えた。
今の私には、何よりも恐ろしいけど。

…………
切り出す前に先に一つ……
みんなに私は……謝ることがあるわ

早まる鼓動を抑え込む彼らを前に、ゆっくりと彼女は……口を開いた。

ごめんなさい、今まで騙していて

深々と頭を下げた謝罪を彼女はした。
その目は……罪を吐き出す想いがある、罪人のような目だった。
まさかあいつ……。
その予感はすぐに現実になった。
彼女はブレスレットを操作して……自らのシンボルを浮かべて、みんなに見せつけた。
そこに浮かび上がるシンボルは銃。
つまり彼女は……人を、自分の意思で殺した殺人犯。

それを見た彼らは、一様に絶句した。
そう、真相を知っている私たち以外は。
10、11、18の私たち以外はみんな驚いている。

あや

ひぃっ!?

特に初夜に彼女に狙われて、危うく死にかけた文月は隣に座っていた私に抱きついて、ガタガタ震え始めた。
……これが、彼女の行なった行動の結果だ。
彼女は、殺しかけた文月に恐怖を植え付けていた。

彼女が銃のシンボル――テロリストだと知っても、私達は誰も彼女を責めなかった。
彼女はこの三日間、常に右往左往していた彼らを導いていた。
そんな速水が、テロリスト――夜に人を殺していた一人だと知っても、下手すればゲームマスターに全滅させられていた彼らにルール説明や気をつけることなどを説明していたのは誰でもない、速水自身。
責めたいけど、恩を感じているので責めきれない。
そう感じる人も少なくてもいるようだった。

文月はただ、彼女に狙われたことからか、びくびくと半べそをかいているだけで、そんな余裕はない。

見てのとおり、自分からシンボルを明かすのはルール違反ではないわ
示唆されなかっただけで、別に許されない行為ではないの

ここで彼女は一つ、見えない鎖を解いた。
見せてはいけないのではないか、という部分を自ら、私にやったように証明した。
ではなぜあの時、昨日狩人である木島平を追い出すときにそうさせなかったのか?
そう、門崎が問う。

優作

できるのなら、あいつを殺さなくてもよかったはずだ!
証明させればよかっただけの話だろう!?
お前はそれを知っていて……ッ!

真澄

お前は、全員を殺す気か門崎

食いかかろうとするのを、止めたのは……わざと、めいっぱいドスの効いた声を出す、私だ。

あや

ますみ……?

胸元で、文月の泣いている声。
彼女は、弱虫だと思う。ずっとここ二日は泣いている。
涙が枯れないのか不思議なくらい、泣いている。
あまり怯えさせることは、出来ればしたくない。

でも、ごめんね文月。
これが、私の……望みだから。
もう、今日でオシマイなの。
あんたは最後まで護るから。
今だけは……やるべきことを、させて。

一度顔を下げて、優しく微笑んで、私は顔を上げた。
その時には、完全な別人になりきるつもりだった。
態度が違う私を怪訝そうに見る彼らに、私は言う。
疑われたってもういい。
最後なら、最期ならもう、怖くない。

真澄

後から文句を言うのは誰だって出来る
大切なのは、肝心なのは、決めるときに決めること
速水は、必要なことをやっただけ
あの時のあの行為は、正しかった
人柱になった奴は、運が悪かった
それだけでいい
何もせず、何も出来なかったお前が、終わったあとに兎や角言うんじゃない

真澄

お前はいい加減、黙れ
その減らず口を二度と開くな
綺麗事は聞き飽きた
オマケに耳が腐るんだよ、偽善者

真澄

――殺すぞ?

ニヤリと笑うと、びくりと竦み上がった感触。
言葉を失う門崎含め全ての他人。
これでいい。速水が折角終わらせようとしているんだ。
邪魔は、させない。

…………

私が割り込んだことに、彼女はすぐに意味を悟る。
脅すためにわざとキャラを変えてまで進行させようとしている、と思ったのかな。
違う。
これは、私のためであって、彼女を助けるつもりは半分くらいしかない。
でも彼女はほんの少し、会釈してくれた。
感謝される覚えはないけど、最期は素直に受け取っておこう。

どうとでも言うがいいわ
私は、騙していたのだから
それに、後悔していない訳じゃない
苦しむなら後で存分に苦しむつもり
今はただ、決着をつけたい

邪魔をするなら、殺すわよ門崎?

テロリストと明かした速水が睨みつけると、門崎は黙った。
黙らざるを得なかった。
本気だ。本気で邪魔するなら殺す気だ。
今の速水は、私と同じ捨て身。
ノーガード故、攻撃に特化していてちょっとしたダメージでは怯まない。

言ったでしょう、今日で終わらせると
シンボルを、役職を明かしたのは言うまでもない
私は、狼から離反したということよ

その言葉を聞いて、彼らの顔色が変わる。
……狼陣営が、村人についた。
その状況が、彼らに希望を見出した。
そう、彼女は……今は村人陣営の味方だ。

あのバカ狼に愛想を尽かしたわ
いい加減、庇う理由もない
私は、最初に最初に言ったわよね?
現実的に出来るだけ生き延びることを目指すと

彼女の主張は変わってない、ように彼らは見るか。
多くの人を脱出させるために、望まずとも人を殺した。
それが彼女を少しは正当化する。
本当は単純に愛想を尽かしただけで、言葉通り。

最初に文月を狙った事は、ただの偶然よ
話し合いに参加してなかったから、怪しくて狙ったの
結果として20が死んだ
20を殺したのは私であって、文月ではないわ
彼女は、本当に身を守っただけ
死にたくない一心で、ね
だから、彼女は悪くない
悪いのは、私

……流石、速水。
あの子は、自分が殺しそうになった文月を庇ってる。
当然のことをしただけで、殺しに行った自分が悪いと、罪を被った。
明かしたと同時に、最初からこのつもりだったのかもしれない。
文月が弱いと分かった以上、あの責められる事は辛かったと思う。
今更かもしれないけれど、彼女のやったことは、仕方ないことだと説明する。

私が名乗り出た事で悪いけど、同時に名乗り出てもらうわ
もう、隠す必要もないでしょう?
あと、あなたもこっちにきなさい
11番、内通者……湯野

愛衣

あっ……

11番、湯野愛衣。
こいつが……初夜に保身に走った、内通者。
人を殺したくないと言いながら、人殺しの手伝いをしていた、狼陣営。

愛衣

あっちゃー……やっぱバレてましたかー……
漠然と黒、としか情報ないはずなんですけどね……
初夜に自分優先していた事が透けてた原因かな?

ボリボリと頭をかいている湯野。
あれ、こいつキャラ違う? 
あの綺麗事言ってるあいつは何処に行った?
本性はなんか、ズボラっぽい?

そりゃね
最初に迷わず保身したからようだから、どうせ内通者かと思ってたわ
それに昨日から猫被りもバレてるわよ

愛衣

デスヨネー
マジもののデスゲームとか初めてだったんで、取り敢えずあの子っぽく振舞ってみたけど、まあ無理か……

ああ、そういえば木島平追放してる時に突然主張変えたっけ。
もしかして、速水が苛立ってたの伝わって、猫被りバレたか。
あの時の速水怖かったししょうがないか。

愛衣

あ、あたし本性こっちなんですよ先輩方
人殺しのお手伝いの内通者やってました
ちなみに今までは、実妹のキャラを借りてやってました
猫被りっすね

実にあっけらかんと、素らしい湯野はカミングアウトしてくれた。
反省の色はまったく、微塵もない。
ますます唖然とするほかのメンツ。

愛衣

いやぁ、門崎先輩と合わせておけばまあ、追放されないかな、とか思ったらそれ以前に狼が馬鹿すぎて話にならないし
速水先輩に同意見ってことで、あたしも離反しますね

愛衣

あ、そいえばもう一人はいいんですか?
名乗り出てませんけど
あたしだけ指名なんて卑怯じゃないですか?

あいつはいいの

不満そうに私を横目で見る湯野。
睨み返すと、肩を竦める。
一応助けてるからいいか、と判断したようだ。
他の面子が互いを理解していると言外に気付いて、青ざめる奴が一人。孤立無援だ。
完璧、狼殺しの空気になっている。

愛衣

はいはい、了解ですよっと……

そのやる気のない態度やめないと殺すわよ?

愛衣

あ、はい……
すんません……

さっきからそれを言う彼女には誰も逆らえない。
人を殺した相手に、殺すぞと言われるほどストレートな脅しもない。

みてのとおり、ある程度私は黒を予測できているわ
次に、狼を指定する
狼は、覚悟しなさい
指定された人は、もしも違うなら、シンボルを見せて
それが嫌なら自分で白状しなさい
能無しの狼に対する、私達の反逆はね
あなたの無能のせいなのよ

愛衣

テロリスト怒らせるとかマジでないですよねー
ってか一人も仕留められない狼って情けない通り越して邪魔ですよねぇ

湯野、黙りなさい

愛衣

あ、はい……
すんません……
黙るんで、殺すのはちょっと……

軽いな、湯野……。
そっち系の性格だったのか。
ちゃらんぽらんすぎる。
しかも態度弱い。

そんな、場を支配する速水。
鬼気迫る彼女が、そう言って、ゆっくりと、犯人をあばくように。
一人を、指で示したのだった……。

pagetop