ジフテルさんが何かの魔法を
使おうとしている。
――禍々しい光と薄気味の悪い気配。
これは一体っ?
ジフテルさんが何かの魔法を
使おうとしている。
――禍々しい光と薄気味の悪い気配。
これは一体っ?
あれは禁呪だっ!
周りにいる
万物の生命力を吸い取り、
爆発力に変える魔法っ!
その場にいる術者以外の
全てを無に帰す最悪の禁呪なんだ!
そんな……。
しかもあの魔法は
魔王の力を利用している。
その魔王が復活している今、
破壊力はかつての比じゃなく高い!
まさか禁呪の使い手が
いたとは……。
はーっはっはっ!
遺跡を探索した際、
隠されていた古代魔術書を
発見したのだよ!
古代魔法は素晴らしい。
今の魔法とは比べものに
ならないくらい
高い能力があるのだからねっ!
お前、禁呪を使うって意味が
分かっているのかっ!?
例え制御に成功したとしても――
黙れっ!
貴様らの言うことなど、
聞く耳を持たんっ!
正気ではありませんね……。
……ぐぅっ……っ!
突然、ミューリエがガクッと片膝をついた。
もしかして、
すでに生命力を奪われ始めたとかっ!?
……でも僕はなんともないんだけど?
周りにいるみんなも、
まだ何ともないみたいだし。
しまったッ!
シーラ、ミューリエに防御結界だ!
急げ!
は、はいっ!
…………。
シーラが防御魔法を唱えると、
ミューリエは光の衣に包まれた。
それと同時に
ミューリエの表情も少しだけ和らぐ。
苦しそうなのには変わりないけど……。
まずはそこの役立たずどもの
命をもらおう。
ジフテルさんはニヤリと不気味に笑った。
視線の先には、
未だ気を失ったままのネネさんとミリーさん。
なんで?
あの2人はジフテルさんの仲間じゃないか!
ククク……。
ジフテルさんが目を見開くと、
禍々しい光が2人に向かって放たれた。
気を失っている状態では
当然避けられるはずもなく、
それは命中して2人は悲痛な叫び声をあげる。
がぁああああぁっ!
ああああああぁっ!
ダメージを受けたことで意識は
戻ったみたいだけど、
かえってそれが彼女たちを
苦しめているようだった。
なん……で……
ジフ……テル……?
やめ……て……。
俺の役に立って死ねるんだ。
ありがたく思ってほしいものだ。
う……あ……。
ネネさんの瞳から一筋の涙がこぼれた。
すると次の瞬間、
体が徐々に光の粒になって
禍々しい光と同化していく。
ダメだっ!
絶望したら飲み込まれるぞっ!
生きる意志を強く持つんだっ!
う……うぅ……。
…………。
ネネさんは完全に消え去ってしまった。
このままだと、ミリーさんも危ない!
もうこうなったら、
僕の力を使って
ジフテルさんを止めるしかない。
人間相手には通じないかもしれないけど、
何もせず放っておくことなんてできない。
アレス様っ!
シーラっ!?
僕がジフテルさんに歩み寄ろうとすると、
シーラが僕の腕に抱きついて動きを封じた。
ダメですっ!
力を使うおつもりなのでしょう?
人間には通じませんっ!
お忘れですかっ?
だけど……。
アレス様!
危ないことをしないでっ!
お願いっ!
シーラの体は震えていた。
手にも精一杯であろう力が入っている。
振りほどいて動ける状態じゃない。
だけどこのままミリーさんを
見殺しにはできない。
ジフテルさんだって放っておけない。
…………。
仕方なく僕はその場で念じることにした。
ジフテルさんへ意識を向け、
静かに目を閉じる。
ジフテルさん、
戦うのはやめてください。
あなた自身も危険なんです。
それにミリーさんは
仲間じゃないですか。
こんなこと、
やめてくださいっっっっ!
なんだ、これはっ?
えっ?
目を開けてみると、
僕の体は金色の光に包まれていた。
――いや、僕だけじゃない。
抱きついているシーラは銀色の光に
包まれている。
これは……?
シーラ自身も何が起きているのか
分からないようだった。
彼女は巫女だから、
不思議な力を持っていてもおかしくない。
強い想いがきっかけとなって、
眠っていたそれが目覚めたのかも。
そして僕たちの力が合わさって、
何か変化を起こしたのかもしれないな。
一方、ジフテルさんの顔には
焦りの色が見え始める。
くそっ!
魔法力が勝手に収まっていく!
アレス、何をしたっ!?
やめましょう、こんなことっ!
ぐぅ……どんなに抵抗しても……
魔法力が……。
程なく、禍々しい光は完全に消えた。
それと同時にミューリエの顔から
苦痛の色が消える。
でもジフテルさんの体は手の指先から
灰になって夜風に流されていく。
彼自身、
何が起きているのか理解できていないようだ。
これ……は……?
……禁呪を使った代償だ。
強大な力を扱うには、
それに見合った器が必要なんだよ。
普通の人間じゃ、
禁呪の力を受け止めきれない。
だからオイラは
止めようとしたんだ……。
あぁ……そうなのか……。
その言葉を残し、
ジフテルさんは完全に風と同化した。
最後の瞬間、
少しだけ苦笑していたような気がする。
結局、助けられたのはミリーさんだけ。
すごく悔しい……。
アレス様、お身体は大丈夫ですか?
あ……うん……。
なんともないよ。
でも力をお使いに
なったんですよね?
しかも人間相手に効果が
発動しましたし。
うん。でも意識は
ハッキリしているし、
疲れもほとんどないんですよ。
シーラの力が作用したのだろう。
私の力ですか?
アレスを守りたいと想う気持ちが、
力となって具現化したのだろうな。
ただ、
よく分からない力である以上、
乱用は避けた方がいい。
ですね……。
つまりアレスも力を行使するのは、
今後も禁止ということだ。
あ……うん……。
シーラ、ありがとね。
助かったよ。
……っ!
――パチンッ!
えっ……。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
でもすぐに僕はシーラに
思いっきり頬を叩かれたのだと気付く。
叩かれた場所は熱を帯びてジンジンと痛む。
もう……無茶は……
しないで下さい……。
……ゴメン。
うわぁああああぁん!
シーラは泣きながら僕に抱きついてきた。
そして激しくしゃくり上げている。
その時、
シーラに大きな心配をかけてしまったことを
あらためて実感し、
自分の行動を深く反省した。
頬の痛みよりも、
心の痛みの方が僕はつらい……。
今回はやむを得なかったとはいえ、
アレスは約束を破って力を使った。
罰として
明日は持つ荷物の量を倍にする。
よいな?
はい……。
――さて、ミリーとかいったな?
もはや貴様を咎めるつもりはない。
今後はどうする?
……放っておいてください。
そうか……。
では、アレス様。
宿へ戻りましょう。
少しでも休んでおかなければ、
明日の旅が苦しくなります。
えぇ……。
でも少し待ってください。
僕はジフテルさんとネネさんのために
お祈りを捧げた。
ここは墓地だから、
土の下で眠っている人がたくさんいる。
2人ともきっと寂しくないよね?
どうか安らかに……。
お祈りを終えると、
僕はミリーさんに歩み寄る。
――ミリーさん、
仲間に加わりませんか?
えっ?
僕の提案を聞いて、
ミリーさんは目を丸くしていた。
戸惑うとは思ったけど、
ミリーさんは1人になっちゃったし
このまま放っておくのも気が引けたから。
……バカなこと
言わないでください!
ははは、ダメですか……。
……えて……す……。
えっ? 何か言いましたか?
なっ、なんでもありませんっ!
でも……
助けてくれたことには
感謝しています。
ありがとう……。
ミリーさん……。
さ、さっさとどこかへ
行ってください!
では、お元気で。
僕たちはミリーさんを残し、
その場から立ち去った。
――体を休めるつもりで村に立ち寄ったのに、
まさかこんな展開になるとは思わなかった。
ジフテルさんやネネさんも、
あんなことになっちゃったし……。
それにしても、
ジフテルさんが禁呪を使おうとした時、
ミューリエはどうして
苦しそうだったんだろう?
そのことを考えると、
なんだか胸騒ぎがしてならない。
次回へ続く!