過去にジフテルさんたちと何があったのか、
僕はみんなから問い詰められた。

火に油を注ぐと思ったから
話したくなかったんだけど、
あとで話すと言ってしまっている以上、
それはできない。
事実、話を聞いたみんなはさらに憤っていた。

当然、ミューリエたちを説得しようとしても
聞き入れてもらえず。
特にタックやシーラは僕の代わりに
懲らしめてやるなんて言い出す始末だ。

その気持ちは嬉しいんだけど、
しなくてもいい戦いはしてほしくない。
僕は何と言われたって構わないのに……。




――そしてとうとう約束の時間。

僕たちとジフテルさんたちは町外れの墓場で
対峙したのだった。
月明かりの下、
整然と並ぶ墓石が不気味に見える。
 
 
 

ミリー

お待ちしておりました。
逃げなかったことは
褒めてあげます。

ジフテル

このまま戦うのは
面白くありません。
せっかくですから
1対1での対決ではいかがですか?

ミューリエ

私たちはそれで構わぬぞ。
では、そうしよう。

アレス

ミューリエったら、
勝手に返事しちゃって……。

ネネ

じゃあ、最初はあたしだ。
お前らは誰が戦う?

ビセット

では、私が戦わせていただきます。
ああいう
パワーしか取り柄のない相手は
得意ですから。

タック

ビセット、負けるなよっ!

 
ネネさんとビセットさんが前に出た。
お互いに動き出すタイミングを
伺っているようだ。
 
 

ネネ

うぉおおおおぉっ!

 
最初に仕掛けたのはネネさん。
剣を振り上げ、ビセットさんに突進していく。

対してビセットさんは丸腰のまま佇んでいる。


このままで大丈夫なのっ!?
 
 

ネネ

せいやぁっ!

ビセット

フッ……。

 
ネネさんはビセットさんとの距離を
一気に詰め、
剣を振り下ろした。

でもビセットさんはそれを紙一重でかわし、
ネネさんの懐へ入り込む。
そのまま勢いをつけて拳を繰り出す!
 
 

ビセット

はっ!

ネネ

がっ!? ……は……ぁ。

 
――勝負は一瞬で決まった。

みぞおちの付近に
ビセットさんの一撃が決まり、
ネネさんは気を失って倒れ込んでしまう。
 
 

ビセット

はい、勝負ありです。

ミリー

なっ!?

ジフテル

バカな……。

 
ジフテルさんとミリーさんは息を呑み、
呆然と立ち尽くしていた。

その様子を見て、
ビセットさんは得意気な笑みを漏らす。
 
 

ビセット

どうなさいました?
惚れちゃいましたか?
でも私には
アレス様という人が……。

シーラ

ビセット様っ!
誤解を受けるようなことを
言わないでくださいっ!

アレス

てはは……。

 
さすがだなぁ、ビセットさん。
強さもそうだけど、マイペースだよね……。

それにしても、
ネネさんはプレートメイルを
身につけているのに、
気を失うほどダメージを受けるものなの?
 
 

ミューリエ

驚いているな、アレス。

アレス

えっ? うん。
ネネさんは鎧を
身につけているのに
まるでそれがないみたいに
ダメージを受けたようだから……。

ミューリエ

ビセットの今の技は
衝撃を直接人体の内部へ伝える
性質のものだろう。
ちょうど内臓の辺りで衝撃が
最大に膨れあがるようだな。

ミューリエ

周りの筋肉を
鍛えることはできても、
内臓はそうはいかぬからな。
対生物用の技としては
これほど恐ろしいものはない。

アレス

ミューリエでも手こずる?

ミューリエ

そうだな。
まともに食らったら
まずいだろうな。
基本的にビセットの技は一撃必殺。
最小限の力で
敵の急所をつくというのが
ヤツの戦い方だ。

アレス

ふーん、そうなんだ……。

 
ミューリエと話をしていると、
ビセットさんが僕らの方へ戻ってくる。
 
 

ビセット

アレス様、アレス様っ♪
勝ちましたよっ!
褒めてください~。

アレス

えっと……すごかったです……。
戦い方が勉強になりました……。

ミューリエ

では、次は誰が戦う?

ジフテル

くっ……ネネめ……。
油断しやがって……。

ミリー

次は私が戦います。

タック

よっしゃ!
次はオイラの出番だっ!

 
タックが勝手に出て行ってしまった。
ミリーさんと対峙してナイフを構える。

召喚魔法や弓は使わないみたい。
 
 

タック

いつでもかかってこい。
腕を見てやるよ~☆

ミリー

生意気なっ!

 
ミリーさんは剣を抜き、
タックに斬りかかった。

でもタックはすばやい身のこなしで
攻撃をかわしたり、
ナイフで力を受け流したりしている。
 
 

ミューリエ

ほぉ、あの娘。
若いのになかなかやるな……。

アレス

いやいや、若いとか言って
ミューリエと
同い年くらいでしょ……。
それとも見た目以上に
年上なのかな?

ミューリエ

このまま鍛練を積めば、
あいつはまだまだ伸びる。

ミューリエ

ビセットの戦い振りを見て、
気を引き締めたようだな。
動きが洗練していてムダがない。

ビセット

伊達に傭兵をしているわけでは
ないようですね。

シーラ

タック様、大丈夫なのでしょうか?

アレス

そうだね。今のところ、
ダメージは
受けてないみたいだけど。

ミューリエ

ふふ、アイツなら心配ない。
見ろ、表情に余裕があるだろう?
むしろあの娘の方が
焦りを感じ始めたようだ。

アレス

えっ?

ミューリエ

攻撃が一切ヒットせず、
戸惑っているようだ。
タックは召喚魔法や弓が得意だが、
それ以上に
避ける技術が高いからな。

 
確かによく見てみると、
タックはヘラヘラと笑っていた。
一方、ミリーさんは激しく息を切らし、
眉が曇っている。

ぱっと見だと、
押しているのはミリーさんのように
思えたんだけどね……。
 
 

タック

どうした?
動きが鈍ってきてるぞ?

ミリー

はぁっ……はぁっ……
余計な……はぁっ……
お世話です……。

タック

攻撃は当たらなきゃ意味がない。
当たらないなら、
当たるよう布石を打つ。
それが大事だ。

タック

でもお前の動きは一撃一撃が
独立していて流れがない。
もしそういう剣の使い方を
極めたいなら、
ビセットのように一撃必殺の技を
身につけろ。

タック

おっと、
ついつい敵に
塩を送っちまったぜ~♪

ミリー

うるさいっ! 黙れっ!

 
ミリーさんは唇をわななかせ、
無茶苦茶に剣を繰り出した。

そんな雑な攻撃が当たるわけもなく、
タックは意に介さず
軽々とそれをよけてしまう。
 
 

タック

お前の剣技が見事だから、
それに敬意を表して
アドバイスしてやったんだ。

タック

このまま成長を続けたら、
聖騎士ランスを越えるかもな。

ミリー

うるさいうるさいっ!

タック

だからこんなところで
道を見誤るな。

タック

…………。

 
 
 



タックは何かを呟き、魔法力で魔方陣を描いた。

程なくそこから光が生まれ、
ミリーさんへ向けて解き放つ。
 
 

ミリー

きゃあぁあああああぁっ!

 
光に包まれるミリーさん。
その光が収まった時、
彼女はその場に倒れ込んでいた。

まさか死んじゃったってことはないよね?
 
 

タック

気絶したようだな。
オイラの勝ちだ。

ジフテル

くっ、ミリーまで……。

ミューリエ

最後は貴様だな。
私が相手をしよう。

 
タックと入れ替わるように、
ミューリエが前に出た。
でもなぜか剣は抜かずに立っている。

どうしたのだろう?
 
 

ミューリエ

貴様は魔法使いのようだ。
ならば私も
魔法だけで相手をしてやろう。

ジフテル

なめやがってぇええええぇっ!

 
ミューリエの言葉に激高したジフテルさんは、
目を血走らせていた。

いつもの冷静さや丁寧な言葉遣いは
失われている。
 
 

ジフテル

皆殺しだっ!
そして何もかも壊してやるっ!!

ジフテル

はぁああああぁっ……。

 
 
 

 
 
 
ジフテルさんは魔法力の光で
見たこともない魔方陣を描き、
不思議な手振りとともに何かを呟いていた。

すると次第に魔方陣の光は禍々しい色へと
変化していく。
 
 

タック

おいっ! マジかよっ!?

アレス

どうしたの、タック?

 
タックが大きく取り乱している。

つまりジフテルさんの
やろうとしていることが、
それだけヤバイってことっ?
 
 

 
 
 
次回へ続く!
 

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