ヴァンダ

…………

クロ

……姉さん?

ヴァンダ

……足りん。

ヴァンダ

物足りんぞ! クロ!
貴様、もっと面白い話は無いのか!?

クロ

えぇ!?
そ、そんなこと言われてもな……
オレの生涯はほぼ語りつくしたぜ?

ヴァンダ

なんだと?
たかが数時間の雑談でネタ切れとは……
期待外れも甚だしいな。

クロ

なんかひどい言われようだ!?

ヴァンダ

まあいい。
尽きたものは仕方がない。
少々早いが、次の手を打つ。

クロ

次の手?

ヴァンダ

うむ。もう一人呼ぶ。

クロ

えっ

ヴァンダ

如何に出来立ての世界と言えど、
私とお前しかいないのでは話にならん。
幸い、魔力は十分に残っている。
術式を再度起動するなど造作も無い。

クロ

ジュツシキなあ。
オレにはよくわからないけど、
それってやっぱスゲーのか?

ヴァンダ

無論だ。至高の魔帝たるこの私が!
有り余った暇を潰すべく試行錯誤し!
そこらの魔族では到底辿り着けない
極地へと達した召喚術式!!

ヴァンダ

その名も……
『ハイパーアルティメットサモンくん』
バージョン8.293!!

クロ

うわぁ……

ヴァンダ

だが、どれほど優れた術式でも
起動するには相応の対価が必要だ。
それはサモンくんとて例外ではない。
連続使用には制限がある。

ヴァンダ

お前の召喚は試用段階だったのでな。
捧げた対価は必要最低限に留めた。
つまりお前はレア度1だ。コモンだ。

ヴァンダ

より多くの魔力を使用することで!
もっと有能な者が召喚できるはずだ!!

クロ

言ってることさっぱりわからないけど、
遠回しに役立たずって言われてる!?

ヴァンダ

ふふふ。
次はどんな者が召喚されるかな?
心躍るとは正にこのことだ!
頼んだぞ、サモンくん♪

ヴァンダ

ではこれより! 召喚の儀を執り行う!
ゆくぞ! ……ポチッとな。

ヴァンダ

よし! 成功したぞ!

クロ

めっちゃ変な音だな……
つーか「ポチッとな」って……

クロ

まあいいや!
で、一体どんなヤツが――







…………

クロ

…………







クロ

ジョシコーセーじゃねーか!!

うわ! 喋った!?

ヴァンダ

よしよし。
多少はマトモそうなのが来たな。

クロ

マトモなのか!?

ヴァンダ

我が愛しき世界へよく来た、娘よ。
まずは名乗れ。話はそれからだ。

……ツノ?

ヴァンダ

ふむ。ツノというのか。

いや、それ名前じゃないから。

ヴァンダ

なんだ、違うのか。ややこしいヤツめ。

別にややこしくは……
あんたが勝手に勘違いしただけでしょ。

ヴァンダ

ふっ、クロ同様なんとも不遜な態度よ。
だがそれでよい。それでこそ異界の者。
そうでなくては面白くない。

クロ

っていうかあんた、スッゲー冷静だな?
自分の状況わかってるのか?

ううん? まったく。

学校に行こうと思って家を出て、
気が付いたらここにいたのよ。
状況分かってるわけないでしょ。
……で? あんた何? 妖怪?

クロ

猫だよ!!!

それは見ればわかる。

クロ

えー……

私が聞きたいのは。
どう見ても猫のあんたが、
なんで喋ってるのか、ってことよ。

ヴァンダ

愚問だな、娘。
ここは私が創った世界だぞ?
言語の統一は既に済ませている。

言語の統一……?

ヴァンダ

そうだ。当然であろうが。
せっかくサモンくんの力で異界者を
呼び寄せることが可能になったのだ。
そやつと私が話せんのでは意味がない。

ヴァンダ

まあ、クロのような異形の存在にも
適用されたのか些か不安だったが……
問題なく機能しているようだな。
さすが私!

クロ

異形ってほど変な形してねーぞ!!

……さっぱり話が見えないわね。
ツノ生えた人、説明してよ。

ヴァンダ

いいだろう。
この、世の支配者たる私が! 直々に!
無知なお前に色々と教えてやる。
心して聞いておけ。

いちいち言い方がムカつくわね……

※しばらくお待ちください

ヴァンダ

――というわけだ。わかったか?

全然。

ヴァンダ

む、そうか?
私なりの全力の懇切丁寧、
わかりやすい説明だったと思うが。

あのねえ……
いきなり異世界とか言われて、
あっさり信じるわけないでしょ。

まったく、付き合ってらんないわ。
さっさと本当のことを教えてよね。

クロ

いや、姉ちゃんには悪いけど……
ヴァンダ姉さんが言ってることは
全部本当だぜ。

クロ

そもそも、オレがこうして姉ちゃんと
話してることが、別の世界に来ちまった
何よりの証拠だろ?

………………

……それもそうね。

ヴァンダ

ようやく理解したか。

まあね。半信半疑……
いや、一割くらいしか信じてないけど。
私が普通じゃない状況におかれてるって
ことは間違いなさそうだわ。

とりあえず、早いとこ元の世界に
戻してほしいんですけど?

ヴァンダ

それは無理だ。
いくら私が天才でも、
叶えられん願いだな。

……どういうことよ。

ヴァンダ

私が完成させた術式……
便宜上「召喚」と呼んでいるが、
この魔法の本質を正しく言うならば
「複製」だ。

ヴァンダ

異世界の存在を「複写」。
そうして出来た存在を「召喚」。
それがサモンくんの原理なのだ。

クロ

その話はオレも初耳なんだが……
つまり、どういうことだ?

ヴァンダ

すなわち。
貴様らが持っている「記憶」は、
コピーしてきたものなのだ。
元の世界で活動を続けている
貴様らの「本体」から、な。

ヴァンダ

こうしている間にも、
おそらく元の世界の貴様らは
平凡な日々を謳歌しているだろう。
貴様らを元の世界に戻すことは、
「貴様らが二人に増える」
ということに他ならない。

ヴァンダ

そのような異常が発生したとき、
一体何が起こるのか……
些か興味はあるが。どうする?
今この場で試してみるか?

……なんだかよくわからないけど。
元の世界にも「私」がいるから、
私自身はここにいた方が良いってこと?

ヴァンダ

端的に言えばそういうことだ。
物分かりの良い奴は嫌いではない。

そう。それさえわかれば、まあいいわ。

クロ

……いいのか?

ええ。要するに、
抵抗のしようがない上に、
する必要もないってことでしょ?
だったら、焦っても仕方ないわ。

クロ

そりゃまあ、たしかにな。
やっぱ姉ちゃん、肝が据わってるなあ。

そうかしら?
開き直るのが早い、とは
周りからよく言われてたわ。

それで……私は何で呼ばれたんだっけ?

ヴァンダ

さっきも言ったであろうが。
私の世界の住民になれ。それで十分だ。

ああ、そうそう。そうだっけ。
すっごい長い名前を聞かされたのが
インパクト強すぎて忘れちゃった。

……えーっと。

ヴァンダ

なんだ、我が尊名を忘れたか?
まったく仕方のないヤツめ。
特別にもう一度だけ教えてやろう。
ヴァンダ・コンセプシオン・シュリック・アファナーシエヴナ……

あー、大丈夫! 思い出した!
ヴァンダね、ヴァンダ! うん!

ヴァンダ

…………本当に思い出したのか?

もっちろん。私、嘘つかないわよ?

……まあ、全部は思い出してないけど。
「全部思い出した」とは言ってないし。
うん、嘘じゃないわ。

クロ

オレの名前は……

クロでしょ?

クロ

おう! 覚えてくれたか!

まーね。

黒猫のクロなら、間違えるわけないわ。
ツノの人もクロみたいに
わかりやすい名前にすればいいのに。

ヴァンダ

それでだ、娘よ。
貴様のことは何と呼べば良い?
名乗られたら名乗り返すのは常識だと、
クロが先ほど言っていたが。

へぇ……
猫にもそういう常識ってあるのね。

私は杏よ。松葉 杏。

ヴァンダ

マツバ=アンズ、か。良き名だ。

ヴァンダ

……そうだな。
アンズにも我が従者として
働いてもらうこととしよう。
クロだけでは心許ない。
話題も尽きていることだしな。

クロ

なんかオレ、もうお払い箱感が……
ミカン箱に入れるのは勘弁な!!

ヴァンダ

ミカン箱というのはよくわからんが……

ヴァンダ

まあよい。実に順調ではないか。
私は気分が良いぞ! うむうむ。
この調子なら、目標到達は簡単かもな!

……あの人、あんな顔もするんだ。

1話 たぶんレア度2くらい

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