…………

……驚いた。
褒美がどうのって言うから
何かと思ったら……

クロ

へー!
これがガッコウってヤツか!
はじめて入ったぜ!

お、クロも来たのね。

クロ

おうよ!
ヴァンダ姉さんの話し相手は
すっげえ疲れるからな……
息抜きついでに来てみたぜ!

あとで本人に言っとこう。

……それにしても。
この場所、本当にあの人がつくったの?

クロ

あの人って、姉さんのことか?
んー、どーだろな。
スゲーことやってるのは確かだぜ。
ただ、難しすぎてよくわからん。

ま、そうよね。

お城みたいな廊下の扉開けたら、
その先が私の学校の教室だった……
なんて、もう何でもアリって感じ。

クロ

なあなあ! もし姉さんに頼んだら
サカナがいっぱいある部屋とかも
つくってくれたりするかな!?

サカナがいっぱい……
もしかして魚屋のこと言ってる?

……さあ? どうかしらね。
一応「ご褒美」って話だったし、
何か役に立たないとダメなんじゃない?

クロ

うーん……役に立つ……。

……どうかした?

クロ

……オレ、ネズミ捕るのが下手だから、
よく「役立たず」って言われてたんだ。

クロ

オレにできる
「姉さんの役に立つこと」って
何かあるかなーって思ってさ。

……猫でも悩むことはあるか。
ま、誰にだって悩みはあるわよね。

そんなに心配する必要ないわよ。
たぶんあの人、私とかクロみたいな
異世界の人と話したいだけだし。

つまり、クロは今のままでいいの。
あの人の話し相手をしてくれると、
私としては楽ができて助かるしね。

クロ

……そうかな?

そうそう。
ほら、もっと自信持って!

クロ

よーし、それなら!
話し相手をバッチリ務めて、
いつかご褒美にサカナ天国だ!

わりとあっさり立ち直った……。

ま、いいか。
どうせ私は欲しいものとかないし。
その分、この子が幸せになれば――

クロ

おっと、そうだ!
言い忘れるところだった!

ん? なに?

クロ

オレは「異世界の人」じゃなくて
「異世界の猫」だからな!
そこは訂正しとくぜ!

……細かいわね。
そこ、気にする必要ある?

ヴァンダ

――なに?
褒美はサカナヤが良いだと?

クロ

おう!
あのガッコウは杏の記憶から
つくったって姉さん言ってたよな!

クロ

だったら、オレの記憶から
サカナ天国をつくってくれ!
なー、いいだろー?

ヴァンダ

ううむ……それは難しいな。

クロ

……難しいのか?

ヴァンダ

うむ。私にはその「サカナ」
というのが何なのか分からん。
ゆえに、複製のしようがない。

クロ

そうかあ……
天才の姉さんにも出来ないなら、
しょうがないな。諦めて――

ヴァンダ

おい。何を早合点している?
聞き捨てならん言葉が聞こえたが。

クロ

……え?
だって難しいって……

ヴァンダ

確かに「難しい」とは言った。
だがしかし、私は「出来ない」と
言ったか? いや言っていない。

ヴァンダ

よって我が臣、クロに命ずる!
私に「サカナ」を教えよ!
我が知識の充実を以て、貴様には
「サカナヤ」をくれてやろう!

クロ

ホントか!
ホントのホントにくれんのか!?

ヴァンダ

当然だ。魔王の血筋に二言はない。
そして、忠義を尽くす臣に相応の
褒賞を与えるのも至極当然のこと。

ヴァンダ

何より知識の充実は、世を支配する
私にとって最高の悦びである。
今後も忠勤に期待するぞ、クロよ。

クロ

おう!
任せとけって!

……ああ、そうだ。
誰の役にも立てぬというのは、
ひどく苦しいことなのだ。

私はそれを知っている。
ゆえに、私はお前を愛そう。
たとえ世界の誰もが不要と断じても――

――私は。
私が、お前を役立てよう。
私の世界で、お前はヒトの役に立て。

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