昼間の騒がしさが嘘のように、しん、と
静まり返った高校。

電気が消え真っ暗な校舎の中で、窓から差し込む
月の光だけが階段の踊り場を照らしている。

その青白いその光の中で、今夜も僕はミノリとの
おしゃべりに夢中になっていた。

……でさ、何も知らないくせに、
そんなこと言うんだよ?

うーん、それはひどいなぁ

昼間の出来事を勢い込んで話すと、ミノリも顔を
しかめてみせた。

まったく……ちょっとでもミノリと
話してみれば、すぐ分かるのに

うん……でも、私の話を聞いてくれるのは
シンジだけだから……

静かにそう言われて、僕は思わずはっとした。

そう、ミノリは幽霊だから、姿も見えないし、
声も聞こえない。
例え見えたとしても、皆怖がって逃げてしまうだろう。

忘れ物を取りにきた夜、初めてここで姿を見かけて
思わず声をかけたときの、ミノリの驚いた顔は
今でも忘れない。

そのままなんだかぽつぽつと言葉を交わすうち、
気付けば会話は弾み、今では僕は夜になると
こっそりとここに通うのを楽しみにしていた。

……僕だってそうだよ。
僕の話を聞いてくれるのも、
話をしてくれるのも、ミノリだけだ

ガチン、と大時計の針が鳴る。
顔を上げると時間はもう十時をまわっていた。

もうこんな時間……そろそろ帰ろうか

そうだね、お母さんにばれたら心配するし……

僕は渋々立ち上がるとぱんぱんとお尻を払った。


そのときだった。

  おい! 誰かいるのか!?

突然大声と共にぱっと強い光に照らされて、
僕はそのまぶしさに思わず、ぎゅっと目をつぶった。

咄嗟に手を上げて顔を隠そうとしたが、その前に、

うわあああ! ゆ、幽霊だ!

太きな悲鳴が響き渡り、続いてガタンと物を落とす音、
そしてばたばたと足音が遠ざかっていくのが聞こえて、
そろそろと目を開けると、もう階段の下には、
灯りの付いたままの懐中電灯が一つ、
からからと転がっているだけだった。

今の……先生? 
校舎の見回りしてたんだ……!

見られた……よね?

二人で顔を見合わせる。

急いで、先生が戻ってくる前に!

う、うん、でも……

私は大丈夫だから、ほら早く!

ミノリに急き立てられるようにして、僕は慌てて
そこから逃げ出した。

ミノリは「大丈夫」なんて言っていたけど……
僕はなんだか嫌な予感がして仕方無かった。

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