上から降ってきた声に、僕は思わず顔を上げた。
教室移動の途中なのか、教科書を抱えた女の子が二人、
騒ぎながら階段を降りてくる。
ねえ知ってる?
ここの階段、幽霊が出るんだって
上から降ってきた声に、僕は思わず顔を上げた。
教室移動の途中なのか、教科書を抱えた女の子が二人、
騒ぎながら階段を降りてくる。
夜に忘れ物を取りに来た子が、
そこの踊り場に、幽霊が立ってるのを
見たんだって……!
知ってる知ってるー、
結構噂になってるよね、怖ーい
そう口では言いながら、ちっとも怖くなんかなさそうに
けらけらと笑う。
僕と同じ色、二年生の青の上履きがちらりと目に入り、
僕はふいと視線を逸らした。
なんか昔、階段から落ちて死んじゃった
この学校の子らしいよ
え、じゃあもしかして……
うっかりその幽霊に遭っちゃったりしたら、
『お前も道連れだ……!』なんて言われて
階段から突き落とされちゃったりとか?
うんうん、ありそう!
やだ~!
すれ違いざまそんなことを言っているのが聞こえ、
僕は思わず振り返って叫んでしまった。
……っ、そんなことしないよ!
………………
………………
女の子達は、
――思ったとおり、無反応だった。
くすくす笑いながら、さっさと廊下を歩いて
いってしまう。
分かってたけど、言わずにはいられなかった。
――何をしたわけでもない、思い当たるとしたら
クラス替えのすぐ後、自己紹介のときの声が
小さかったことくらいで。
気付いたら僕は、クラス中の皆から無視をされるように
なっていた。
話しかけられることもなく、勇気を出してこっちから
話しかけても知らんぷり。
そんな空気はなんとなく他のクラスにも
伝わったらしく、今はもう、同じ学年に仲が良いと
いえるような人はいなかった。
僕のことを知っている人みんなが、僕のことを知らないふりをする。
だから言っても無駄だって、分かってたけど、
黙っていられなかった。
だって、
ミノリはそんなこと、しない……!
その幽霊、ミノリは僕のたった一人の友達だったから。