真澄

結論から言うね
私があの子に教えたんだよ
狼はきっと狙ってくるから、用心しておいてってね

なっ……!?

姉のことをダシに説明をして、次は文月との一件。
これがどうやら、私が狼を裏切ったと彼女には見えたらしいが……別に裏切ったつもりはない。
手を組んだ覚えもない。
その説明はできるだろう。

真澄

今朝、部屋を出たときに……まず16の異変に気付いた
で……次に17の部屋が空いているのにも気が付いた
それに加えて、15の文月の部屋も開いてた
私はまっ先に文月の部屋に入ったんだよ

…………それで?

真澄

あんたには前の晩に話したね?
狼は文月を狙うかもしれないって
それを、前日に彼女にも伝えていたんだよ

なぜ、伝えたの?
狼が死んだのは、あなたのせいじゃないと?

真澄

運が悪かった、そんだけだよ
私はただ、昼間の投票に有利なように、完全中立で切り離されたあの子を味方につけるために、憶測を話しただけ

それから私は、文月から聞いた話を彼女に伝えた。
みるみる、彼女の顔が険しい顔になっていく。
だろうね、馬鹿だよね狼及び西郷のやつは。

あンのバカ狼……

話終える――西郷の脅しが決め手になって、私の警告を訝しげに聞いていただけの文月が、身代わりにする決意をしたのを後押ししたのはあいつ自身だった、ということが分かると速水は唸り声を上げる。

こっちは危うく、仲間割れするところだったじゃない……
なんなの、狼馬鹿なの?
全員殺したいの? 
同じ陣営なのに?

真澄

ルールをまだ理解していない……
そんなところだろね
それが私が裏切ったかのように見えた
真実はそれだけだよ

真澄

その一件でどうやら私は文月に『探偵』だと思われてるみたい
何を思ったんだか知らないけどね
あの子もルールをまだ把握していないのに二度も狙われたから、安心できる人が欲しくて私にしたのかもしれない

適度に嘘を混ぜる。
あの子が探偵だと思ったのは私が狼だと指定したからだ。
役職を知っているのは、探偵だけ。
それを言い当てた私を探偵だと思った。妥当なところだ。
種明かしすると私はルールの埒外であって、ズルをしているというシンプルな話だけど。
適当に誤魔化して説明すると、彼女はすんなり納得した。
多少強引に進めても怪しまれない。
何故ならここは非常識の塊だから。
日常なら疑う強引な説でも疑わないのはみんな、感覚が麻痺してきているから。
使わない手はない。

真澄

あ、身代わりは私たちにはするなって言ってあったよ
私達は狼じゃないって、狼の味方ならこんなこと言うはずないってね
だから、あの子は私達が狼陣営じゃないって思ってる

そこまで考えて……
ごめんなさい疑って

真澄

いいよ、勝手に行動したんだしね
これは承知の上だった
狼が死ぬ以外は、だけれど
まさか自滅するとか思ってなかったよ……

乱暴に頭をかく私に、彼女は気にしても仕方ないと慰めてくれた。
あいつを殺したの私。でも明かさない。
だって他の連中は今頃右往左往しているだろうし、それが目的なのだ。

でもこれで私達は、昼間に裏切らない味方を一人つけた、ということになるわね

狼の自滅は痛かったけど……
木島平を追い出せたことは、大きいかもしれないわね

真澄

あいつマジものの狩人だったしね
これで狼の邪魔をする奴はいないってこと

あのあと。というか、今だろうか。
私達の各部屋のテレビには、お知らせを知らせるように勝手に電源ががついていた。
私が速水に、文月の一件前にちょっと待ってと言って、画面を見るとそこにはテロップが流れていて、昼間追放した彼の役職は狩人だった、と流れていた。

これで護衛が一個消えた。
狼の殺しを阻害するモノは、何もない。
……そう。
なにも、ない。
私だけが知っている結論。

……ないといいけどね……

真澄

そっちよりも、後は私達の方だよ
警備兵が残ってるせいで8番殺し損ねたし

そんなことよりも、目下最大の問題は警備兵のことだ。
奴は自分が襲われても狼なら跳ね返し、私達なら他者を守ることができる。
つまり、排除するには私達が攻撃するか、昼間追い出すかをしないといけない。

……そうね
8番は少なくても警備兵じゃない

真澄

15は村長、13と18は私達だから……誰を狙うべきかな?

私が端的に分かっている数字を言うと、彼女は先日から書いているメモを取り出した。
黙って見下ろし、思惟に耽る。
それを隣から覗き込むと……。

真澄

!!!!

私は度肝を抜かされた。
そこには……存命している全ての参加者の言動が事細かに記されており、予想される役職が書かれており、更には盗み見たという情報も残されていた。
この時点で十分驚きだったが、私が冷や汗を流したのはそれじゃない。
恐ろしいと思ったのは、彼女の予想だった。

真澄

予想、だよね……
なのに黒の役職が全部的中してる!?

村人や他の役職のことは知らない。
だが……私は黒の役職の所在を全て把握している。
だからこそ、驚いた。
彼女……速水が予想した黒の役職は、私の知っている役職と一致していたのだ。
小田は狼かもしれない、私は殺人者っぽい言葉、自分はテロリスト、11は一部の人間に対してだけ挙動不審だから内通者、など。
纏めた情報を引き算していって、それでぴったり合う役職を当て嵌めて考えられていた。
死んでいる分も、大体合っている。
嘘でしょ……。
たった二日。
二日、僅かな時間を過ごしていただけで、あの人数を纏めていただけで、黒の言動を全部見抜いていたっていうの!?

既に、7人死んでいる。
その役職も、19と16の部分はあっている。
しかも探偵まで……正解しているのだ。
何が起きてるんだ、これは……。
まさか。まさか、とは思いたい。
でも……速水は、速水なら。
案外、有り得るかもしれないと恐れている自分がいた。
だって、ここに、証拠があるじゃないか。
ルール違反で中身を知っている私以外に、恐ろしい的中率で透かしている怪物が……いるじゃないか。
全部、彼女にはお見通しなのか?
早い段階から、下手したら自己紹介の部分から誰が誰だか見抜いていた……?
一つ考えると、次々連鎖のように怯えが続く。
速水は少しでも有利になるように、話の通じそうな私に共闘を持ちかけた?
全部……私の言動も全部、透けていたのか? 
さっきのこのやりとりも、ただのパフォーマンス?

真澄

……やばい……

本能的に、私の中の壊れていない部分が警鐘を鳴らした。
全身の産毛が総立ちした。
戦慄というのは、こういうのを言うんだろう。
速水を敵に回したら……私、軽く殺されるんじゃないか?
昼間に追放されるんじゃないのか?
違和感なく、後腐れもなく、処分されるんじゃないのか?
今初めて、殺されることが怖いって思った。
死ぬのを望んでいるのに、恐れなんてないと思ってたのに。
なのに。
速水に殺されることが、ルール違反で爆殺するのと同じくらい、嫌だと思う。
彼女は……天才、なのかもしれない。
凡人の私と違うんだ。
嘗て、姉のときに感じた感情よりも、もっとハッキリしているこの想い。

隣の人間に対する恐怖だった。
どれも可能性を否定できない。
こいつなら、この観察眼と推理力を持ってすれば、全部ありえる!!
私がゲームマスターに通じていることを、彼女はもう気付いているのか?
気づいていて、一緒にいたほうが生きやすいから、手を貸している?
私が何かする気になる前に、先手を確実に取れるから、あえて飼い慣らしている?
私が死を望んでいることが、速水にバレている!?

真澄

やばい…………ッ!!
速水だけは……!!
敵にしたら抹殺される!
私の最も嫌がる方法を取られる!

これが、怖いって感情だったんだ。
無敵だと思っていた私は、天狗になっていたんだ。
彼女は――速水は覚悟を決める前から、私よりも遥かにバケモノだったんだ。
こいつ、人間じゃない。
エスパーか何かだ。
でなければ、こんな100%の的中率、有り得ない!!

……今夜は、ちょっと様子を見ましょう
二日で7人……ハイペースで減りすぎて、自滅する可能性が出てきてしまっているわ
これ以上不利にするのは流石にマズイ

真澄

…………

……どうしたの住吉?

真澄

何でもないよ
今夜は様子見ね、分かった

メモから目を逸らして、何とか動揺を隠す私。
多分平気だ。普通に対応できてる。
それを、速水は。

……ねぇ、住吉
何か言いたいことがあるなら言ってくれる?
隠すとお互いのためにならないわよ
何に動揺しているのか知らないけどね

やっぱり見抜かれてる!!
取り繕ったのに読まれてる!?

私、あなたに何かした?

真澄

な、何でもないよ
うん、何でもない

……………………
深くは聞かないけど、何かあったら言って

真澄

う、うん……

油断ならないどころか、彼女は本当は何を考えているのか分からない。
しっかり、距離を置かないと……。
じゃないと、寝首を掻かれない。
速水に殺されるのは絶対嫌だ。
このとき強く、そう思った。

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