【第六話】
『ぶっ壊す』
【第六話】
『ぶっ壊す』
ケーキ屋『マスカレイド』は昼のOL達のランチラッシュが過ぎると、二時から四時までの間は客は殆ど来ない、たまに訪れるのは偶然店を見つけた人や、学校が早めに終わった学生など。
一通り片付けが終了した店内はマスターと寺島鳴海。そして、満腹そうな笑顔を浮かべて天井を仰ぎ見るトキオだけだった。
おやっさん。やっぱケーキ最高!
ありがとトキオ君
鳴海はわざとらしく、トキオの側をホウキで掃く。不自然な勢いでホウキは何度もトキオの足にガシガシと当たる。
おやっさんじゃない。マスターだ
おやっさん。気になってたんだけど、この無愛想なブサイクは何?娘とかっていたっけ?
言いながら鳴海をしっかり指さす―――が、直ぐに鳴海のホウキによって指は叩き落とされる。
マスターは二人の姿を見て笑いながら答える。
遠い親戚みたいなもんだ
ふーん。つまり、ワケありか
またマスターは、ただ笑っていた。どうやら余りウソや隠し事は苦手なタイプの様で、トキオが察する形となる。
そんなら、もう聞かねぇ。悪かった
トキオはマスターと鳴海に深く頭を下げて謝った。その姿は何とも潔く気持ちのよいものでもあった。
マスターはトキオの座る席に来て聞いた。
睦生は・・・元気なのかい?
親父なら死んだよ
そうか
二人には異様な空気があった。それはマスターが質問する前から『死』を確信してた様であり、トキオも最初から質問を確信していて言うつもりであった様でもあり、ただ互いに頷くだけの空気。鳴海はそれを感じて、近くの席へ腰を落とした。
結構あっけなかったんだよ。みんなの命を守ろうとして、研究員だった人を研究所に集めたんだけど・・・そん中の一人が既にコンバイドで―――全滅。俺は偶然秘密の地下室の近くだったから、見られずに隠れられたんだけどさ・・・あっけないわな
睦生にかなり昔に聞かされてはいたが、人が別の人格になる症状『コンバイド』か・・・まさか息子からもその言葉を聞く事になるとは。それにトキオ君。その腕は・・・?
トキオは右腕の袖をまくり上げて腕を見せる。その腕は一見肘の辺りに妙な機械が埋め込んであるだけであるが、肘から手首、指先まで突然七色の光を放つ。
親父が途中で放棄した兵器・・・通称【7ARM】。本当は『A-シリーズ』の新しい戦闘スーツに付けるはずの機能だったらしいんだけど、結局腕しかなくてさ。研究所の地下室で隠れてた時に自分で腕を切断して繋げたよ。俺はコレで戦う
マスターはトキオの襟を掴み怒声を上げた。
バカな事を言うんじゃない!一人で何が出来ると言うんだ
でも、俺しかいねぇんだよ
揺るぎの無い眼差しは、トキオの信念を映し出している様でもあり、どこか陸生の様でもあり、マスターは返す言葉もなく、力無く掴んでいた襟首を離す。
しかし、トキオはマスターの手を取り強く握った。
おやっさん!ありがと。心配してくれたんだよな。気持ちしっかり伝わったから
トキオ君―――
たださ。お袋を殺したのもコンバイドなんだ。それで親父もコンバイドに殺されてさ・・・俺だけ逃げるワケにはいかねぇのよ。それに親父が作ったのは【7-ARM】だけじゃないんだ。コレを使って―――ぶっ壊さなきゃなんねぇんだ
トキオは言いながら、左腕に手錠で繋がったアタッシュケースを睨みつけた。
ぶっ壊すって・・・