【第五話】
『繋がり』

 グリムの可能性がある男が逃げてから二日が経過していた。
警視庁捜査一課の船橋と左右田は、田園調布の一角にある豪邸の庭で屋根を眺めていた。

屋根から宙吊りになってたんですよね・・・遺体

そうだ

バラバラよかマシですね

・・・相変わらず不謹慎だな

あっ。すみません



船橋と左右田は玄関の方へと回り込み、入り口に立つ警察官に挨拶し、家の中へと入る。

うわっ・・・玄関広っ!部屋ですよコレ



無駄に騒ぐ左右田を無視して船橋は家の奥へと歩を進める。
家は二階建てで、一階にはキッチンや応接間等が広々とあり、二階には部屋がたくさんあり、それぞれが家族一人一人の部屋であったり寝室などだった。
船橋は辺りを見回しながら、二階にある書斎へと進み、左右田も後を追う様に続いた。

船橋さん。事件があったのに家の中は綺麗ですよね

そうだな



書斎の中も綺麗であったが、唯一明らかに違う事は部屋の窓ガラスが割られている事だった。

犯人はあそこから侵入した・・・

そして同じ窓から出て、遺体を屋根から吊るした

吊るす必要ってあったんですか?

無いだろな・・・人間には不可能だし、やろうとも思わない。こりゃ完全にアンノウンケースだねぇ



左右田は部屋の中にある、高そうな家具を見て呟く。

この家の人。社長とか重役でもなくて特に肩書もない平社員ってわりに、金持ちチックですよね。悪い事をでもやってたんですかね?

・・・お前なぁ



しかし、左右田の言う何気無い言葉は本質に近いことも多く、船橋はそんな左右田の言葉を嫌いになる事はなかった。ただそれは、不謹慎極まりない失言と暴言でもあるのが悩みでもあった。
その後、船橋と左右田は家の中を調べたが、特に目を引く様な物もなく、今回の事件は人為的でなく、グリムによる可能性が高いと判断できた。
外に出ると左右田は船橋を呼び止めて、表札を指さして言う。

これ。なんて読むんですか?



表札には『降屋野迫』と書かれている

『ふるやのさこ』だとさ。普通、被害者の名前くらい確認しとくだろ

いや、経歴とかには目を通したんですが、どうしても読めなくて・・・聞きそびれたってのもありまして・・・あの。すみません



やはり、どこか抜けている左右田を横目に船橋はパトカーへと向かうが、左右田は未だに表札を見ている。

何してんだ?



船橋の声に左右田は頭を掻きながら言う。

いや。結局、ここ二日間で七星陸生の所在も分からなかったですし、無事なのかって思いましてね

何で突然、七星陸生の話をしてんだ?



船橋の当然の問いに左右田は表札を指さし言う。

変わった名字繋がりです

あのな・・・

無いですかね?ここ最近の事件との繋がり



言い終えた後の左右田は、どこか哀し気で、最近多発している事件に対してのやり場のない怒りの様な物が、船橋には見えた。
船橋はそっと左右田に近寄り、肩を叩く事しかできなかった。
その時、船橋の携帯が鳴る。


 ケーキ屋『マスカレイド』では、一人の男が机一杯にケーキを並べてニヤケながら、ぶつぶつと呟いている。

こんだけあると、逆に悩むよ



ランチの為に店に来ているOL達は男を横目で見ながらクスクスと笑っていた。しかし、男は周りを気にする事なく悩み続けている。
キッチンではマスターも笑ってい見ている。ウェイトレスをやっている寺島鳴海はマスターに近付き言う。

アイツ、営業妨害

まぁまぁ。トキオ君は僕のケーキが好きだったからね

いや、例え好きでも・・・あのニヤケ顔は許せないわ。何て言うか―――食欲が失せる!

いいじゃない。鳴海ちゃん。トキオ君せっかく元気になったんだし

でも・・・



一方、トキオは未だ悩んでいた。

よし!



鳴海の方を向いて片手を上げて声をかける

すみませーん。すみませーん



呼ばれた鳴海は渋々な表情と重い足取りでトキオの方へと向かう。

どうされましたか?オ・キャ・ク・サ・マ



愛想すら感じられない機械的な接客トーク。
トキオは気にせず、鳴海に笑顔で言う。

とりあえず、オムライス1つ

どう、とりあえずだ。言ってみろ―――!


 船橋は携帯電話を切ると、しばらく押し黙ったままになった。

どうしたんですか?

降屋野迫の家族から警視庁に連絡があったそうだ。旦那に子供を連れて旅行に行けと突然言われて無理やり外出させられたんだと

それって、妙ですね。こうなる事を予想してたんじゃ



左右田の言葉に船橋は首を何回か振り答える。

案外あるのかもしれんぞ―――繋がりってのが

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