はい、それじゃあ今日は彫刻刀で板を掘っていきましょう

はるみ

先生、私この机やだ

どうして?

かずき

その机呪われてるんだぜ

はるみ

やめてよ!

かずき

なんだよ、ほんとのことだろ
その机に座ってると呪われていつか死んじゃうんだぜ

こら!かずきくん!
そんなこと言ったらダメでしょう

はるみ

………

はるみさん、そんなに嫌だったら席を変えてもいいわよ

かずき

あー!先生ずる!
だったら俺もなおとの近くに行くよ!

ダメです

かずき

うわー、ひいきだひいき!

はい、それじゃあ授業を始めますよ

結局わたしは席を移らずに授業を始めた。

でも、この席が呪いの机と呼ばれてるのは本当なので怖くて仕方ない。

この席に座った人は、みんななにか嫌なことがある。

なつこは絵の具の水を頭からかぶったし、
しゅんやはかなづちで指を打った。

他にも何人かこの席に座った子がいるがみんななにかあった。

そして、今日は私だ。

かずきとなおとは、まだこの席に座ったことがないからあんなことが言えるのだ。

はるみ

いやだな…

溜め息混じりでそんな声がでてしまう。

普段はどんな作品を作ろうかわくわくしながら考えるが、今日はそんな気も起きなかった。

なつこ

はるみ、どんなの彫るの?

心配してくれたのかなつこが声をかけてくれた。

はるみ

まだ考え中
なつこはどんなの?

なつこ

わたしは動物園みたいにたくさん動物を彫ろうと思うの

そう言うと、嬉しそうに下書きを見せてくれた。

はるみ

わあ、かわいい
わたしもそんな感じにしようかな

なつこ

それがいいよ!

なつこ

あっ、でも同じのはダメだよ
はるみ上手だからわたしのが下手に見えちゃう

はるみ

そんなことないよ

なつこと喋っていたら少し元気が出てきた。

なつこ

それじゃあ、わたし続き作ってくるね

はるみ

うん

はるみ

よし、私もがんばろう!

なつこのは可愛かったけど
同じのはやだって言ってたっけ。

ならわたしは花にしよう。
きれいな花作ってみよう。

はるみ

よし、やってみよう

かずき

はるー、お前なに作ってんだ?

はるみ

花だよ

かずき

なんだー、花かよ

はるみ

そういうかずきはなんなの?

かずき

へへー、俺は竜だぜ!

はるみ

竜?

かずき

そう!
鱗を彫んのが面倒だけどかっけーのを作るんだ

かずき

まあ、はるにはできないやつだよ
お前はがんばって花作れよなー

得意げに言いながら
かずきは席に戻っていってしまった

はるみ

なにあいつ
わたしだってかわいいの作るんだから

手伝ってあげる

はるみ

……?

なにか声のようなものが聞こえた気がした。

なおと

はる、どうした?

はるみ

なおとなんか言った?
いま声かける前に

なおと

いや、別になにも言ってないけど

確かに声が聞こえた気がしたが、
気のせいだったんだろうか。

なおと

あんまり噂とか気にするなよ

はるみ

うん、ありがとう

はるみ

あー!

なつこ

どうしたのはるみ?

はるみ

なんかわたしのやつが、
知らない間に彫られてる…

なつこ

えー!
先生に言ったほうがいいよそれ!

はるみ

やっぱりそうかなあ……

はるみ

……でも、彫ろうと思ってたとこだったから大丈夫だよ。ありがとね、なつこ

なつこ

そお?
はるみがそれでいいならいいけど……

誰が彫ったのかはわからないけれど、
思っていたより早く作れそうなので
あまり気にしないことにした。

はるみ

……でも、彫った深さがばらばら

今日は、その彫りそこないを均等にする作業から始まった

はるみ

ふう……

ようやく深さを均等にできた頃、かずきが様子を見にやってきた。

かずき

はる、なんでそんなに早いんだよ

はるみ

なんか知らない間に彫られてたの

かずき

うわー、ズルだズル!
先生!はるがズルしてます!

はるみ

そんなのしてないもん!

かずき

くっそー!
ぜってー負けねーからな、はる

不機嫌そうに言うと、かずきは席に戻っていった。

はるみ

……違うのに

もっと……

はるみ

え?

また声が聞こえた気がした。

もっと早く作らなきゃもっと早く作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ

声ははっきりと聞こえ始め、
そして狂ったように連呼していた。

作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ

はるみ

手が……

手が勝手に動き出し、彫刻刀を力強く握ると、
叩きつけるように板を掘り出した。

はるみ

いや……止まってよ……

はるみ

止まって止まって!

はるみ

止まって!

私は自分の手をもう片方の手で止めようとした。

はるみ

痛っ!

痛い!痛い!痛い!

先生!はるが!はるが!!

はるみさん!
早く保健室に!

はるみさん……どうしたのいったい……

はるみ

うっ……ぐすっ……
手が、手が勝手に動いて……

なつこ

やっぱりあの机、呪われてるんだよ……

しゅんや

先生、どうにかなんないの?

……ほかの先生と相談してみます

その前に、その話を詳しく教えてくれない?

その後、しばらくたってからあの机は処分されることになった。

なつこ

はる、もう手大丈夫なの?

はるみ

うん。
まだ運動はできないけど鉛筆は持てるようになったんだ。

かずき

なんだよ、まだバスケできないのかよ

なおと

かずきは早くお前と遊びたいってさ

かずき

言ってねーだろそんなこと!

結局あの時、私になにが起こったのかはわからないままだった。

あれ以来、声が聞こえることもなく、勝手に体が動くこともない。

かずき

そういや、俺の竜が展示されたんだぜ!

なつこ

ちょっと!はるの前でその話しないでよ!

あの時の私の作品は不格好ながら完成されていた。

あの後、なぜか着々と堀り進められていき、
私の血で彩られた薔薇の花があった。

はるみ

……

呪いの机はなくなったのに完成した作品。

呪いは本当になくなったんだろうか。

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