結局わたしは席を移らずに授業を始めた。
はい、それじゃあ今日は彫刻刀で板を掘っていきましょう
先生、私この机やだ
どうして?
その机呪われてるんだぜ
やめてよ!
なんだよ、ほんとのことだろ
その机に座ってると呪われていつか死んじゃうんだぜ
こら!かずきくん!
そんなこと言ったらダメでしょう
………
はるみさん、そんなに嫌だったら席を変えてもいいわよ
あー!先生ずる!
だったら俺もなおとの近くに行くよ!
ダメです
うわー、ひいきだひいき!
はい、それじゃあ授業を始めますよ
結局わたしは席を移らずに授業を始めた。
でも、この席が呪いの机と呼ばれてるのは本当なので怖くて仕方ない。
この席に座った人は、みんななにか嫌なことがある。
なつこは絵の具の水を頭からかぶったし、
しゅんやはかなづちで指を打った。
他にも何人かこの席に座った子がいるがみんななにかあった。
そして、今日は私だ。
かずきとなおとは、まだこの席に座ったことがないからあんなことが言えるのだ。
いやだな…
溜め息混じりでそんな声がでてしまう。
普段はどんな作品を作ろうかわくわくしながら考えるが、今日はそんな気も起きなかった。
はるみ、どんなの彫るの?
心配してくれたのかなつこが声をかけてくれた。
まだ考え中
なつこはどんなの?
わたしは動物園みたいにたくさん動物を彫ろうと思うの
そう言うと、嬉しそうに下書きを見せてくれた。
わあ、かわいい
わたしもそんな感じにしようかな
それがいいよ!
あっ、でも同じのはダメだよ
はるみ上手だからわたしのが下手に見えちゃう
そんなことないよ
なつこと喋っていたら少し元気が出てきた。
それじゃあ、わたし続き作ってくるね
うん
よし、私もがんばろう!
なつこのは可愛かったけど
同じのはやだって言ってたっけ。
ならわたしは花にしよう。
きれいな花作ってみよう。
よし、やってみよう
はるー、お前なに作ってんだ?
花だよ
なんだー、花かよ
そういうかずきはなんなの?
へへー、俺は竜だぜ!
竜?
そう!
鱗を彫んのが面倒だけどかっけーのを作るんだ
まあ、はるにはできないやつだよ
お前はがんばって花作れよなー
得意げに言いながら
かずきは席に戻っていってしまった
なにあいつ
わたしだってかわいいの作るんだから
手伝ってあげる
……?
なにか声のようなものが聞こえた気がした。
はる、どうした?
なおとなんか言った?
いま声かける前に
いや、別になにも言ってないけど
確かに声が聞こえた気がしたが、
気のせいだったんだろうか。
あんまり噂とか気にするなよ
うん、ありがとう
あー!
どうしたのはるみ?
なんかわたしのやつが、
知らない間に彫られてる…
えー!
先生に言ったほうがいいよそれ!
やっぱりそうかなあ……
……でも、彫ろうと思ってたとこだったから大丈夫だよ。ありがとね、なつこ
そお?
はるみがそれでいいならいいけど……
誰が彫ったのかはわからないけれど、
思っていたより早く作れそうなので
あまり気にしないことにした。
……でも、彫った深さがばらばら
今日は、その彫りそこないを均等にする作業から始まった
ふう……
ようやく深さを均等にできた頃、かずきが様子を見にやってきた。
はる、なんでそんなに早いんだよ
なんか知らない間に彫られてたの
うわー、ズルだズル!
先生!はるがズルしてます!
そんなのしてないもん!
くっそー!
ぜってー負けねーからな、はる
不機嫌そうに言うと、かずきは席に戻っていった。
……違うのに
もっと……
え?
また声が聞こえた気がした。
もっと早く作らなきゃもっと早く作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ
声ははっきりと聞こえ始め、
そして狂ったように連呼していた。
作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ作らなきゃ
手が……
手が勝手に動き出し、彫刻刀を力強く握ると、
叩きつけるように板を掘り出した。
いや……止まってよ……
止まって止まって!
止まって!
私は自分の手をもう片方の手で止めようとした。
痛っ!
痛い!痛い!痛い!
先生!はるが!はるが!!
はるみさん!
早く保健室に!
はるみさん……どうしたのいったい……
うっ……ぐすっ……
手が、手が勝手に動いて……
やっぱりあの机、呪われてるんだよ……
先生、どうにかなんないの?
……ほかの先生と相談してみます
その前に、その話を詳しく教えてくれない?
その後、しばらくたってからあの机は処分されることになった。
はる、もう手大丈夫なの?
うん。
まだ運動はできないけど鉛筆は持てるようになったんだ。
なんだよ、まだバスケできないのかよ
かずきは早くお前と遊びたいってさ
言ってねーだろそんなこと!
結局あの時、私になにが起こったのかはわからないままだった。
あれ以来、声が聞こえることもなく、勝手に体が動くこともない。
そういや、俺の竜が展示されたんだぜ!
ちょっと!はるの前でその話しないでよ!
あの時の私の作品は不格好ながら完成されていた。
あの後、なぜか着々と堀り進められていき、
私の血で彩られた薔薇の花があった。
……
呪いの机はなくなったのに完成した作品。
呪いは本当になくなったんだろうか。