俺たちの学校には沼田という先生がいる。
俺たちの学校には沼田という先生がいる。
その先生は太った身体をしていて、よく汗をかいているので生徒からは陰でヌメ田と呼ばれている。
そのヌメ田は理科室の管理をしているらしく、
職員室より理科室によくいる。
そのせいもあり理科室に住んでいるやら、
理科室の標本を食べて生活しているだの、
変な噂がたくさんあった。
ヌメ田ってほんとに理科室住んでんのかな
お前それほんとに言ってんのか?
かずきの発言にしゅんやが訝しげに聞いた。
そりゃバカな話だとは思うけどさ。
あのヌメ田だぜ、100%ないとは言いきれないだろ。なあ、なおと
まあ、変わった先生だからね。そう思われても仕方ないかな
だよなあ。ヌメ田だもんな
まあでも、あんまり変なこと言って本人の耳に入ると面倒かもしれないから、この辺にしておいたほうがいいかもよ
んだよなおと、ビビってんの?
別にそんなんじゃない
じゃあ今日確かめに行こうぜ。
ヌメ田は理科室に住んでるのかどうか
住んでるわけないだろ……
だからそれがほんとか確かめに行くんだろ
かずきはなぜか妙に乗り気になっていた。
うるさいなあ。
なんの話してんの
少し離れたところでなつこと話していたはるが、なつこと共にやってきた。
お、はる。
お前も行くか?
行くってどこに?
ヌメ田が理科室に住んでるか確かめに行くんだよ。
そんなの住んでるわけないじゃん
はるは当然のように言う。
なんだよしゅんとおんなじこと言いやがって
大丈夫なの?
私、あの先生苦手……
別に取って食われることはないだろ
乗り気なのはお前だけだぞ
んだよ、みんなノリが悪いな。
じゃあなおとと行くよ
俺は頭数に入ってるのか
お前も行かないのか?
いいよ、まあないとは思うけどね
へっへー。
ぜってーなんか秘密を見つけてやるからな。お前ら後で悔しがるなよ?
がんばってねー
こうして、放課後にかずきと理科室に潜り込むことになった。
ダーン ダーン
そろそろ行くか、なおと
放課後、下校時間が近くなってくる頃まで遊んでいたところ、かずきがそう声をかけてきた。
ほんとに行くの?
もう下校時間まであんまり時間ないぞ
この時間にならヌメ田がなんかしてるかもしれないだろ?
見つかったら怒られちゃうよ?
そんな簡単に見つかるかよ。
な?なおと
まあ、ちゃっちゃと行って帰ろうぜ
おっしゃあ!
俺とかずきは理科室に向かった。
失礼しまーす……
暗いな……
やっぱりいないんじゃないか?
じゃあ、なんか探してみようぜ
なおとは窓のほうのロッカーな
棚などを開けて中を確認してみるが、特別目立つものはなく、理科の実験で使う器具くらいしか見つからなかった。
特に変なものはないな
奥のほうも見てみろよ。なんかあるかもしれないぞ
しっかりと調べないとかずきは納得しないと思ったので、カバンを置いて奥のほうまで見てみる。
ごほっごほっ
中は埃っぽく思わず咳き込んでしまった。
バカ、うるさいぞなおと
悪い……
そんな話をしていると、理科準備室のほうからガタガタと音がした。
誰かいるのか?
やばい、ヌメ田だ!
理科準備室のほうにいたんだな。
やっぱり住んでんだよ
そんなこと言ってないで逃げるぞ!
俺達はすぐさま理科室を飛び出して、昇降口に駆けだした。
……帰ったみたいだな
まさかこんな時間まで生徒が残ってるなんて
はぁ…はぁ…。
ほら、やっぱりヌメ田は理科室に住んでたんだ
少し息を切らしながらもうれしそうにかずきは話す。
かもしれないな。
とにかく見つからなくてよかった
て、なおとお前カバンは?
え?
あ、しまった!理科室に忘れてきた!
ロッカーの奥を調べるときおろしたのをそのままにしてきてしまったようだ。
見つかったらどうするんだよ。
俺達だってばれるぞ
すぐに取ってくるよ。ちょっと待っててくれ
たくよぉ。
早く行ってこいよな
俺は一人でさっき走ってきた廊下を引き返していった。
よし、あったあった
理科室にぽつんと置いてあったカバンを背負うと俺は何気なく準備室のほうを見た。
準備室が空いてる?
明かりもつけっぱなしでその光が理科室を少し明るくしている。
中のようすを確認できれば住んでることが確定だな
俺は準備室のほうに向かってコソコソと中のようすを覗いてみた。
……え?
その部屋の中は俺の想像とは全く違った様子だった。
壁一面に変な色の液体が並べられていて、中には何かが中に入っているビンもあった。
どこかから何かの機械が動いてるような音も聞こえてくる。
なんだこれ……
やあ、なおとくん
うわっ!
いつの間にか後ろにいたヌメ田に肩をつかまれた。
ダメじゃないか、こんな時間まで学校にいちゃ
もう下校時間は過ぎてるんだよ
あ、はい。ごめんなさい
ほら、親御さんも心配すると思うからもう帰りな?
……はい、わかりました
準備室の中のことには何も触れず、ただの先生としての注意をしてくるヌメ田が、なんだかすごく不気味に感じた。
やっぱりヌメ田は理科室に住んでたぜ
えー!嘘だー!
嘘じゃねえよ、なおとと二人で確認しただから、理科準備室から出てくんの
それってまだ仕事してただけじゃないのか?
あんな時間まで仕事なんかしてる先生居るわけないだろ
次の日、かずきは得意げにヌメ田のことを話していた。
俺はあの時一人で見た部屋のことは言えないでいた。
でも、見つからなくてよかったよ
なおとがカバン忘れたって言ったときは焦ったけどな。なんとか見つからずにとってこれたみたいだし
ええ!大丈夫だったの?
ああ、まあなんとかな
一回くらい怒られてくれば?
へへー、そんなこと言って悔しいんだろ、はる
そんなことないもん!
結局住んでるっていう証拠はないしな
だから住んでたんだって
今ここで準備室のことを話せば、この話も大きくなると思う。
でも、俺はあの時のヌメ田の不気味な感じが怖く、言い出せなかった。
あそこでヌメ田がなにをしていたかはわからないが、学校の授業とは関係ないと思う。
でも、それを確かめに行く気もヌメ田本人に聞く気も起きなかった。
あの部屋のことは、少なくとも小学校を卒業するまでは俺の中に締まっておこう誓った。