俺たちの学校には沼田という先生がいる。

その先生は太った身体をしていて、よく汗をかいているので生徒からは陰でヌメ田と呼ばれている。

そのヌメ田は理科室の管理をしているらしく、
職員室より理科室によくいる。

そのせいもあり理科室に住んでいるやら、
理科室の標本を食べて生活しているだの、
変な噂がたくさんあった。

かずき

ヌメ田ってほんとに理科室住んでんのかな

しゅんや

お前それほんとに言ってんのか?

かずきの発言にしゅんやが訝しげに聞いた。

かずき

そりゃバカな話だとは思うけどさ。
あのヌメ田だぜ、100%ないとは言いきれないだろ。なあ、なおと

なおと

まあ、変わった先生だからね。そう思われても仕方ないかな

かずき

だよなあ。ヌメ田だもんな

なおと

まあでも、あんまり変なこと言って本人の耳に入ると面倒かもしれないから、この辺にしておいたほうがいいかもよ

かずき

んだよなおと、ビビってんの?

なおと

別にそんなんじゃない

かずき

じゃあ今日確かめに行こうぜ。
ヌメ田は理科室に住んでるのかどうか

しゅんや

住んでるわけないだろ……

かずき

だからそれがほんとか確かめに行くんだろ

かずきはなぜか妙に乗り気になっていた。

はるみ

うるさいなあ。
なんの話してんの

少し離れたところでなつこと話していたはるが、なつこと共にやってきた。

かずき

お、はる。
お前も行くか?

はるみ

行くってどこに?

かずき

ヌメ田が理科室に住んでるか確かめに行くんだよ。

はるみ

そんなの住んでるわけないじゃん

はるは当然のように言う。

かずき

なんだよしゅんとおんなじこと言いやがって

なつこ

大丈夫なの?
私、あの先生苦手……

かずき

別に取って食われることはないだろ

しゅんや

乗り気なのはお前だけだぞ

かずき

んだよ、みんなノリが悪いな。
じゃあなおとと行くよ

なおと

俺は頭数に入ってるのか

かずき

お前も行かないのか?

なおと

いいよ、まあないとは思うけどね

かずき

へっへー。
ぜってーなんか秘密を見つけてやるからな。お前ら後で悔しがるなよ?

はるみ

がんばってねー

こうして、放課後にかずきと理科室に潜り込むことになった。

ダーン ダーン

かずき

そろそろ行くか、なおと

放課後、下校時間が近くなってくる頃まで遊んでいたところ、かずきがそう声をかけてきた。

はるみ

ほんとに行くの?

しゅんや

もう下校時間まであんまり時間ないぞ

かずき

この時間にならヌメ田がなんかしてるかもしれないだろ?

なつこ

見つかったら怒られちゃうよ?

かずき

そんな簡単に見つかるかよ。
な?なおと

なおと

まあ、ちゃっちゃと行って帰ろうぜ

かずき

おっしゃあ!

俺とかずきは理科室に向かった。

かずき

失礼しまーす……

なおと

暗いな……
やっぱりいないんじゃないか?

かずき

じゃあ、なんか探してみようぜ
なおとは窓のほうのロッカーな

棚などを開けて中を確認してみるが、特別目立つものはなく、理科の実験で使う器具くらいしか見つからなかった。

なおと

特に変なものはないな

かずき

奥のほうも見てみろよ。なんかあるかもしれないぞ

しっかりと調べないとかずきは納得しないと思ったので、カバンを置いて奥のほうまで見てみる。

なおと

ごほっごほっ

中は埃っぽく思わず咳き込んでしまった。

かずき

バカ、うるさいぞなおと

なおと

悪い……

そんな話をしていると、理科準備室のほうからガタガタと音がした。

誰かいるのか?

なおと

やばい、ヌメ田だ!

かずき

理科準備室のほうにいたんだな。
やっぱり住んでんだよ

なおと

そんなこと言ってないで逃げるぞ!

俺達はすぐさま理科室を飛び出して、昇降口に駆けだした。

……帰ったみたいだな

まさかこんな時間まで生徒が残ってるなんて

かずき

はぁ…はぁ…。
ほら、やっぱりヌメ田は理科室に住んでたんだ

少し息を切らしながらもうれしそうにかずきは話す。

なおと

かもしれないな。
とにかく見つからなくてよかった

かずき

て、なおとお前カバンは?

なおと

え?
あ、しまった!理科室に忘れてきた!

ロッカーの奥を調べるときおろしたのをそのままにしてきてしまったようだ。

かずき

見つかったらどうするんだよ。
俺達だってばれるぞ

なおと

すぐに取ってくるよ。ちょっと待っててくれ

かずき

たくよぉ。
早く行ってこいよな

俺は一人でさっき走ってきた廊下を引き返していった。

なおと

よし、あったあった

理科室にぽつんと置いてあったカバンを背負うと俺は何気なく準備室のほうを見た。

なおと

準備室が空いてる?

明かりもつけっぱなしでその光が理科室を少し明るくしている。

なおと

中のようすを確認できれば住んでることが確定だな

俺は準備室のほうに向かってコソコソと中のようすを覗いてみた。

なおと

……え?

その部屋の中は俺の想像とは全く違った様子だった。

壁一面に変な色の液体が並べられていて、中には何かが中に入っているビンもあった。

どこかから何かの機械が動いてるような音も聞こえてくる。

なおと

なんだこれ……

やあ、なおとくん

なおと

うわっ!

いつの間にか後ろにいたヌメ田に肩をつかまれた。

ダメじゃないか、こんな時間まで学校にいちゃ

もう下校時間は過ぎてるんだよ

なおと

あ、はい。ごめんなさい

ほら、親御さんも心配すると思うからもう帰りな?

なおと

……はい、わかりました

準備室の中のことには何も触れず、ただの先生としての注意をしてくるヌメ田が、なんだかすごく不気味に感じた。

かずき

やっぱりヌメ田は理科室に住んでたぜ

はるみ

えー!嘘だー!

かずき

嘘じゃねえよ、なおとと二人で確認しただから、理科準備室から出てくんの

しゅんや

それってまだ仕事してただけじゃないのか?

かずき

あんな時間まで仕事なんかしてる先生居るわけないだろ

次の日、かずきは得意げにヌメ田のことを話していた。

俺はあの時一人で見た部屋のことは言えないでいた。

なつこ

でも、見つからなくてよかったよ

かずき

なおとがカバン忘れたって言ったときは焦ったけどな。なんとか見つからずにとってこれたみたいだし

なつこ

ええ!大丈夫だったの?

なおと

ああ、まあなんとかな

はるみ

一回くらい怒られてくれば?

かずき

へへー、そんなこと言って悔しいんだろ、はる

はるみ

そんなことないもん!

しゅんや

結局住んでるっていう証拠はないしな

かずき

だから住んでたんだって

今ここで準備室のことを話せば、この話も大きくなると思う。

でも、俺はあの時のヌメ田の不気味な感じが怖く、言い出せなかった。

あそこでヌメ田がなにをしていたかはわからないが、学校の授業とは関係ないと思う。

でも、それを確かめに行く気もヌメ田本人に聞く気も起きなかった。

あの部屋のことは、少なくとも小学校を卒業するまでは俺の中に締まっておこう誓った。

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