「ねぇ、デロデロさんって知ってる?」
「ねぇ、デロデロさんって知ってる?」
「あれでしょ!プール脇のトイレに出てくる!」
「そうそう!何でもお願い事かなえてくれるんだって!」
「違う違う、その人が望んでることを叶えてくれるんだよ。」
「そんなの一緒だよ」
「でも気をつけてね。お願いを聞いてもらえないとどこかに連れて行かれちゃうんだって」
こんなお話だよ
なんだよ、こっくりさんと一緒じゃねえか。
全然違うよ!
というより、花子さんに近い感じかな
花子さんは願い事叶えてくれないだろ
でも、場所はトイレだ
二人ともぜんぜん話聞いてないじゃん
はるみの話があまり面白くないのが原因だ。
長いんだよ、お前の話
もういい。かずきには話してやんない
んな話、頼まれたって聞いてやるもんか
うぅ…
はるの目に涙がたまっていく。
かずきのバカ!
そういい残すと、はるは走り去っていってしまった。
またか…
俺は悪くないからな
どうせ、謝るんだ。
早いうちに仲直りしておけよ。
次の日、学校に着くと妙に教室が騒がしかった。
なんだ?
さあな
なんだか騒がしい教室を見ていると、
俺達を見つけたはるが興奮気味に声をかけてきた。
かずき!なおと!すごいよ!
なつこが昨日デロデロさんに会ったんだって!
それって昨日言ってたやつか?
うん、願い事叶えてもらったみたいだよ
なに叶えてもらったんだよ
ほしかった物をもらったんだって
デロデロさんから?
ううん。願い事したらその日にお母さんが買ってくれたんだって
そんなんたまたまだろ!
そんな嘘ついてまで昨日の話信じてほしいのかよ。
ほんとだもん!なつこに聞いてみなよ!
だからたまたまだって、
デロデロさんなんていないんだよ
……ほんとなのに
かずきのバカ…
おい、はる!
はるはいつもとは違い、
とぼとぼと教室を出て行ってしまった。
なんだよ、あいつ…
かずき、なんでそう突っかかるんだ
……いいよ
え?
いいよ!放課後確かめに行ってやる!
デロデロさんなんか居ないんだってな!
俺一人で行くからな!
なおとはついてくんなよ!
……ああ
放課後、俺は一人でプール脇にあるトイレに行った。
おーい、デロデロさ-ん
いないならいないって言えよなー
小さなトイレには自分の声だけが響いた。
一応、数の少ない個室を一つ一つ確認したが、
あるのは汚れた和式便所だけだった。
……なんだよ、なんもいないじゃん
やっぱり嘘じゃん、
そんなのいるわけないんだよ
「願いがあるな」
なんだ?
「願いがあるな」
なんだよ、誰かいんのか?
誰もいないはずなのに突然謎の声が聞こえてきて、
背後に気配を感じた。
うわあああああ!
そこにはドロドロとした体の生き物が床を這っていた。
「お前の願いを叶えよう」
こいつがデロデロさんなのか…
てことはほんとに願い事叶えてくれんのかな
「お前の願いは、
はるみという人物と仲直りすることだな」
なっ!
どうしてこっちが言っていないのに、
願い事を言ってしまうのか。
それに関係のないはるの名前まで出てきて。
ち、ちげーよ!
俺はサッカー選手になりてーんだよ!
「………」
「断ったな」
え?
声が聞こえた直後、
デロデロさんはずるずると俺に向かってきた。
な、なんだよ!来んなよ!
その時、ふとはるの話していたことを思い出した。
「でも気をつけてね。お願いを聞いてもらえないとどこかに連れて行かれちゃうんだって」
嘘だろ!逃げなきゃ!
トイレから出るためドアを開けようとするが、
ぼろいドアとは思えないほど硬く閉ざされていた。
くそっ!なんでだよ!
じりじりと近づいて来ていたデロデロさんの一部がオレの体に触れた。
うわあ!やめろ!
ずぶずぶとデロデロさんが俺の体を飲み込んでいく。
冷たいような、ぬるいような何かが体にまとわりついていった。
やだ…
どこかに連れてかれるなんて嫌だ…
もがこうとしても体はさらに沈んでいく。
かずき
ふと、はるの顔が思い浮かんだ。
はる…
はる…ごめん…
ごめん…
泣き言のようにつぶやく。
もうなにも考えられなかった。
「願いは叶えた」
……え?
あれ?
目を開くとデロデロさんはどこにもいなかった。
でも、あのまとわりついていた感覚は、確かに体に残っていた。
……帰ろう
その夜はあまり寝れなかった。
はる!昨日はごめん!
え?
そのデロデロさんが嘘だとか、
いろいろ言って…
……
はるは黙ったまま俺のことを見つめていた。
怒ってるか?
沈黙が心配になり、声を出してしまった。
ううん、全然
謝ってくれてありがとね
あ、ああ!
でも、なんで突然デロデロさんのこと…
もしかして会ったの!?
それは言えない
教えてよ!
どんな願い事叶えてもらったの!
ぜってー教えねー!
うぅ…
かずきのバカー!
デロデロさんのおかげか無事に、
はるとは仲直りすることができた。
でも、あの体験で感じた恐怖は数年は、
忘れることはできなさそうだった。
「願いがあるな」