「ねぇ、デロデロさんって知ってる?」

「あれでしょ!プール脇のトイレに出てくる!」

「そうそう!何でもお願い事かなえてくれるんだって!」

「違う違う、その人が望んでることを叶えてくれるんだよ。」

「そんなの一緒だよ」

「でも気をつけてね。お願いを聞いてもらえないとどこかに連れて行かれちゃうんだって」

はるみ

こんなお話だよ

かずき

なんだよ、こっくりさんと一緒じゃねえか。

はるみ

全然違うよ!

なおと

というより、花子さんに近い感じかな

かずき

花子さんは願い事叶えてくれないだろ

なおと

でも、場所はトイレだ

はるみ

二人ともぜんぜん話聞いてないじゃん

はるみの話があまり面白くないのが原因だ。

かずき

長いんだよ、お前の話

はるみ

もういい。かずきには話してやんない

かずき

んな話、頼まれたって聞いてやるもんか

はるみ

うぅ…

はるの目に涙がたまっていく。

はるみ

かずきのバカ!

そういい残すと、はるは走り去っていってしまった。

なおと

またか…

かずき

俺は悪くないからな

なおと

どうせ、謝るんだ。
早いうちに仲直りしておけよ。

次の日、学校に着くと妙に教室が騒がしかった。

かずき

なんだ?

なおと

さあな

なんだか騒がしい教室を見ていると、
俺達を見つけたはるが興奮気味に声をかけてきた。

はるみ

かずき!なおと!すごいよ!
なつこが昨日デロデロさんに会ったんだって!

なおと

それって昨日言ってたやつか?

はるみ

うん、願い事叶えてもらったみたいだよ

かずき

なに叶えてもらったんだよ

はるみ

ほしかった物をもらったんだって

なおと

デロデロさんから?

はるみ

ううん。願い事したらその日にお母さんが買ってくれたんだって

かずき

そんなんたまたまだろ!
そんな嘘ついてまで昨日の話信じてほしいのかよ。

はるみ

ほんとだもん!なつこに聞いてみなよ!

かずき

だからたまたまだって、
デロデロさんなんていないんだよ

はるみ

……ほんとなのに

はるみ

かずきのバカ…

かずき

おい、はる!

はるはいつもとは違い、
とぼとぼと教室を出て行ってしまった。

かずき

なんだよ、あいつ…

なおと

かずき、なんでそう突っかかるんだ

かずき

……いいよ

なおと

え?

かずき

いいよ!放課後確かめに行ってやる!
デロデロさんなんか居ないんだってな!

かずき

俺一人で行くからな!
なおとはついてくんなよ!

なおと

……ああ

放課後、俺は一人でプール脇にあるトイレに行った。

かずき

おーい、デロデロさ-ん
いないならいないって言えよなー

小さなトイレには自分の声だけが響いた。

一応、数の少ない個室を一つ一つ確認したが、
あるのは汚れた和式便所だけだった。

かずき

……なんだよ、なんもいないじゃん

かずき

やっぱり嘘じゃん、
そんなのいるわけないんだよ

「願いがあるな」

かずき

なんだ?

「願いがあるな」

かずき

なんだよ、誰かいんのか?

誰もいないはずなのに突然謎の声が聞こえてきて、
背後に気配を感じた。

かずき

うわあああああ!

そこにはドロドロとした体の生き物が床を這っていた。

「お前の願いを叶えよう」

かずき

こいつがデロデロさんなのか…

かずき

てことはほんとに願い事叶えてくれんのかな

「お前の願いは、
はるみという人物と仲直りすることだな」

かずき

なっ!

どうしてこっちが言っていないのに、
願い事を言ってしまうのか。
それに関係のないはるの名前まで出てきて。

かずき

ち、ちげーよ!
俺はサッカー選手になりてーんだよ!

「………」

「断ったな」

かずき

え?

声が聞こえた直後、
デロデロさんはずるずると俺に向かってきた。

かずき

な、なんだよ!来んなよ!

その時、ふとはるの話していたことを思い出した。

「でも気をつけてね。お願いを聞いてもらえないとどこかに連れて行かれちゃうんだって」

かずき

嘘だろ!逃げなきゃ!

トイレから出るためドアを開けようとするが、
ぼろいドアとは思えないほど硬く閉ざされていた。

かずき

くそっ!なんでだよ!

じりじりと近づいて来ていたデロデロさんの一部がオレの体に触れた。

かずき

うわあ!やめろ!

ずぶずぶとデロデロさんが俺の体を飲み込んでいく。
冷たいような、ぬるいような何かが体にまとわりついていった。

かずき

やだ…
どこかに連れてかれるなんて嫌だ…

もがこうとしても体はさらに沈んでいく。

はるみ

かずき

ふと、はるの顔が思い浮かんだ。

かずき

はる…

かずき

はる…ごめん…
ごめん…

泣き言のようにつぶやく。
もうなにも考えられなかった。

「願いは叶えた」

かずき

……え?

かずき

あれ?

目を開くとデロデロさんはどこにもいなかった。

でも、あのまとわりついていた感覚は、確かに体に残っていた。

かずき

……帰ろう

その夜はあまり寝れなかった。

かずき

はる!昨日はごめん!

はるみ

え?

かずき

そのデロデロさんが嘘だとか、
いろいろ言って…

はるみ

……

はるは黙ったまま俺のことを見つめていた。

かずき

怒ってるか?

沈黙が心配になり、声を出してしまった。

はるみ

ううん、全然
謝ってくれてありがとね

かずき

あ、ああ!

はるみ

でも、なんで突然デロデロさんのこと…

はるみ

もしかして会ったの!?

かずき

それは言えない

はるみ

教えてよ!
どんな願い事叶えてもらったの!

かずき

ぜってー教えねー!

はるみ

うぅ…

はるみ

かずきのバカー!

デロデロさんのおかげか無事に、
はるとは仲直りすることができた。
でも、あの体験で感じた恐怖は数年は、
忘れることはできなさそうだった。

「願いがあるな」

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