シュートはフォームを意識してやるといいよ

まず、手のひらを上に向けた状態で、利き手でボールを持って手をまっすぐ伸ばす

そのままボールを落とさないように、おでこの上に持ってくるんだ

はるみ

こう…あいた!

あはは、ボールは片手じゃつかめないからね。常に手のひらは上に向けたまま持ってくるんだよ

はるみ

こう?

そうそう。肘は外に向かないように気を付けてね

後は利き手と逆の手をボールにそっと添える

はるみ

添える?

支えてあげるって感じかな?打つときは支えてるだけだから力を込めちゃだめだよ。あとはひざを使ってゴールにシュート!

はるみ

うー、えい!

ゴールには届かず、ボールは手前で落ちた。

はるみ

ダメだ

コントロールはしっかりできてるから後は打ち方だね。こう、ひざを使うんだ

私は体育館であった少年にバスケを習っていた。

はるみ

私にできるのかな

僕がちょっと教えただけでまっすぐ飛んだからきっとすぐできるようになるよ

はるみ

ほんとに?

うん!

じゃあ僕がもう一回やってみるから同じようにやってみてね

こうして、バスケの少年との不思議な放課後が始まった。

かずき

はるー!

はるみ

……

かずき

無視すんなよな!今日バスケやるぞ

はるみ

私がいるとつまんないんでしょ

かずき

俺がいいって言ってんだからいいだろ

はるみ

私、今日用事あるから無理!

私はかずきの誘いを断り、足早に体育館へ向かった。

かずき

ちぇ、なんだよあいつ

なおと

まず謝るべきだな

かずき

はるの意地っ張り

はるみ

えい!

ガンッ

はるみ

当たった!

やったね

はるみ

うん!

あとはたくさん打って慣れていくことかな

フォームに気を付けながら、やっていけばきっとすぐ入るようになるよ

はるみ

うん、頑張ってみる!

私はゴールから離れた位置に飛んで行ったボールを取り、少年のほうを向いた。

はるみ

あれ?

振り向いた先に少年の姿はなかった。周りを見渡しても人影のない静かな体育館が広がっていた。

はるみ

帰っちゃったのかな

まだまだいろいろと教えてもらいたかったのだが。

はるみ

明日も来てくれるかな

体育館に私一人の声が響いた。

はるみ

あー!いたー!

こんにちは

はるみ

こんにちはじゃないよ!なんでこの前なにも言わずに帰っちゃったの!

あの日の後、何日か放課後に体育館を訪れてみたが少年はおらず、1週間ぶりくらいの再会だった。

ごめん、ちょっとね…

はるみ

ちゃんと言ってよ。びっくりするから

うん、ごめんね

はるみ

うん、許してあげる

はるみ

その代わり、バスケ教えてね

もちろん

かずき

なんか最近はるがおかしくないか

しゅんや

なんかあったのか?

かずき

バスケに誘っても全然来ないんだよ。
なんか用事があるって言って

しゅんや

そういや、最近帰りも遅いな…

しゅんや

ちょっと聞いてみるか

しゅんや

はるー!

放課後になり、
いつものように体育館に向かおうとすると、
兄のしゅんやに呼ばれた。

はるみ

なーに、しゅん

しゅんや

お前最近何してるんだ?
放課後よくどこかに行ってるだろ

はるみ

べ、別になにもないけど

隠すつもりはないが、なぜか秘密にしておきたかった。

しゅんや

なんか悪いことしてるなら母さんに言いつけるからな

はるみ

別に悪いことなんてしてないよ!

しゅんや

じゃあなんで隠す

はるみ

それは…

しゅんや

はる、正直に言えよ

このまま疑われるのも嫌だったので、
私は正直に話すことにした。

はるみ

体育館でバスケを教えてもらってるの

しゅんや

バスケってことはかずきかなおとにか?

はるみ

ううん、違う。
たぶん違う学校の子

はるみ

眼鏡かけてて、
あんまり運動しなさそうに見えるのに、
すごくバスケ上手なんだよ!

しゅんや

同い年なのか?

はるみ

そうみたい。学校は聞いてないけど

はるみ

あ、もうこんな時間!
今日も行かなきゃ!

はるみ

じゃあね、しゅん

しゅんや

ああ、頑張れよ

なつこ

あんなに楽しそうに、はるどうしたの?

しゅんや

なつこか。
なんかはるが体育館で友達に
バスケを教えてもらってるらしくてな

なつこ

へー

なつこ

そういえば体育館って言えば知ってる?
最近、幽霊が出るらしいよ

しゅんや

幽霊?

なつこ

うん。
なんかかずきが知ってる子が、
最近死んじゃったんだって

なつこ

でも、かずきがこの前体育館で
その子が遊んでるの見たらしいよ

しゅんや

見間違いだろ

なつこ

そうかもしれないけど…
でも、子どもの幽霊って無意識に
友達を連れて行っちゃうって、
この前テレビでやってたから…

しゅんや

なつこの友達なのか?

なつこ

あ、そっか。知らない子だから平気なのか!

なつこ

そうわかったら安心しちゃった!
ありがと、しゅんや

しゅんや

ああ、また明日な

しゅんや

……一応、様子見に行っておくか

はるみ

えい!

うん、いい感じだね

今日はパスのやり方を教えてもらっていた。

返すよー

はるみ

うん

しばらく無言でふたりでパスをしていたが、
男の子が話をし始めた。

そういえば、どうしてバスケが上手になりたかったの?

はるみ

友達がへたくそだから仲間外れにするの

へー、その子よっぽど上手なんだね

はるみ

うん、大会とかも出たことあるんだって

大会かあ…
僕も出たことあるよ

はるみ

うわあすごいね!

結構いいところまでいったんだけど、
結局負けちゃったんだよね

はるみ

もう一回出てみなよ!
きっと次は優勝できるよ!

次…か

男の子はつぶやくとパスの手を止めてしまった。

はるみ

どうしたの?

次は…ないんだよね

はるみ

なんで?
こんど大会あるってかずきが言ってたよ?

………僕、もう死んじゃってるんだ

はるみ

え!?

急に変なことを言い出すので、変な声が出てしまった。

はるみ

何言ってるの?
幽霊は足ないんだよ。

男の子の身体を見ても、
足はついてるし変なところはない。

あはは、もうちょっとバスケがしたかったからね

でもごめんね、もうそろそろダメみたい

はるみ

バスケ教えてくれるって言ったじゃん!

大丈夫、十分上手になったよ

ほらっ!

男の子は大きくボールを投げた。

はるみ

わっ!

はるみ

あ、あれ?

ボールを取ろうと男の子から目を離してしまい、
視線を戻すともう男の子はいなかった。

はるみ

ねえ、どこ行ったの?

声をかけても私の声だけが、体育館に響いた。

はるみ

……ねえ

その時、突然体育館の扉が開いた。

しゅんや

あれ?はるだけ?

はるみ

しゅん…

そこにいたのは兄のしゅんやだった。

しゅんや

どうした、そんな顔して

はるみ

さっきまでもう一人一緒にいたんだけど、
急にいなくなっちゃって…

しゅんや

………はる!帰ろう!

はるみ

え?どうしたの?

しゅんや

いいから!

しゅんは突然真剣な顔つきになると、
引っ張るように私を体育館から連れ出した。

かずき

なんでそんなうまくなってんだよ、はる!

はるみ

ないしょー

あの後、私はあの男の子に会うことはなかった。

なおと

これからははるも一緒にできるな

はるみ

二人とも私に勝てるかな

あの男の子は本当に幽霊だったのかはよくわからない。

でもあの子に習ったバスケは本当に上手になっていた。

幽霊だったかもしれないけれど、
あの子とバスケをしていた時間は本当にあったのだ。

かずき

てめー生意気なこと言いやがって!
ぜってー負けねーからな!

はるみ

望むところよ!

ダーン ダーン ダーン

はるみ

あれ?

かずき

早く来いよな!

はるみ

あ、うん!

ありがとう、楽しかったよ

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