ゴールには届かず、ボールは手前で落ちた。
シュートはフォームを意識してやるといいよ
まず、手のひらを上に向けた状態で、利き手でボールを持って手をまっすぐ伸ばす
そのままボールを落とさないように、おでこの上に持ってくるんだ
こう…あいた!
あはは、ボールは片手じゃつかめないからね。常に手のひらは上に向けたまま持ってくるんだよ
こう?
そうそう。肘は外に向かないように気を付けてね
後は利き手と逆の手をボールにそっと添える
添える?
支えてあげるって感じかな?打つときは支えてるだけだから力を込めちゃだめだよ。あとはひざを使ってゴールにシュート!
うー、えい!
ゴールには届かず、ボールは手前で落ちた。
ダメだ
コントロールはしっかりできてるから後は打ち方だね。こう、ひざを使うんだ
私は体育館であった少年にバスケを習っていた。
私にできるのかな
僕がちょっと教えただけでまっすぐ飛んだからきっとすぐできるようになるよ
ほんとに?
うん!
じゃあ僕がもう一回やってみるから同じようにやってみてね
こうして、バスケの少年との不思議な放課後が始まった。
はるー!
……
無視すんなよな!今日バスケやるぞ
私がいるとつまんないんでしょ
俺がいいって言ってんだからいいだろ
私、今日用事あるから無理!
私はかずきの誘いを断り、足早に体育館へ向かった。
ちぇ、なんだよあいつ
まず謝るべきだな
はるの意地っ張り
えい!
ガンッ
当たった!
やったね
うん!
あとはたくさん打って慣れていくことかな
フォームに気を付けながら、やっていけばきっとすぐ入るようになるよ
うん、頑張ってみる!
私はゴールから離れた位置に飛んで行ったボールを取り、少年のほうを向いた。
あれ?
振り向いた先に少年の姿はなかった。周りを見渡しても人影のない静かな体育館が広がっていた。
帰っちゃったのかな
まだまだいろいろと教えてもらいたかったのだが。
明日も来てくれるかな
体育館に私一人の声が響いた。
あー!いたー!
こんにちは
こんにちはじゃないよ!なんでこの前なにも言わずに帰っちゃったの!
あの日の後、何日か放課後に体育館を訪れてみたが少年はおらず、1週間ぶりくらいの再会だった。
ごめん、ちょっとね…
ちゃんと言ってよ。びっくりするから
うん、ごめんね
うん、許してあげる
その代わり、バスケ教えてね
もちろん
なんか最近はるがおかしくないか
なんかあったのか?
バスケに誘っても全然来ないんだよ。
なんか用事があるって言って
そういや、最近帰りも遅いな…
ちょっと聞いてみるか
はるー!
放課後になり、
いつものように体育館に向かおうとすると、
兄のしゅんやに呼ばれた。
なーに、しゅん
お前最近何してるんだ?
放課後よくどこかに行ってるだろ
べ、別になにもないけど
隠すつもりはないが、なぜか秘密にしておきたかった。
なんか悪いことしてるなら母さんに言いつけるからな
別に悪いことなんてしてないよ!
じゃあなんで隠す
それは…
はる、正直に言えよ
このまま疑われるのも嫌だったので、
私は正直に話すことにした。
体育館でバスケを教えてもらってるの
バスケってことはかずきかなおとにか?
ううん、違う。
たぶん違う学校の子
眼鏡かけてて、
あんまり運動しなさそうに見えるのに、
すごくバスケ上手なんだよ!
同い年なのか?
そうみたい。学校は聞いてないけど
あ、もうこんな時間!
今日も行かなきゃ!
じゃあね、しゅん
ああ、頑張れよ
あんなに楽しそうに、はるどうしたの?
なつこか。
なんかはるが体育館で友達に
バスケを教えてもらってるらしくてな
へー
そういえば体育館って言えば知ってる?
最近、幽霊が出るらしいよ
幽霊?
うん。
なんかかずきが知ってる子が、
最近死んじゃったんだって
でも、かずきがこの前体育館で
その子が遊んでるの見たらしいよ
見間違いだろ
そうかもしれないけど…
でも、子どもの幽霊って無意識に
友達を連れて行っちゃうって、
この前テレビでやってたから…
なつこの友達なのか?
あ、そっか。知らない子だから平気なのか!
そうわかったら安心しちゃった!
ありがと、しゅんや
ああ、また明日な
……一応、様子見に行っておくか
えい!
うん、いい感じだね
今日はパスのやり方を教えてもらっていた。
返すよー
うん
しばらく無言でふたりでパスをしていたが、
男の子が話をし始めた。
そういえば、どうしてバスケが上手になりたかったの?
友達がへたくそだから仲間外れにするの
へー、その子よっぽど上手なんだね
うん、大会とかも出たことあるんだって
大会かあ…
僕も出たことあるよ
うわあすごいね!
結構いいところまでいったんだけど、
結局負けちゃったんだよね
もう一回出てみなよ!
きっと次は優勝できるよ!
次…か
男の子はつぶやくとパスの手を止めてしまった。
どうしたの?
次は…ないんだよね
なんで?
こんど大会あるってかずきが言ってたよ?
………僕、もう死んじゃってるんだ
え!?
急に変なことを言い出すので、変な声が出てしまった。
何言ってるの?
幽霊は足ないんだよ。
男の子の身体を見ても、
足はついてるし変なところはない。
あはは、もうちょっとバスケがしたかったからね
でもごめんね、もうそろそろダメみたい
バスケ教えてくれるって言ったじゃん!
大丈夫、十分上手になったよ
ほらっ!
男の子は大きくボールを投げた。
わっ!
あ、あれ?
ボールを取ろうと男の子から目を離してしまい、
視線を戻すともう男の子はいなかった。
ねえ、どこ行ったの?
声をかけても私の声だけが、体育館に響いた。
……ねえ
その時、突然体育館の扉が開いた。
あれ?はるだけ?
しゅん…
そこにいたのは兄のしゅんやだった。
どうした、そんな顔して
さっきまでもう一人一緒にいたんだけど、
急にいなくなっちゃって…
………はる!帰ろう!
え?どうしたの?
いいから!
しゅんは突然真剣な顔つきになると、
引っ張るように私を体育館から連れ出した。
なんでそんなうまくなってんだよ、はる!
ないしょー
あの後、私はあの男の子に会うことはなかった。
これからははるも一緒にできるな
二人とも私に勝てるかな
あの男の子は本当に幽霊だったのかはよくわからない。
でもあの子に習ったバスケは本当に上手になっていた。
幽霊だったかもしれないけれど、
あの子とバスケをしていた時間は本当にあったのだ。
てめー生意気なこと言いやがって!
ぜってー負けねーからな!
望むところよ!
ダーン ダーン ダーン
あれ?
早く来いよな!
あ、うん!
ありがとう、楽しかったよ