【第四話】
『トキオ』
【第四話】
『トキオ』
西暦2000年に日本各地で複数の古代遺跡が発掘された。
それと同時に日本の各地で未確認生命体が多く確認される。しかし未確認生命体は1990年代から目撃されており、警視庁は秘密裏に未確認生命体対策班 Unown Counter-Special Forces通称『UC-SF』を設立。
西暦2001年には、日本各地で人間の仕業とは思えないほどの猟奇的な殺人事件が多発し、UC-SFは犯行原因を未確認生命体と断定し捜査を開始する。後に未確認生命体を『アンノウン』と命名し独自開発の戦闘スーツ『A-シリーズ』でアンノウンに対抗。
その後、二年間の戦いにより日本各地の猟奇殺人は沈静化されUC-SFの功績も認められる。
しかし、その後さまざまな考古学者や大学教授の調査により、未確認生命体アンノウンの他に人型から変化する存在が明らかになった。それを総称して『グリム』と命名した。
そして2015年現在。未だにUC-SFとグリムの戦いは続いていた。
制服警官が運転するパトカーの中には船橋と左右田がいた。
年齢、性別は不祥。茶色いコートにアタッシュケースを持って逃走。グリムの可能性あり
無線で船橋が連絡すると、直ぐに左右田の方を向いて話を続けた。
でな、当時グリムについて調査していた大学教授の一人の名前が、この資料にあるMUTUO-NANAHOSI・・・七星陸生ってわけだ
船橋さん。良く覚えてますね
まぁな。変わった名字だったしねぇ、何より妙な男だったよ。他の教授とは異なる論文だったし、アイギス…いや、『A-シリーズ』の開発にも携わっていたしな
異なる論文・・・ですか
左右田は船橋から目線をそらし、何かを考え込む様に外を眺めた。
船橋は、そんな左右田を無視して、言葉を続ける。
先ずは七星陸生だ
それに、逃げた『男』も気になりますし
男・・・だったのか?
はい。それにボサボサの長髪でした
船橋は左右田の頭を拳骨で叩いた。
先に言え!検問要請に、服装の特徴しか言ってないだろうがっ!
すみません
日も暮れて街灯には明かりが灯り、街行く人が帰路につき、店の明かりは徐々に消え、街が少しの落ち着きを見せた頃。
お茶の水駅近隣にある一件のケーキ屋の明かりだけが灯っていた。
西洋風の、どこかこ洒落た雰囲気漂うこの店は、外観はケーキ屋であるが昼はランチ、夜はBARと姿を変え、古くから経営している事もあり学生やOL達から密かながら絶大な人気があった。
ここケーキ屋『マスカレイド』の女性従業員である寺島鳴海は、最後の客が帰ってから、店内の清掃をしてゴミを捨てに裏口を開けた時、ゴミ業者が回収する大きなゴミ箱に寄りかかり座っている男を見つけた。
そんな所で寝られると、いろいろ困るんだけど
男は鳴海に目もくれず、小さく呟いた。
あぁ・・・悪ぃ
男はゆっくりと立ち上がろうとするが、そのまま前のめりに倒れ込む。
ちょっ―――
鳴海は男の服装に気付いた。男が羽織っている茶色のコートには大量の血が付着していて、直ぐに尋常ではない事を理解した。
鳴海は男の側により声をかける。
生きてるの?死んでるの?どっちか言いなさい
・・・死んでたら何も言えないっしょ
男のクダラナイ返答を聞いた鳴海は、裏口の扉の方へと歩みを進め、店内に向かって大きな声で叫んだ。
マスター。厄介事が外に転がってるんですけど~
鳴海の声で走って来たのは、50代前後のメガネをかけたエプロン姿がよく似合う白髪の男。
壁に寄りかかって腕組みをしながら鳴海は言う。
マスター。アレです
アレと顎だけで示された先に倒れている男を見てマスターは慌てた。
と、と、とっ、とっっ、トキオ君!?
地面に仰向けで倒れている男は、片腕だけ上げて返事をした。
おひさし・・・よろすく
それだけ告げて、トキオは意識を失った。