シグレは、積み上げられている段ボールのひとつに腰かけた。ふふ、と小さく笑う。

さっきサミーには言ったけれど、公私混同も甚だしいのよ。

私の両親は研究者だったことは、キツネは知ってるわね

 キツネは、そばにあるパイプ椅子に腰かけると、ああ、と小さく頷いた。

 俺もそこら辺に転がっていた椅子をひとつもってきて、静かに座る。

 三人で向き合い、男性陣二人はだまってシグレの言葉を待つ。

二人は青い宝石の研究者だったの。

長年、なぜ青い宝石が様々なところに現れてはダミーを置いているのかを調べていた。

結局分からなかったようね、私がキルズに入社するテストを受けるその日に、事故で亡くなったの

 シグレは震えていた。

私は、青い宝石が両親を殺したのではないかとにらんでいる。それだけよ

……そうか

 キツネは、静かに立ち上がると、震えているシグレの前に行き、ひざまずき、そして恭しくシグレの手をとった。

 唐突な行動に、シグレは顔を真っ赤にする。

 隣のサンザシさんもおおはしゃぎだ。

話してくれてありがとう。

でも、いいか。分かっていると思うが、言うぞ。

それはあくまで推測だ。

核心が持てたら、きちんと相手にもそのことを伝えて、それから、殺したいなら殺すべきだ

 殺す、という言葉を、キツネはあえて使ったのだろう。

 シグレは、こくこくと何度も小さく頷いた。

先走ったら俺が止める。

いいか、確証が無いまま私情を優先させるなよ

 シグレは、こくこくとうなずきながら、ぽろぽろと涙を流し始めた。

 キツネがガキかよ、と困ったように笑っている。


 俺は静かに席を立ち上がる。部屋を出る直前で振り返ってみると、シグレは子どものように、キツネに抱きついて静かに泣いていた。











いい雰囲気じゃないですか!

 部屋を出て、サンザシが興奮気味に言う。

恋愛もので、恨みが関係している昔話って、なんだ?

 真剣に言うと、もうとサンザシは頬を膨らませた。どうやら同意してほしかったようだ。

キツネさん、王子さまみたいだったよな

 言うと、サンザシは赤い目をきらきらさせて頷く。

はい! かっこよかったです!

 ふむ、あんな少女マンガみたいなシチュエーションにときめくものなのか、そうか。

乙女だね、サンザシさん

知らなかったんですか?

 もう、とサンザシはもう一度頬を膨らませた。











 取り乱したわ、とシグレが部屋を出ていったあと、俺が部屋に戻ると、キツネがにやにやとしながら、

小柄なの、むっちゃちっちゃいのね、あいつね、それなのにね、ふわふわしてるの、そんで、いい香りがしてさあ

 と、聞いてもいないのに語り始めた。

 先ほどのかっこいい彼はどこに行ったのか。

 鼻の下を伸ばし、わかりやすくでれでれとしている。

……よかったですね

よかったです、うへへ

 うへへ、だそうです。

さっき、かっこいいなって思ったのに

かっこよかったかなあ、うへへ

……でも、聞けてよかったですね

 にへらにへらしながら、キツネはそうだね、と頷く。

彼女にも理由があった。俺はストッパーにならないとな。

あんなに冷静な振りをして、中身は燃えるような意思のある女だからさ。

サミーもよろしく

ええ、シグレさんが暴走しそうになったら、キツネさんを呼びますよ

わかってるじゃん、えっへへへーよんでねーっへへへー

 頭をかいて、によによとしている。正直な人だ。
 

4 忌むべき魔法は隠れた青色(12)

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