シグレが叫ぶ。その姿は、駄々をこねる子どものようだ。
足元救われたっていいわよ、あいつをこの世から消したいの!
シグレが叫ぶ。その姿は、駄々をこねる子どものようだ。
殲滅前に交渉をしなくちゃいけないのを忘れるなよ! あくまで殲滅は最終手段だ!
キツネも負けじと叫ぶ。部屋のガラスが割れてしまいそうなほど、大きな声だ。
わかってるわよ! そんなこと!
ほんとうかよ、お前、最近変だぞ?
何がよ! 私はなにもおかしくないわよ!
ええい、らちがあかん。
俺は勇気を振り絞り、ちょっと、と叫んだ。つもりだったが、うまく声が出なかったため、もう一度。
ちょっと!
二人がはっと顔をあげ、同じタイミングで俺の方をぎろりと見る。
一瞬ひるみそうになるが、負けない。ぐっとこらえて、なるべく静かに意見を言う。
あの、シグレさん、二人きりで話したいことがあるんですけど
二人は同時に、眉をつりあげた。
似た者同士。思わずへらりと笑ってしまう。
ほんの少しですから
俺は強制的にシグレを外に連れ出すため、彼女の手をとった。
キツネの視線が痛いけれど、今は緊急事態!
……ごめんなさい、あんな、かっこ悪い姿
廊下に出ると、シグレはいくらか落ち着いたようだった。
壁によりかかり、腕を組んでこちらに視線をやる。
それで、話ってなにかしら。まさか、ぬけたいとか?
いえ、そんな。聞きたいことがあるんです。
なぜ、そこまで青い宝石の殲滅にこだわるのかを
シグレの表情がぐらりと揺らぐ。
困ったような、逃げ出したいような、そういう表情だ。
逃げていただいては困る。俺は、さらに追い討ちをかける。
たぶんですけど、キツネさんも知らないですよね?
だから、二人はぎすぎすしている……キツネさんは、シグレさんの執拗なまでの青い宝石への熱意に、驚いて、それで、ただ心配なだけなんだと思うんです
……悪かったわよ
シグレは中指で眼鏡をくいとあげ、ああ、と腕を組み直す。
私情よ、私情。公私混同なの、この仕事。
そういうのって私、かっこ悪いと思っていたから秘密にしてたの。
でも、そうね、そうもいかないわよね
ふう、とついたため息は、恐らく決意のため息だろう。
あなたの言いたいことはよくわかったわ。
戻りましょう。キツネにも話さなくちゃね
部屋に戻ると、キツネに真っ先ににらまれた。
なにもしていないだろうな、とでも言いたげな視線に、俺は思わず首を横に何度も振る。よし、とキツネが頷く。
なんなんだ、もう。
キツネ
シグレはキツネの前にたつと、キツネが返事をする前に、深々と頭を下げた。
きょとんとするキツネ、と、俺。
ごめんなさい。私が悪かったわ
キツネはその言葉で現実に引き戻されたようで、慌ててシグレの肩を持ち、無理矢理起こした。
やめてくれ、俺も悪かったんだ。
やけになって……
俺の方からではシグレの後ろ頭しか見えないが、恐らくじっと見つめられたのだろう。
キツネは困ったように眉間にシワを寄せると、とにかく、とシグレを突き放した。
照れ屋さんですね
サンザシがぽつりと漏らす。うむ、と静かに頷く。あの照れ屋キツネ。
全部話すわ