うさら

…………

あ、うさらさん。具合はいいんですか?

うさら

ひっ!

ど、どうしたんですか?

うさら

夢だよ、夢
疲れていてヘンな夢を見ただけ
『いつな』なんて、世界を選ぶなんてそんなこと、あるはずない

いつな

ふふ、夢じゃないぞキミ
受け入れたと思っていたが、ただ追いついていなかっただけか

いつな

ほら、今は『ふうな』だ
心配させてやるなよ

うさら

ふうな

あの、まだ具合悪いんじゃ……

うさら

だ、大丈夫。熱もないから

うさら

大丈夫、大丈夫だから……

ふうな

それは大丈夫じゃないときだって、私、知ってます
何年幼馴染やっていると思っているんですか

うさら

そ、そんなことないよ

ふうな

まったく、そこでそう言うのもうさらさんです

ふうな

本当に熱はないんですか?

うさら

ない、ホントにないよ

ふうな

うーん、意地を張りますね

うさら

そんなんじゃないってば

ふうな

わかりました
保健室で一人眠るのが寂しかったんですね

ふうな

早く言ってくれれば私が添い――

うさら

それはない

ふうな

ああー、そんな状態でもキレがいいですね

ふうな

無理はしないでくださいね
早退してもノートとかは気にしないで

ふうな

って、うさらさんがそんなこと心配しないですよね

うさら

悪かったわね……

ふうな

悪くなどありません
ノートを持っていくイベントが起こるんですから

ふうな

あと、お部屋がもう汚くなっているかもしれないですし、ついでに

うさら

来なくて大丈夫よ
ノートは次の日でいいし、部屋は昨日片付けたままだから

ふうな

さすがにまだ大丈夫ですか、残念です

うさら

まったくもう、ホントにふざけるの好きだね

ふうな

褒められたととりますね

うさら

はは、まったくもう

うさらさん、私はまだ死にたくありません
私を選んでください

うさら

いつな

ふふ……どうだ、オレの物真似は。選ばなければ『ふうな』は消えるぞ
世界と一緒に跡形もなく解体だ、存在していた痕跡も残らないくらいにな……

いつな

おっと、この事、話してくれるなよ
どうせ笑われるだろうが、念のためにペナルティを仕掛けてあるからな
一人で楽しまなければ意味がないだろう、キミ

うさら

ひっ……!

ふうな

うさらさん、どうし……顔が真っ青ですよ

うさら

い、いやっ……

うさら

なんでも、ないから……

ふうな

……わかりました
また何かあれば、呼んでください

ふうな

…………

うさら

『いつな』……趣味の悪いヤツ……大嫌いだ

うさら

こんなの、あたし一人で決めろって言われてもできるわワケない……
誰かを選ぶか、全員選ばないかなんて

うさら

選ばなかった世界にもあたしはいるはずだし、それにみんなもいる
『れいな』だけの問題じゃない、みんな暮らしてる

うさら

殺す? あたしが選ばなかったら、人類皆殺し? 人類だけじゃない、動物だって全部、全部あたしが……殺す?

うさら

う……ッ!

うさら

はあ……はあ……気持ち悪い……

うさら

朝ごはん、全部出ちゃった……は、はは……はは……

うさら

はっ、はは……ははははは……卵焼きだ……こっちは豆腐、味噌汁の……はは……

うさら

どろどろだけど、やっぱり意外とわかるものだね……

うさら

うさらの入っているトイレの個室のドアがノックされた

いつな

ああ、吐いたりしちゃもったいないじゃないか

閉まったドアの向こうにいるのは『いつな』だった

うさら

う、うるさいッ!

いつな

風邪を引いた?
悪いものでも食べた?
意外と月のものがひどいのかな?
あ、もしかして……

いつな

デキちゃったのかな?

うさら

うるさいッ!

うさら

うるさいッ! うるさいッ! うるさいッ!

いつな

ふふ、キミは『よおな』の「なの」を鳴き声だと言っていたが、キミだってあるじゃないか鳴き声が

いつな

「うるさいッ!」

いつな

ふふ、覚えておこう

うさら

…………ッ

いつな

ふふ、どうしてそんなに気を病む必要があるのだ
オレはかなりの権限をキミに与えているというのに

いつな

『四人のれいな』の内、これからも仲良くしたい一人を決めるだけだというのに
単純、たったそれだけのこと

いつな

もしく、自分自身に飽きたのならば決めなければいい
痛くはないぞ。一瞬でキミの意識はなくなる

いつな

ふふ、ならば今決めるか?

うさら

…………あ

いつな

決めさせるものか
オレは期限までキミを見ていたいからな

いつな

あ、そうか
『れいな』だけではないのだな。巻き込まれて消える者のことも考えているのか

いつな

ふふ、愉快
実に愉快だが、それは愚かゆえの愉快だ

うさら

お、愚か?

いつな

そうだ
キミは何かを選択して生きてきたはずだ
そしてその選択は今回ほどではないが、確実に世界に影響を与えている

いつな

キミが選んだことで、先の可能性を潰された存在はある
知らないところで多く消してきているのだ、うさら

いつな

その存在の声が聞こえなかっただけなのに

いつな

それなのにふふ、今さら悩むのか……

うさら

ムチャクチャな話……よ

いつな

そうだ
だから人間、キミに選ばせてやっているのだ

いつな

解体前の素晴らしい余興だよ、キミは
賢しいうさら、悩みたまえ。もっと、もっと、食べたものではなく、血を吐くくらいに悩みたまえ

いつな

ふふッ、ふふふふふ……

いつな

はははははッ!

うさら

…………ッ

いつな

はははッ!

うさら

…………

いつな

ははッ!

いつな

おっとすまない
吐いている途中だったね、気が回らなかった

いつな

じゃあ、また会おう
ふふ……

いつな

子供、デキていないといいね……身体は大切にしたまえ

いつな

ふッ、ふふ……

うさら

…………うッ!

うさら

は、はは……こんなの……ひどいよ……

うさら

あたし、何かひどいことしてきたのかな……

うさら

あいつが言うように、色んな人の可能性、たくさん消してきちゃったのかな……

うさら

だからこんなバチ、当たっちゃったのかな……

うさら

ははっ、ははは……

うさら

いやああああああああああッ!!

うさら

なんで、どうしてあたしがこんな目に会わなきゃいけないの⁉

うさら

可能性を消してきたって、そんなのみんなだってそうじゃないッ!!

うさら

なのになんであたしだけッ、あたしだけがあんなのに付きまとわれてッ!!

うさら

嫌ッ……嫌だよ……、こんなの……ぐずっ……

うさら

うああ……

うさら

うあああああああああッ!!

いつな

いいぞ、うさら
キミは素晴らしい。その泣きわめく声もまたオレをひどく喜ばせ、この肉体を確かに濡らす

いつな

ふふ、これからは替えの下着を持ってきておくべきかもしれないな、『れいな』

いつな

そうだ、ついでにこのままで誰かに代わってやろう
ふふ、どいつにしようかな……

いつな

決めたぞ……キミだ

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