うさらの入っているトイレの個室のドアがノックされた
…………
あ、うさらさん。具合はいいんですか?
ひっ!
ど、どうしたんですか?
夢だよ、夢
疲れていてヘンな夢を見ただけ
『いつな』なんて、世界を選ぶなんてそんなこと、あるはずない
ふふ、夢じゃないぞキミ
受け入れたと思っていたが、ただ追いついていなかっただけか
ほら、今は『ふうな』だ
心配させてやるなよ
⁉
あの、まだ具合悪いんじゃ……
だ、大丈夫。熱もないから
大丈夫、大丈夫だから……
それは大丈夫じゃないときだって、私、知ってます
何年幼馴染やっていると思っているんですか
そ、そんなことないよ
まったく、そこでそう言うのもうさらさんです
本当に熱はないんですか?
ない、ホントにないよ
うーん、意地を張りますね
そんなんじゃないってば
わかりました
保健室で一人眠るのが寂しかったんですね
早く言ってくれれば私が添い――
それはない
ああー、そんな状態でもキレがいいですね
無理はしないでくださいね
早退してもノートとかは気にしないで
って、うさらさんがそんなこと心配しないですよね
悪かったわね……
悪くなどありません
ノートを持っていくイベントが起こるんですから
あと、お部屋がもう汚くなっているかもしれないですし、ついでに
来なくて大丈夫よ
ノートは次の日でいいし、部屋は昨日片付けたままだから
さすがにまだ大丈夫ですか、残念です
まったくもう、ホントにふざけるの好きだね
褒められたととりますね
はは、まったくもう
うさらさん、私はまだ死にたくありません
私を選んでください
⁉
ふふ……どうだ、オレの物真似は。選ばなければ『ふうな』は消えるぞ
世界と一緒に跡形もなく解体だ、存在していた痕跡も残らないくらいにな……
おっと、この事、話してくれるなよ
どうせ笑われるだろうが、念のためにペナルティを仕掛けてあるからな
一人で楽しまなければ意味がないだろう、キミ
ひっ……!
うさらさん、どうし……顔が真っ青ですよ
い、いやっ……
なんでも、ないから……
……わかりました
また何かあれば、呼んでください
…………
『いつな』……趣味の悪いヤツ……大嫌いだ
こんなの、あたし一人で決めろって言われてもできるわワケない……
誰かを選ぶか、全員選ばないかなんて
選ばなかった世界にもあたしはいるはずだし、それにみんなもいる
『れいな』だけの問題じゃない、みんな暮らしてる
殺す? あたしが選ばなかったら、人類皆殺し? 人類だけじゃない、動物だって全部、全部あたしが……殺す?
う……ッ!
はあ……はあ……気持ち悪い……
朝ごはん、全部出ちゃった……は、はは……はは……
はっ、はは……ははははは……卵焼きだ……こっちは豆腐、味噌汁の……はは……
どろどろだけど、やっぱり意外とわかるものだね……
⁉
うさらの入っているトイレの個室のドアがノックされた
ああ、吐いたりしちゃもったいないじゃないか
閉まったドアの向こうにいるのは『いつな』だった
う、うるさいッ!
風邪を引いた?
悪いものでも食べた?
意外と月のものがひどいのかな?
あ、もしかして……
デキちゃったのかな?
うるさいッ!
うるさいッ! うるさいッ! うるさいッ!
ふふ、キミは『よおな』の「なの」を鳴き声だと言っていたが、キミだってあるじゃないか鳴き声が
「うるさいッ!」
ふふ、覚えておこう
…………ッ
ふふ、どうしてそんなに気を病む必要があるのだ
オレはかなりの権限をキミに与えているというのに
『四人のれいな』の内、これからも仲良くしたい一人を決めるだけだというのに
単純、たったそれだけのこと
もしく、自分自身に飽きたのならば決めなければいい
痛くはないぞ。一瞬でキミの意識はなくなる
ふふ、ならば今決めるか?
…………あ
決めさせるものか
オレは期限までキミを見ていたいからな
あ、そうか
『れいな』だけではないのだな。巻き込まれて消える者のことも考えているのか
ふふ、愉快
実に愉快だが、それは愚かゆえの愉快だ
お、愚か?
そうだ
キミは何かを選択して生きてきたはずだ
そしてその選択は今回ほどではないが、確実に世界に影響を与えている
キミが選んだことで、先の可能性を潰された存在はある
知らないところで多く消してきているのだ、うさら
その存在の声が聞こえなかっただけなのに
それなのにふふ、今さら悩むのか……
ムチャクチャな話……よ
そうだ
だから人間、キミに選ばせてやっているのだ
解体前の素晴らしい余興だよ、キミは
賢しいうさら、悩みたまえ。もっと、もっと、食べたものではなく、血を吐くくらいに悩みたまえ
ふふッ、ふふふふふ……
はははははッ!
…………ッ
はははッ!
…………
ははッ!
おっとすまない
吐いている途中だったね、気が回らなかった
じゃあ、また会おう
ふふ……
子供、デキていないといいね……身体は大切にしたまえ
ふッ、ふふ……
…………うッ!
は、はは……こんなの……ひどいよ……
あたし、何かひどいことしてきたのかな……
あいつが言うように、色んな人の可能性、たくさん消してきちゃったのかな……
だからこんなバチ、当たっちゃったのかな……
ははっ、ははは……
いやああああああああああッ!!
なんで、どうしてあたしがこんな目に会わなきゃいけないの⁉
可能性を消してきたって、そんなのみんなだってそうじゃないッ!!
なのになんであたしだけッ、あたしだけがあんなのに付きまとわれてッ!!
嫌ッ……嫌だよ……、こんなの……ぐずっ……
うああ……
うあああああああああッ!!
いいぞ、うさら
キミは素晴らしい。その泣きわめく声もまたオレをひどく喜ばせ、この肉体を確かに濡らす
ふふ、これからは替えの下着を持ってきておくべきかもしれないな、『れいな』
そうだ、ついでにこのままで誰かに代わってやろう
ふふ、どいつにしようかな……
決めたぞ……キミだ