はあ、大分落ち着いたけど……
帰るべきかな

学校にいたって、どうにもならないもんね……

ん？

…………

まさか、また『いつな』……？

…………

違う、あの雰囲気は違う
それになんか困ってるみたい

でも、もしあいつだったら……

…………

いや、幼馴染なんだ
困っているように見えたのをそのまま流すなんて、できない

ど、どうかした？

……うさら、ちゃん

どうしたの？

私、私……

私……

ヘン、『ひいな』だろうけど、でもらしくない

もしかして、『いつな』が何かしたッ⁉

びびるなあたし、戦えあたし、これがあいつの仕掛けたことだったとしてもッ！

れいな、動ける？

う、うん……

じゃあ、保健室まで。いい？

大丈夫……

いつも先生いないのよね
好都合だけど

れいな、どうしたの？
痛いの？

……うさら、ちゃん……私、私……

下着が、下着が……

下着？

知らないの……でもッ

言いづらい？

気持ち悪いの……ッ

し、し、湿っ……てて……

それも、おし――

大丈夫、わかったからそれ以上は
あたしは誰にも言わない

うっ、ぐずっ……本当なの、知らないの、でもッ、でもッ

い、『いつな』ぁ……ッ
人の身体で、何をしてぇッ！

ぐずっ……ぐすっ、ひくっ……うう……

だ、大丈夫、大丈夫。ね？
下着脱いで、体操着に着替えよっか

でも、みんなにおかしいって……

適当に理由つければ気にしないよ
今日体育あるし、あたしが教室に取りに行くから

だからここで少し待ってて

う、うん……

ありがとう……うさらちゃん

困ったときはお互いさまだよ

下着は袋に入れた？

うん
だ、大丈夫かな……

大丈夫大丈夫
スーパーの袋だから、中の物は見えないし
それにズボンだから

まさかお母さんに入れられていたのがこうも役に立つとは
スーパーの袋、侮りがたし

う、うん
しっかりと紐結んで、落ちないようにしないと

まあそんな事故ないよ

そうだな、『普通』ないな

⁉

ふふ……ないな……

うさらちゃん、どうしたの？

なんでもない、なんでも

何か仕掛けるつもり……ッ⁉

れいな、ちゃんと、ちゃんとあたしがそばにいるからッ

う、うん……ありがとう

そばに……いるから……ッ

そう、ずっとそばにいたのは私だよ
だから選んでくれるよね？

⁉

言ってない、『いつな』でもない
思い込み、あたしの思い込みだ……ッ

うさらちゃん、やっぱりなんだかおかしいよ

大丈夫、大丈夫は大丈夫なんだから

大丈夫なんかじゃないよ
うさらちゃん、私はずっとうさらちゃんの近くにいたんだから

とても困っているときのうさらちゃんだよ、今

私ばっかり助けてもらって、でもうさらちゃんを助けられないのはイヤなの

誰にも言わないから、ね？

言えない
言ったらペナルティーだって。あいつのこと、何が起こるかわからない

ごめん……

…………

ごめん……

そう……
ううん、私もごめん。でも、祈ってる

解決するよう、祈ってるから

ありがと……でも、ごめん、ホントにごめんね……

どうしてそこまで謝るの？

ごめん、それも……言えない……

そっか
でも、私はずっとうさらちゃんの味方だから

それだけは覚えておいて

うん……

そうだ
遊んじゃおっか

え？

明日の放課後、街に行こうよ

ゆうかちゃんも誘って

でも、『いつな』が……

遊べば、いい考えが浮かぶかもしれないよ
私もなんだか、気分転換したいから

……そうか、きっとそうだよね
今混乱してるから、だから悪いことばっかり

うん、そうだね
そうしよっか

決まりだね
私、見たいものあるんだ

へえー
あたしもちょうどそういうのあるんだよねー

楽しみだね

うん、楽しみだね

そりゃ災難だったねー
まさかプールに落ちるなんて

う、うん

あんまりにもびしょびしょで、びっくりしたんだから

でもなんでプールに？

そ、それはあれだよ
暑いし、ちょっと行ってみようってあたしが

なるほど、なのかな？

そ、そうだよ
うんうん

ま、まあそのせいで先生に怒られたワケなんだけど……

…………

溺れなくってよかった
服着てるとすごく重いからね、それも制服なんて

経験あるの？

うん、ちっちゃい頃にねー
溺れたワケじゃないんだけど、服着たまま川に入ってそれで

まあ泳ぎが得意だったからね
それでも泳げたんだけど、やっぱり重くて重くて

やっぱり水には水着だな、と改めて実感したもんよ

ゆうか、上手いもんね
えっと、中3だっけ？　水泳習ってたのは

そうそうそれまで

そういや訊いたことなかったけど、どうして辞めたの？
あんなに上手いのに

んー

やっぱり上には上がいたからかな
結構頑張ったんだけどねー、でもその子たちには敵わなくって

それに背もあんまり伸びなかったし、150前半はちょっとね
というワケで十分人よりは泳げるし、この辺りでいっかという具合

ご、ごめん……

謝ることないって
そんな逃げるような辞め方じゃないんだから

それに泳ぐのは好きだから、今でも近くの市民プールで泳いだりするんだ
あそこ安くてねー

何かに追われず、自分なりに好きに泳げるっていうのはとてもいいことなんだよね
ちっちゃい頃に感じてた、楽しさを思い出すというか
水に浮く感覚がこんなに楽しいものなんだって

あ、別に競技してる人をどうとか言ってるワケじゃないからね

私なりの楽しみを見つけたってだけ

多分、きっとずっとそういう風に泳ぐのかも
おばあちゃんになっても

部活のトレーニングにもなるしね
肺活量的な意味で

そっか
ゆうか、意外に色々考えたりするんだねー

意外、は余計だよー、はは

それはごめんごめん

……あ、あの

ん？　あの、なんて固いねー

う、うん
明日の放課後空いてないかなって
街に遊びに行くんだけど

ほうほう

うん、大丈夫だよ
部活はまあ休めるしね、自由だから

いいの？　本当に？

気にしない気にしない
ちゃんと話すれば問題なしッ

れいなが誘ってくれてるんだし、たまには休まないとねー

そんなワケで明日だね
オッケー

うん

しかしこう教室で体操服だと、れいなちゃん、やっぱりスタイルいいのが目立つねー

う、そんなことないよ

またまたそんなご謙遜を

なんかこう、みんなが制服の中一人だけ体操着……

やらしいねッ

う、うう……

こらこら、イジらないの

ごめーん

でもれいなちゃんが発案なんて珍しいね
いつもうさらちゃんなのに

そんなときもあるよ

あったね

てか、さっきかられいなちゃんの顔、ほんのり赤いね

そ、そんなことないよ

ゆうかがイジったからでしょ

そうかなあ？
それより前からの気がするけど

まったく
そうやってごまかそうとしない

ええー
思ったままなんだけど

はいはいおしまい

今のところ『いつな』は何も仕掛けてない
やっぱり明日の放課後を狙うのかな

ごめんね、れいなちゃん

ううん、気にしないで
ちょっと暑くてなってるのかも

ほんのり色づく女の子……

やらしいねッ

またぁーッ！

はは、ごめーんごめーん

あ、そろそろ授業
戻るねー

れいな、大丈夫？

ヘンな感じだけど、大丈夫

明日、何かご馳走するね

いいよいいよ

でも……

言ったでしょ
困ったときはお互いさまだって
だからそれでいいの

うん、わかった

あいつを知っているのはあたしだけ
なら、どうにかできるのもきっと、あたしだけなんだからッ！

うぬぼれ上等、とことんうぬぼれてやるッ！