あや

そ、そいえば……真澄、気付いてる?

落ち着きを取り戻した文月が、私に怖々聞いてきた。

真澄

……何?

彼女は、先ほど部屋を出たときに見たという。
何を見たと聞けば……。

あや

さっきそと出たとき……
ドア、空いていたの
17番の部屋……

すっかり怯えきった彼女は、恐怖を忘れるように、私にしがみつく。

真澄

17?
……そう、見てくるわ
じっとしてて

私がそう言うと、頷いてベッドに腰かける。

真澄

部屋に鍵をかけておいてね
誰が入ってくるかわかんないんだから

あや

う、うん……

あや

大丈夫だよね? 
真澄、居なくならないよね?

真澄

私は死にいくつもりはないよ

縋るような彼女に、柔らかい癖っ毛を撫でて、優しく言う。
それだけでいい。余計な言葉は不要。
安心させてあげるのが目的だし。
私は、居なくなる。
でも、彼女は、生き残させる。
そう決めた。
私が生きている限り、私が勝手で護ったなら、最期まで責任は取る。
まるで私がただ一人の味方であるようにさっきから彼女は振舞う。
その態度の裏返りは、不安と恐怖から来ていると思うことにする。
まあ、どのみちどうでもいい。
助けるなら助けるだし、決めたらもうそれで良い。

あや

うん……

不安げな彼女を残して、私は部屋を出て、様子を見に行った……。

ゲームマスター

やあやあ、おはよう諸君!
今日はちゃんと昼間に追放者を出してねえ!
それじゃあ気張って行こうかー!

……昨日以上に、最悪な空気がここにあった。
現在、13名。16から三人、減った。
三人、夜のうちに死んだ。
嬉々として騒いでいるゲームマスターに、誰も反抗しない。
二日も続けば、現状に手一杯になって、その気力すら奪われる。
地獄。そうだ。
ここは、地獄だ。
誰もがそう思う。私以外は。

真澄

もう……黙って……

ただ、フリをしている私は項垂れて、喚くゲームマスターに呟く。
昨晩、そういう手はずで朝になったら芝居を打つと決めていた。
私は悲しみと情けなさでつい、怒鳴るという設定だ。

ゲームマスター

えっ、なに?
何か言ったかな18番?

真澄

――だまれぇっ!!

机を平手でひっぱたき、私は立ち上がる。
周りがビクッと反応する中。
私は監視カメラを睨め上げて叫ぶ。

真澄

あんたはもう、出てくるなッ!
言わなくたって分かる、確認しなくたってわかるよッ!!
この中の誰かがまた殺したんでしょ!!
また減ってる! 三人も!
一晩で三人死んだ!! 見りゃわかるよ!!
なんでいちいち、あんたが出しゃばって私達に報告しないといけないんだ!!
もういいよっ!! もう沢山だ!!
人の死を笑う奴なんて、もういらないっ!

ゲームマスター

――ほぅ?

低くなる声。
予定通りいけばこの後、ちょっと私は痛い目を見る。
一度出たなら、次も私だ。
悪い手本をすれば、いい戒めになる。

真澄

うるさいうるさいうるさいっ!!
もうごめんなんだよっ!
あんたの声を聞くのは!
見つければいいんでしょ、暴けばいいんでしょう!?
やるよ、やってやるよ!! 
あんたは見てりゃそれでいいんだろ!!

私がヒステリーを起こしたように手当り次第周りのもの当り散らす。
この行為は別に問題ない。
あらゆる暴力行為を「人に」やるのが禁止されてるだけで、勝手に暴れてるだけならいいと聞いてある。

やめなさい住吉っ!

速水がトチ狂った私を見て怒鳴る。
私はそれを無視して、まだ八つ当たりにモノに当たる。

真澄

やるって言ってんだからほっといてよ!!
クリアするまで、もう放っておいてよ!!

バタバタ暴れている私をルールに縛られ押さえ込めない他の参加者。
頃合だ、と思った途端。

真澄

――ッ!?

ブレスレットから、それなりに強い衝撃。
手首から、身体に電気が走った。
その不意打ちに強ばり、バランスを崩して倒れる私。

あや

真澄っ!?

文月が駆け寄ってくれる。
私は……全身が痺れて、うまく動かせない。
痛みはないけど、痙攣してしまう。
ちょ……これは、聞いてないんだけど……。
威力ありすぎでしょ、ゲームマスター……。

ゲームマスター

初日で懲りたんじゃないのかい、キミは……
死体を見て錯乱でもしたようだね、まったく

痙攣して藻掻く私を抱き起こして、介抱する文月。
ああ、もう泣きそうだよこの子。
うん、早速役に立ってくれてありがとう。
腕を伸ばそうとして、ピクピク痙攣する腕がみてて気持ち悪い。

不格好な私を見て戦慄する彼らに、ゲームマスターは逆らえばこういう風にされたり、最悪殺すと何度も脅す。
これ以上ルール違反なりなんなりを阻止してゲーム外で死人を出さないようにするためらしいが……うぅ、ビリビリする。
そんなに身体丈夫じゃない……ってか脆いのにここまでしなくてもいいのに。
そういえば、速水にどう言い訳しよう。
主にこの行為一連。

でも流石にショッキングなものを見ているし、流石の私もおかしくなってしまったと後で説明しておけばいいだろうか。
普通じゃなくてもあんなもん見れば、おかしくもなる。

真澄

うぅ……
くっそぉ……
げぇーむ……ますたぁー……めぇ……

あや

真澄、ダメだよ逆らっちゃ……
死んじゃうよ、大人しくしてよ? ね?

介抱する文月に涙声で嗜められた。
うん、わかってる。
大丈夫、死なないよ。
これは計算してある威力だから……あれ?

真澄

あぅ……

あっ、やばい……。
何か、意識が朦朧としてきた……。
眩暈が……するぅ……?
世界が、膝枕から見上げる文月が、高速回転してる……。
これ、まずい空気がする。

あや

えっ……?
真澄、ますみっ!?

真澄

…………

あや

ますみっ!?
ますみっ、しっかりしてぇっ!!

叫ぶ文月の声が遠く……なるぅ……。
もうだめだ、意識保ってられない。
失神する威力とか、あの野郎……。
意識回復したら覚えておけよ……。
私は文月の膝の上で、意識を失ったのだった。

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