迫り来る海水によって
沈み始める水中都市メーリン。
依然、ミューリエは
シャインの攻撃を防ぐので精一杯だ。
何か反転攻勢に出られる手段は
ないものか……。
迫り来る海水によって
沈み始める水中都市メーリン。
依然、ミューリエは
シャインの攻撃を防ぐので精一杯だ。
何か反転攻勢に出られる手段は
ないものか……。
アレス様、
勇者の冠に念を込めるのです。
冠の力は気の遠くなるような年月、
水中都市を守ってきました。
その力を使えば亀裂の修復も可能。
少なくとも、
時間は稼げるはずです。
わ、分かりました。
勇者の冠、そしてアレク様。
どうか水中都市をお守りください。
早速、僕は勇者の冠に念じた。
すると冠は銀色に輝き始め、
結界の亀裂に向かって光が放たれる。
するとその光が当たった場所は
溢れてくる水量が明らかに減り、
確実に効果が出ているようだった。
ただ、完全に水を防ぎ切れていない
ところを見ると、
結界はそれだけ深刻なダメージを
受けているということなのだろう。
リビングメイルとアイスゴーレムは
全て片付きました。
皆さん、
ミューリエ殿の援護をしましょう。
……いや、
ヘタに手を出さねぇ方がいい。
ミューリエ嬢ちゃんは
俺たちにも
気を遣わなきゃいけなくなる。
バラッタのおっちゃんの
言う通りかもな。
今はあいつに任せた方がいい。
ビセット様、
ゲートの復元はできないのですか?
時間がなさ過ぎます。
泳いで海面までは行けないか?
ここは深い海の底です。
海面に上がるまで
息が続かないのは当然として、
その前に私たちの体は
水圧に潰されてしまいます。
くそっ!
……あたしに任せて。
レインさん、
何かいい方法があるの?
あたし、転移魔法が使えるの。
だからそれで地上へ逃げられるわ。
ただ……。
何か問題が?
攻撃魔法以外は
あまり得意じゃないの。
だから一度に飛ばせるのは1人。
それなりに時間がかかるわ。
間に合うかどうか……。
今はそれしか方法がありません。
レイン殿には
負担がかかってしまって
心苦しいのですが……。
あはは、
それは気にしなくていいのよ。
…………。
レイン、頼んでもいいんだな?
その代わり、
無事に逃げ切ったら
あたしにスイーツを
奢りなさいよねっ♪
……分かった。
好きなだけ奢ってやる。
ありがとね、タック。
じゃ、まずはアレスからね。
いえ、アレス様は水中都市の水没を
防いでいます。
少しリスクとなってしまいますが、
順番はあとにした方が……。
僕なら大丈夫だよ。
みんなが先に避難して。
じゃ、シーラからにしましょう。
レインさんは魔法力で地面に魔方陣を描いた。
その待っている間に聞いた
タックの話によると、
これは転移魔法の中でも初歩的なヤツらしい。
高度な転移魔法なら
念じるだけで世界の果てまで移動できるとか。
シーラ、この魔方陣の上に載って。
そうしたら転移魔法を使って
地上へ送るから。
待ってください。
…………。
シーラは素速く防御魔法を唱えた。
それによりレインさんは光の衣に包まれる。
私にできる、
せめてもの手助けです。
どうかご無事で……。
ふふっ、ありがと。
魔方陣の上にシーラが載ると、
レインさんは何かを呟いた。
すると次の瞬間、
魔方陣全体が強い光を放ってシーラを包む。
その光が収まると、
彼女の姿は消えていたのだった。
次は誰?
バラッタのおっちゃんだ。
もし何かあったら、
船の運航に支障が出ちまうからな。
オイラたち以外の乗客や船員にまで
迷惑をかけるわけにはいかない。
俺がいなくても、
なんとかなるだろうけどな。
ま、お言葉に甘えさせてもらうぜ。
すみませんね、バラッタ殿。
海賊の財宝を
お渡しできなくなってしまって。
なぁに、いいってことよ。
久しぶりにこうして大冒険ができて
若い頃のことを思い出したぜ。
このワクワク感と貴重な体験、
それが今回の旅で手に入れた
財宝さ。
バラッタさん、カッコイイーッ!
アレス、先に行くぜ!
はい!
転移魔法でバラッタさんが地上へ避難した。
この調子なら、全員助かりそうだ。
でもその時、
魔法を唱えているレインさんが
息を乱しながら辛そうにしていることに
僕は気付く。
はぁっ……はぁっ……。
レインさん、大丈夫?
なんとか……ね……。
転移魔法は
魔法力の消費が大きいんだ。
それをこうして休みなく連続で
使っているんだから疲れて当然さ。
そんなこと、
言ってられる場合じゃないからね。
さぁ、次は誰?
ビセットが行け。
そして地上に戻ったら
島民や乗客たちを山へ避難させろ。
もし水中都市が沈んだら、
その影響で大波が
島に押し寄せる可能性がある。
お前なら一族の連中を通じて
避難を呼びかけられるだろう?
分かりました!
じゃ、行くかんね。
ビセットさんが目の前から消えた。
相変わらず、レインさんは苦しそう。
――あぁ、
なんか僕も少し体から力が抜けてきた。
冠の力を使って水没を防ぐには、
気力と体力を少しずつ消費し続けるらしい。
僕もそんなに長くは持たないかも……。
次はタックだよ。
……分かった。
ほら、早く魔方陣に載りなさい。
レイン、ありがとな。
この恩は絶対に忘れないぜ。
やめてよ、気持ち悪い。
じんましんが出ちゃう。
タックとレインは顔を見合わせ、
クスッと笑った。
なんだかんだ言って、
この2人は仲がいいんだよね。
本質的に気が合うのかもしれないな。
アレスのこと、
くれぐれも頼んだぞ。
えぇ、命に代えても
送り届けるから。
レインさんは寂しそうな瞳で
タックを見つめながら、
転移魔法を使った。
タックはずっと俯いたまま、
顔を曇らせていた。
――タックの姿も消え、
次はミューリエの番なんだけど。
レインさん、少し休んでよ。
ミューリエを呼ぶには、
タイミングを見ないといけないし。
そうさせてもらうわ。
シャインの攻撃が
落ち着いてからでないと
ダメでしょうからね。
なんとかミューリエが
シャインの動きを
止めてさえくれればなぁ。
そうだ、
少し足止めをするくらいなら、
僕の力を使って……。
……アレス、余計なことは
考えちゃダメだからね?
えっ?
僕の考えを見透かしたかのような
レインさんの指摘。
思わず心臓がドキッとした。
今、あなたが倒れちゃっても、
誰もサポートできないわ。
ここはミューリエを信じて
見守ってなさい。
リーダーは勇猛果敢に
前で戦うだけじゃダメ。
時には後ろでドーンと構えて、
見守ることも必要なのよ。
だってリーダーが
やられちゃったら、
その時点で負けなんだもの。
自分の命を第一に考えなさい。
でも僕は誰かを犠牲にしてまで
勝とうという気はありません。
だって命は等しく、
尊いものですから。
アレス……。
ふふ、優しいんだね。
でも今のままじゃ、
守りきれなくなる時がきっと来る。
戦いなんだもの、
犠牲が出るのは仕方ないわ。
だけど……。
だからね、アレス。
そういう時は1つでも多くの
命を守れる選択をしなさい。
そして何があっても
その人の分まで生き続けて、
犠牲になった人を弔ってあげて。
それが生き残る者に
与えられる使命よ。
レインさん……。
さぁ、ミューリエの戦いを
見守りましょう。
うんっ!
僕たちはミューリエとシャインの方へ
視線を向けた。
次回へ続く!