逃げ道を塞がれた上、
大量のモンスターにも
囲まれてしまった僕たち。
どうすればいいのだろうか?
逃げ道を塞がれた上、
大量のモンスターにも
囲まれてしまった僕たち。
どうすればいいのだろうか?
くっ!
シャインは私が引き受けた!
アレスのことはみんなに任せるぞ!
承知っ!
アレス、
あたしたちはどう動けばいい?
リーダーなんだから指揮しなさい。
えっ?
僕は勇者の末裔ではあるけど、
リーダーなんかじゃ……。
最年長なのはタックだし、
戦いの経験ならバラッタさんや
レインさんの方が……。
みんなはアレスがリーダーだと
思ってるわよ。
自覚してもっと自信を持ちなさい。
ほら、早く!
敵は待ってくれないわよ!
レインさんに檄を飛ばされ、
僕は考えを巡らせた。
――やはりここは
それぞれの得意分野を活かして、
モンスターたちに対抗するのがベストだろう。
戦い方としては
オーソドックスかもしれないけど、
僕には戦略とか難しいことは分からないし。
ビセットさんとバラッタさんは
前へ出てモンスターに物理攻撃を。
タックは後ろから弓で、
レインさんは魔法で2人の援護。
シーラは適宜、
みんなの回復や防御の魔法を。
僕は状況を見て
力を使うことにする。
おうよっ!
お任せくださいっ!
まずはビセットさんとバラッタさんが
モンスターたちに向かって突進していった。
ビセットさんは素速い身のこなしで
アイスゴーレムに接近し、
手のひらで攻撃を与える。
するとそのたった一撃で
アイスゴーレムの体には亀裂が入り、
衝撃の加わった部分が粉々に瓦解した。
それを見るや否や、
レインさんは手に意識を集中させて
何かを呟いている。
――いっけぇええええぇっ!
彼女は魔法で炎の球を生み出し、
ダメージを受けているアイスゴーレムに
食らわせた。
するとそのアイスゴーレムは
体が完全に崩壊して跡形もなく消える。
オルァ!
一方、バラッタさんは腰に差していた
ダガーを抜き、
リビングメイルの攻撃を受け止めたあと
蹴りを入れて遠くへ弾き飛ばした。
そこへタックが間を開けず、次々と矢を放つ。
うりゃうりゃ~!!
それらの矢は百発百中。
見事にリビングメイルのボディを貫通し、
相手はそのままバランスを崩して
地面へ崩れ落ちた。
鎧のパーツはバラバラになって沈黙する。
アレス様には
防御魔法をかけておきます。
…………。
シーラは魔法力の光で空中に魔方陣を描き、
何かを呟いた。
すると僕とシーラの体は
温かな光の衣に包まれる。
これで私たちの防御力は
上がりました。
ありがとう、シーラ。
こうして僕たちはなんとか戦闘に対応した。
順調にいけば、
モンスターたちを退けられそうだ。
本当は彼らと戦いたくはないけど、
この状況じゃやむを得ないもんね……。
シャインの魔力によって与えられた
仮初めの命でも、命は命なんだし。
――戦いが終わったら、供養してあげよう。
ミューリエは大丈夫かなぁ。
僕は視線をミューリエの方へ向けた。
ミューリエは剣を構え、
シャインの大鎌による攻撃を受け止めている。
はぁああああぁっ!
せいっ!
――すごい!
実力は拮抗していて、
互いに一歩も譲らない状態。
見ているこっちにまで気迫が伝わってくる。
ただ、わずかだけど
ミューリエが押している感じかも。
シャインは息を切らせて表情にも
余裕がないのに、
ミューリエはまだ余裕が見えるもんなぁ。
さすがだな。
デリンとは強さの格が違う。
断然、貴様の方が上だ。
当たり前でしょ!
あんなザコと
一緒にしないでほしいわ。
私にとってはどちらもザコに
変わりはないがな。
へへ、言ってくれるわね……。
シャインは大きく息を切らしながら、
薄笑いを浮かべた。
それは図星を指されて
思わず出てしまった自嘲か、
四天王としてのプライドが生み出した
強がりか……。
つーか、
あんたは本当に何者なの?
私とここまでやり合えるなんて、
あり得ないんだけど。
だが、こうしてあり得ている。
それ以上でもそれ以下でもない。
私は貴様よりも強い。それだけだ。
それがあり得ないって言うのよ。
もし四天王を脅かす存在が
いるとすれば、
勇者の血をひく者くらい。
っ!
シャインは僕の方へチラリと視線を向けた。
その目は血走り、
強い憎悪の念があふれ出している。
だが、その勇者は現在のところ、
そこまでのレベルには
至っていない。
つまり私たち四天王が負けるなど、
あり得ないはずっ!
自信過剰な貴様に教えてやろうか?
魔族は確かに
強大な力を持っている。
だが、成長をしない。
っ!?
人間は弱く不完全だ。
その代わり、際限なく成長する。
ゆえに魔族を越える
力を持つ者が現れても
何ら不思議なことではないのだ。
よく覚えておくんだな……。
それがあんただって言いたいのっ?
……いや、私は違う。
もっとも、
貴様より強いには違いないがな。
ワケ分かんないっ!
論理が破綻しているじゃない!
成長したわけでもないのに、
私よりも強いなんて――っ!?
不意にシャインは大きく息を呑んだ。
そして目を丸くしながら
ミューリエを眺めている。
心なしか、体も小刻みに震え始めたようだ。
ま……まさか……
貴様は……っ!
どうした?
瞳に怯えの色が現れているぞ?
……フ……フフフ……
あーっはっはっは!
突然、大笑いしだした?
何が起きたんだ?
その高らかな笑い声は辺りに響き、
一瞬だけみんなの視線がシャインに集まった。
ただ、まだ戦闘中なので
すぐに意識を自分の戦いへと戻している。
なるほど、そういうことね。
私が勝てないわけだわ……。
『そういうこと』って何だ?
ミューリエの強さの理由について
何か知っているのか?
――でもっ!
この場所と今の状況は
私に分がある!
やっぱり私、ツイてるわっ♪
なんだと?
はぁああああぁっ!
シャインは顔の前で両手を構え、
その手と手の間に魔法力を集中させ始めた。
そこには赤い光が生まれ、
どんどん大きくなっていく。
――これはデリンも使った
超絶大爆発魔法っ!?
でもアイツの魔法より威力は上かもしれない。
辺りの空気はビリビリと強く震えているし、
光の大きさや膨れあがるスピードも
あの時の比じゃない。
愚かな……。
その程度の魔法、
私なら簡単に
相殺できるというのに。
ミューリエは剣を右手だけで持ち、
空いた左手の拳に魔法力を集中させた。
すると即座に爆発力を秘めた
光の塊が生まれる。
よしっ!
これでいつでもシャインの超絶大爆発魔法を
迎撃できるばすだ。
勘違いしないでほしいわね。
これはあんたたちを攻撃するために
使うわけじゃないんだから。
何っ!?
シャインはニヤリと不気味に微笑んだ。
そしてすかさず、
誰もいない方向へ向かって魔法を解き放つ。
爆発力の塊は加速しながら上昇していき――
しまった!
ミューリエはシャインの意図に
気がついたのか、
慌てて自分の魔法で追撃しようとする。
――だが、すでにその時点で手遅れ。
シャインの魔法は
水中都市を水から守っている
魔法力の結界へ直撃した。
結界には大きな亀裂が入り、
海水が都市の内部へ
勢いよく入り込んできている。
さすがにほかのみんなもこの異変に気付き、
焦りと動揺が隠せないようだった。
その証拠にそれぞれの動きや集中力が落ち、
モンスターを倒す際に少し手間取っている。
きゃははははっ!
この町もろとも
海の藻屑と消えなさい!
貴様、我々と心中するつもりかっ?
そんなわけ、ないでしょう?
私は転移魔法で
いつでも逃げられるの。
だから躊躇うことなく
ゲートを破壊できたわけだし。
町が海に沈む直前まで
遊んであげる。
感謝しなさい。
くっ!
ほぉ~らっ!
直後、シャインは爆発力の込められた
光の塊をいくつも同時に生み出し、
それを一気に放った。
ミューリエは慌ててそれを
魔法で迎撃するものの、
いくつかは結界へ命中。
さらに迎撃に意識を奪われているところへ、
シャインは物理攻撃を加える。
そのため、ミューリエは防戦一方で、
さっきまでとは立場が完全に
逆転してしまっていた。
きゃははははっ!
大変よねぇ、
結界を守りながら
私の攻撃も防がなきゃ
いけないんだから。
チッ!
ほら、こうしている間にも
町は刻一刻と
海に呑まれているわよ?
遠くから、
激しく流れ落ちる水音が聞こえてくる。
亀裂から水が吹き出しているのも視認でき、
その水量は少しずつ増えている感じだ。
浸食によって亀裂が広がっているのだろう。
こ、こうなったら僕の力で
シャインを足止めして……。
ダメですっ!
相手は四天王なんですよっ?
アレス様の命が
どれだけ削られてしまうか
分かったものではありません!
でもこのままじゃ、
僕たち全滅しちゃうよ!
絶体絶命の大ピンチ!
僕たちはこのまま水中都市とともに
世界から消え去ってしまう
運命なのだろうか……?
次回へ続く!