―ポートビダ・酒場―
―ポートビダ・酒場―
ポートビダの酒場はどこでも四六時中を営業時間としている。
無数のギルドの拠点が点在するこの街の酒場の客層は、その店によって半ば固定されている。
これは互いが商売敵ギルドの同士の喧嘩を阻止することが主だった理由だ。
各ギルド同士が、酔いにかまけて無駄な争いを起こさないよう違う酒場へと行く。
酔ったギルド連中の手の早さを知っている住民は出来る限りそういった酒場に行かないようにしている。
だから行商人を含めた善良な市民は、酔ったギルドメンバーが繰り広げるバカ騒ぎを避けて裏路地にある店を目指す。
……そのはずだったんですがぁ
がっはっはっは呑め呑め!
うぇーい!
なぁんでこんなにうるさいんですかねぇ
ギルドと衝突を避けた連合軍の非番連中が来ちまってんのさ
やっぱり連合軍の人間なんですねぇ……
ギルド相手にぃ、ビビっちゃってる結果ですかぁ
それでこの騒ぎ……勘弁してほしいですねぇ
主……ココ……耐エラレナイ!!
まあまあ、ちょっとまってくださいよぉ
それでぇ、何かご存知ありませんかぁ?
えっと、『木馬の商人』だっけか?
黒いローブの男か
ええ〜
少なくとも俺は見てねぇなぁ
そうですか……
他をあたってみたらどうだい?
そうしますかねぇ
お、なんだ?なにか困り事かい嬢ちゃん
いーえ。困ってるといえば、酔っ払いに絡まれてる今ですかねぇ
おいおい、つれないこと言うなよ。
よくよく見れば可愛い顔してんじゃねぇか!俺らと一緒に飲もうぜ
遠慮しますぅ
そんなこと言わずにさ
しつこいですねぇ……。
数を重ねるだけ〜嫌悪が増すことを覚えた方が良いですよぉ
何だと!?
言わせておけばっ!!
事実は激することなく受け止めてくださいよぉ
まぁ、待て。
だがよぉ……
まずは、嬢ちゃんの探し物に協力してやろうじゃないか
聞き耳立ててたんですかぁ〜いい趣味を持ってますねぇ
いいじゃないか。
君は木馬に乗った商人を探しているんだろう?
知っているのですかぁ?
見かけた程度だがな。
黒いローブに、魔法仕掛けの木馬
君が探している人物と合致すると思うが?
主……!!
当たりみたいですねぇ
それでぇ、その人は今どこにぃ?
さぁな〜。
忘れちまったぜ
一緒に酒でも飲めば思い出すかもしれんなぁ
へへ
あー、そういうことですかぁ
清々しいまでの下衆ですねぇ
今夜を俺たちの宿舎で過ごすなら、もっと思い出すぜ?
君は情報が欲しい。
俺達は一晩君といたいだけ。
悪い話ではないだろう?
なぁ、いいだろう?
ひっ
主ニ……触ルナ……
別に情報を貰えるんならぁ、構いませんが――
対価以上のものを求めるとぉ、この精霊ちゃんが黙ってませんよぉ
あとぉ、いくら酒場でも〜節度は守って騒いでくださいねぇ?
……
ちっ、仕方あるまい
ルドル金貨三枚で教えてやらんこともないな
情報を売り物にしますかぁ?
おおよそ正義の連合軍がすることではありませんねぇ
何とでも言え
そのかわり、男についての情報も分からんままだがな。
俺達はそれでも困らないがな
……
なるほどぉ〜。
やはり腐っていますねぇ
主……払ウ必要……ナイ!!
なら、この話は無かったことになるな
それも困りますねぇ……
不本意ですがぁ買いましょうかねぇ
まいどあり
受け取ってください〜
んん?
金貨一枚じゃねぇか。
舐めてんのか?
あなた達ぃ、寒くありませんかぁ?
は?
ひっ!!
うわっ、俺達の飯が……!?
暖房代で、金貨二枚分頂戴しますねぇ
お望みであればぁ、おかわりも差し上げますよぉ?
や、やめろ
……妖精だ
はい〜?
妖精族の女がその男と話しているのを見た。
何を買ったのかまでは知らん。そもそも買ってないかもな。
その妖精さんはどちらにぃ?
その妖精は勇者の仲間でな。
今はベンハのコロッセオにいるだろう
ベンハのコロッセオに、魔物が来たようだからな
驚きましたねぇ〜。非番だからって、魔物の襲撃時に酒を飲んでいるとはぁ
へっ、普段俺達が市民を守ってるんだ。俺達にだって休みは必要だぜ
それに、向かっている連中だけで片付く。
連合軍の実力を舐める――
ひぃっ!!
もうその口に用はありません〜。
閉じたらどうですかぁ?
……
さ、精霊さん。
行きますよぉ
合点!!
―ベンハのコロッセオ―
ようし、野郎ども引き上げだぁ!
もう事態は収集しているみたいですねぇ
にしても、連合軍のあの驕り……。
危険ですねぇ
ソーリヨイの街の時もそうでしたが……。
あれでは魔物を討ち滅ぼすことなど出来ないですねぇ
さて……
妖精さんはどこですかねぇ
見ツカルカ?
妖精族は〜、種によって大きさがまちまちですからねぇ
人の子くらいの、戦闘妖精種なら見つけやすいんですが〜
なんですとぉ!
今の声は……
本気ですか、勇者殿?
うむ。新しい仲間に加えるぞ
俺もソートクに賛成だ
あららぁ、やっぱりみなさんでしたかぁ
よっ
おお、シュー
シュー殿、どうしてここに?
色々ありましてぇ
丁度いいところに来たな、シュー
新たに仲間が増えたぞ
それは良いですねぇ
って、ゼリィさんが乗っている生き物と関係ありますぅ?
察しが良いなシューは
その通り。
新たな仲間だ、紹介しよう――
ユニコーンのパトリシオンだ
馬車引く馬はこいつでいいだろ
絶滅危惧種だというのに……
良いではないか。
ゼリィにも懐いているし、野盗に襲われても、雷撃があれば自衛も出来る
良いのでしょうか……
まあ、問題ないだろう。
ハイヨーってな
ゼリィさん。
(ヒソ)
ん?
(ヒソ)
ユニコーンに乗れてるってことはぁ……
(ヒソ)
お前なら知ってんだろ?
オレに経験無いことくらい(ヒソ)
それに、パトリシオンはお前さんも乗せたいみたいだぜ?(ヒソ)
まぁ、シューにもユニコーン乗馬権利はありますけどぉ……(ヒソ)
ソートクさん、ひょっとしてぇ(ヒソ)
間違いねぇ(ヒソ)
処女判定のために……
どうした二人とも?
ヴァルキリー、そろそろパッフも乗りたいみたいだが?
の、乗れますかね……。
乗馬は得意ですが、ユニコーンとなると……
乗れる!
パッフは間違いなく乗れる!
乗れなかったら、多方面に詐欺ですよねぇ
ときにシュー。
どうしてここに?
『木馬の商人』の情報が手に入りましてぇ。
妖精さんを探しているんですぅ
妖精……?
どうどう……。
意外に馬と変わりませんね
っっしゃああ!
パッフ乗れたぁ!!
フ……
やっぱりソートクさん、処女判定のために……
おめでとうそしてありがとうパッフ
ところで、先程の妖精はどこに行った?
メレン殿ですか?
はて、どちらに……?
スフレのお嬢さんもいねぇな……
いってぇな、あの女剣闘士……
おーこんなところにいたのですのよ
あらホントですわ♪
なんだお前らか。
まったく、ユニコーンを逃しちまったじゃねぇか
自分のせいですのよ
うるせぇ!
ていうかスフレ!
勇者を殺したのか!?
うーん、それなんですけれど――
会ったんですけどやっぱり辞めましたわ♪
なんだと!!
あの方々は見ていて飽きませんの♪
何を勝手なことを……
勝手なことついでに、言わせてもらうですのよ
今日で私たちは、あなたのパーティから抜けるですのよ
なにっ!?
そんなの許さねぇぞ
許す許さぬは――
ワタクシたちが決めますわ♪
か、金はどうするんだ!?
俺みたいに金稼ぎが上手い奴は他にいねぇぞ!?
それなんですけど、当面の間遊んで暮せる資金を手に入れましたわ♪
なんだと!?
金庫の見張りも逃げてましたわ。
ホントにいいところですの『ベンハのコロッセオ』♪
スフレさんのおかげで、大分被害は抑えられたのですよ。
これくらいは大目に見て貰えるのですよ
ぐぬぬ……
へっ、いいのか?
お前たちが俺の命令で何人もの勇者を殺してきたことを知ってんだぜ、俺は
その金で私腹を肥やしてきたこともな!
な、なんだよこの袋……
殺人依頼の報酬ですわ。
お返ししますの♪
てことはまさか……
いくら勇者の命令とはいえ、殺すわけありませんわ♪
なんどか危なかった時あったじゃないですか
あら、そうでしたっけ?
まあなんにしろ、これで後腐れは無くなったのですのよ
でもま、コロッセオのお金をネコババしたことは黙っててもらいましょう
今までこき使わされた分、ここで返すのも悪くないですのよ
お、おい待て……!
大丈夫ですの
『首薙ぎ』なら半殺しで済みますわ♪
ちょっ、ま、待っ――
その日の夜、ポートビダのとある裏路地一人の男が全裸で気絶しているのが見つかった。
真っ赤に腫れているは顔だけでなく、泣き散らかした事実を物語るように両目も腫れていた。
何とも情けない醜態を晒している男だが、人々は別に同情しなかった。
首からぶら下げられた看板に――
「私は、他の勇者の活躍が許せなかった卑しい勇者です。他の勇者を蹴落とすことばかり考えてました」
――と書かれていたからだ。
――……