―ポートビダ・酒場―

ポートビダの酒場はどこでも四六時中を営業時間としている。


無数のギルドの拠点が点在するこの街の酒場の客層は、その店によって半ば固定されている。

これは互いが商売敵ギルドの同士の喧嘩を阻止することが主だった理由だ。

各ギルド同士が、酔いにかまけて無駄な争いを起こさないよう違う酒場へと行く。

酔ったギルド連中の手の早さを知っている住民は出来る限りそういった酒場に行かないようにしている。

だから行商人を含めた善良な市民は、酔ったギルドメンバーが繰り広げるバカ騒ぎを避けて裏路地にある店を目指す。

シュー

……そのはずだったんですがぁ

連合軍・兵士

がっはっはっは呑め呑め!

連合軍・兵士

うぇーい!

シュー

なぁんでこんなにうるさいんですかねぇ

客・行商人

ギルドと衝突を避けた連合軍の非番連中が来ちまってんのさ

シュー

やっぱり連合軍の人間なんですねぇ……

シュー

ギルド相手にぃ、ビビっちゃってる結果ですかぁ

シュー

それでこの騒ぎ……勘弁してほしいですねぇ

シューの守護精霊

主……ココ……耐エラレナイ!!

シュー

まあまあ、ちょっとまってくださいよぉ

シュー

それでぇ、何かご存知ありませんかぁ?

客・行商人

えっと、『木馬の商人』だっけか?
黒いローブの男か

シュー

ええ〜

客・行商人

少なくとも俺は見てねぇなぁ

シュー

そうですか……

客・行商人

他をあたってみたらどうだい?

シュー

そうしますかねぇ

連合軍・兵士

お、なんだ?なにか困り事かい嬢ちゃん

シュー

いーえ。困ってるといえば、酔っ払いに絡まれてる今ですかねぇ

連合軍・兵士

おいおい、つれないこと言うなよ。

連合軍・兵士

よくよく見れば可愛い顔してんじゃねぇか!俺らと一緒に飲もうぜ

シュー

遠慮しますぅ

連合軍・兵士

そんなこと言わずにさ

シュー

しつこいですねぇ……。
数を重ねるだけ〜嫌悪が増すことを覚えた方が良いですよぉ

連合軍・兵士

何だと!?
言わせておけばっ!!

シュー

事実は激することなく受け止めてくださいよぉ

連合軍・兵士

まぁ、待て。

連合軍・兵士

だがよぉ……

連合軍・兵士

まずは、嬢ちゃんの探し物に協力してやろうじゃないか

シュー

聞き耳立ててたんですかぁ〜いい趣味を持ってますねぇ

連合軍・兵士

いいじゃないか。
君は木馬に乗った商人を探しているんだろう?

シュー

知っているのですかぁ?

連合軍・兵士

見かけた程度だがな。
黒いローブに、魔法仕掛けの木馬

連合軍・兵士

君が探している人物と合致すると思うが?

シューの守護精霊

主……!!

シュー

当たりみたいですねぇ

シュー

それでぇ、その人は今どこにぃ?

連合軍・兵士

さぁな〜。
忘れちまったぜ

連合軍・兵士

一緒に酒でも飲めば思い出すかもしれんなぁ

連合軍・兵士

へへ

シュー

あー、そういうことですかぁ

シュー

清々しいまでの下衆ですねぇ

連合軍・兵士

今夜を俺たちの宿舎で過ごすなら、もっと思い出すぜ?

連合軍・兵士

君は情報が欲しい。
俺達は一晩君といたいだけ。
悪い話ではないだろう?

連合軍・兵士

なぁ、いいだろう?

連合軍・兵士

ひっ

シューの守護精霊

主ニ……触ルナ……

シュー

別に情報を貰えるんならぁ、構いませんが――

シュー

対価以上のものを求めるとぉ、この精霊ちゃんが黙ってませんよぉ

シュー

あとぉ、いくら酒場でも〜節度は守って騒いでくださいねぇ?

連合軍・兵士

……

連合軍・兵士

ちっ、仕方あるまい

連合軍・兵士

ルドル金貨三枚で教えてやらんこともないな

シュー

情報を売り物にしますかぁ?

シュー

おおよそ正義の連合軍がすることではありませんねぇ

連合軍・兵士

何とでも言え

連合軍・兵士

そのかわり、男についての情報も分からんままだがな。
俺達はそれでも困らないがな

シュー

……

シュー

なるほどぉ〜。
やはり腐っていますねぇ

シューの守護精霊

主……払ウ必要……ナイ!!

連合軍・兵士

なら、この話は無かったことになるな

シュー

それも困りますねぇ……

シュー

不本意ですがぁ買いましょうかねぇ

連合軍・兵士

まいどあり

シュー

受け取ってください〜

連合軍・兵士

んん?

連合軍・兵士

金貨一枚じゃねぇか。
舐めてんのか?

シュー

あなた達ぃ、寒くありませんかぁ?

連合軍・兵士

は?

連合軍・兵士

ひっ!!

連合軍・兵士

うわっ、俺達の飯が……!?

シュー

暖房代で、金貨二枚分頂戴しますねぇ

シュー

お望みであればぁ、おかわりも差し上げますよぉ?

連合軍・兵士

や、やめろ

連合軍・兵士

……妖精だ

シュー

はい〜?

連合軍・兵士

妖精族の女がその男と話しているのを見た。
何を買ったのかまでは知らん。そもそも買ってないかもな。

シュー

その妖精さんはどちらにぃ?

連合軍・兵士

その妖精は勇者の仲間でな。
今はベンハのコロッセオにいるだろう

連合軍・兵士

ベンハのコロッセオに、魔物が来たようだからな

シュー

驚きましたねぇ〜。非番だからって、魔物の襲撃時に酒を飲んでいるとはぁ

連合軍・兵士

へっ、普段俺達が市民を守ってるんだ。俺達にだって休みは必要だぜ

連合軍・兵士

それに、向かっている連中だけで片付く。
連合軍の実力を舐める――

連合軍・兵士

ひぃっ!!

シュー

もうその口に用はありません〜。
閉じたらどうですかぁ?

連合軍・兵士

……

シュー

さ、精霊さん。
行きますよぉ

シューの守護精霊

合点!!
















―ベンハのコロッセオ―

ギルド戦士

ようし、野郎ども引き上げだぁ!

シュー

もう事態は収集しているみたいですねぇ

シュー

にしても、連合軍のあの驕り……。
危険ですねぇ

シュー

ソーリヨイの街の時もそうでしたが……。
あれでは魔物を討ち滅ぼすことなど出来ないですねぇ

シュー

さて……

シュー

妖精さんはどこですかねぇ

シューの守護精霊

見ツカルカ?

シュー

妖精族は〜、種によって大きさがまちまちですからねぇ

シュー

人の子くらいの、戦闘妖精種なら見つけやすいんですが〜

パッフ

なんですとぉ!

シュー

今の声は……

パッフ

本気ですか、勇者殿?

ソートク

うむ。新しい仲間に加えるぞ

ゼリィ

俺もソートクに賛成だ

シュー

あららぁ、やっぱりみなさんでしたかぁ

ゼリィ

よっ

ソートク

おお、シュー

パッフ

シュー殿、どうしてここに?

シュー

色々ありましてぇ

ソートク

丁度いいところに来たな、シュー

ソートク

新たに仲間が増えたぞ

シュー

それは良いですねぇ

シュー

って、ゼリィさんが乗っている生き物と関係ありますぅ?

ゼリィ

察しが良いなシューは

ソートク

その通り。
新たな仲間だ、紹介しよう――

ソートク

ユニコーンのパトリシオンだ

ゼリィ

馬車引く馬はこいつでいいだろ

パッフ

絶滅危惧種だというのに……

ソートク

良いではないか。
ゼリィにも懐いているし、野盗に襲われても、雷撃があれば自衛も出来る

パッフ

良いのでしょうか……

ゼリィ

まあ、問題ないだろう。
ハイヨーってな

シュー

ゼリィさん。
(ヒソ)

ゼリィ

ん?
(ヒソ)

シュー

ユニコーンに乗れてるってことはぁ……
(ヒソ)

ゼリィ

お前なら知ってんだろ?
オレに経験無いことくらい(ヒソ)

ゼリィ

それに、パトリシオンはお前さんも乗せたいみたいだぜ?(ヒソ)

シュー

まぁ、シューにもユニコーン乗馬権利はありますけどぉ……(ヒソ)

シュー

ソートクさん、ひょっとしてぇ(ヒソ)

ゼリィ

間違いねぇ(ヒソ)

シュー

処女判定のために……

ソートク

どうした二人とも?

ソートク

ヴァルキリー、そろそろパッフも乗りたいみたいだが?

パッフ

の、乗れますかね……。
乗馬は得意ですが、ユニコーンとなると……

ゼリィ

乗れる!
パッフは間違いなく乗れる!

シュー

乗れなかったら、多方面に詐欺ですよねぇ

ソートク

ときにシュー。
どうしてここに?

シュー

『木馬の商人』の情報が手に入りましてぇ。
妖精さんを探しているんですぅ

ソートク

妖精……?

パッフ

どうどう……。
意外に馬と変わりませんね

ゼリィ

っっしゃああ!
パッフ乗れたぁ!!

ソートク

フ……

シュー

やっぱりソートクさん、処女判定のために……

ソートク

おめでとうそしてありがとうパッフ

ソートク

ところで、先程の妖精はどこに行った?

パッフ

メレン殿ですか?
はて、どちらに……?

ゼリィ

スフレのお嬢さんもいねぇな……
















いってぇな、あの女剣闘士……

メレン

おーこんなところにいたのですのよ

スフレ

あらホントですわ♪

なんだお前らか。
まったく、ユニコーンを逃しちまったじゃねぇか

メレン

自分のせいですのよ

うるせぇ!

ていうかスフレ!
勇者を殺したのか!?

スフレ

うーん、それなんですけれど――

スフレ

会ったんですけどやっぱり辞めましたわ♪

なんだと!!

スフレ

あの方々は見ていて飽きませんの♪

何を勝手なことを……

メレン

勝手なことついでに、言わせてもらうですのよ

メレン

今日で私たちは、あなたのパーティから抜けるですのよ

なにっ!?

そんなの許さねぇぞ

メレン

許す許さぬは――

スフレ

ワタクシたちが決めますわ♪

か、金はどうするんだ!?
俺みたいに金稼ぎが上手い奴は他にいねぇぞ!?

スフレ

それなんですけど、当面の間遊んで暮せる資金を手に入れましたわ♪

なんだと!?

スフレ

金庫の見張りも逃げてましたわ。
ホントにいいところですの『ベンハのコロッセオ』♪

メレン

スフレさんのおかげで、大分被害は抑えられたのですよ。
これくらいは大目に見て貰えるのですよ

ぐぬぬ……

へっ、いいのか?

お前たちが俺の命令で何人もの勇者を殺してきたことを知ってんだぜ、俺は

その金で私腹を肥やしてきたこともな!

な、なんだよこの袋……

スフレ

殺人依頼の報酬ですわ。
お返ししますの♪

てことはまさか……

スフレ

いくら勇者の命令とはいえ、殺すわけありませんわ♪

メレン

なんどか危なかった時あったじゃないですか

スフレ

あら、そうでしたっけ?

メレン

まあなんにしろ、これで後腐れは無くなったのですのよ

メレン

でもま、コロッセオのお金をネコババしたことは黙っててもらいましょう

メレン

今までこき使わされた分、ここで返すのも悪くないですのよ

お、おい待て……!

スフレ

大丈夫ですの

スフレ

『首薙ぎ』なら半殺しで済みますわ♪

ちょっ、ま、待っ――

その日の夜、ポートビダのとある裏路地一人の男が全裸で気絶しているのが見つかった。

真っ赤に腫れているは顔だけでなく、泣き散らかした事実を物語るように両目も腫れていた。

何とも情けない醜態を晒している男だが、人々は別に同情しなかった。

首からぶら下げられた看板に――

「私は、他の勇者の活躍が許せなかった卑しい勇者です。他の勇者を蹴落とすことばかり考えてました」

――と書かれていたからだ。

――……

37、 シュー ユニコーンを仲間に迎える

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