生まれる前の子を
捨ててしまうのは罪かしら

我らの偉大な女王様は
一冊のメモ帳をパラパラとめくって
そう呟いていました。

宗教によっては堕胎は重罪だったはずだが

そう答えたのは、耳無しの黒ウサギ。
女王の子供たちの中でも
一番古く、一番偉いウサギです。

ああ、違うわ。
捨てるのは身を得る前の子供。
あるいは魂を入れる前の器かしら

女王が目を留めたメモ帳のページには、
数行の走り書きが記されていました。

始まる前の物語の卵を、
忘却に喰わせてしまうのよ

女王様は、そのページを破ると、
くしゃっと丸めて近くのくずかごに放りました。

それが罪ならば、世の人間は自ら生んだ卵に押し潰されてしまうことになるな

その犠牲は生きるために必要なこと、と。
そう言いたいのね、あなたは

くずかごの中に転がる、丸めた白い紙くずは、
鳥の巣に隠された卵のように見えました。

親とは残酷ね。そんな何千何万の卵を犠牲にして、のうのうと生き長らえ、今も卵を産み続けているのだから

だが、親の腹に後生大事に抱え込まれ、
一つの命になれないまま腐っていく卵は、
もっと不幸と言えやしないか?

それじゃあ、卵たちは親の安寧のために
忘却に喰われる覚悟があるとでもいうの?

少なくとも俺は、
あんたを蝕む腐毒になる前に
キレイサッパリ消えちまいたいね

……親の気も知らないで、よく言えるわ

それから女王様は、顔をしかめて黙ってしまいました。

しばらくしてから、
彼女は手元に残るメモ帳に何かを書こうとして……

結局、何も書いたりはしませんでした。

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