気が付くと、私は書庫のような場所に立っていた。
見慣れぬ場所、不可思議な現象に遭遇した私の頭は一瞬混乱する。
確か私は公園でこのウサギ少年の手を取って、それから――
くれあ、目を開けていいですよ
ここは……?
気が付くと、私は書庫のような場所に立っていた。
見慣れぬ場所、不可思議な現象に遭遇した私の頭は一瞬混乱する。
確か私は公園でこのウサギ少年の手を取って、それから――
それから……?
どこかへ移動したどころか目を閉じたような記憶すらない。
まさに瞬きするような刹那の間に、ウサギは私を見知らぬ場所へと案内していたのだった。
ここが、分岐セカイの保管庫なのです!
この本の一冊一冊が、元となるセカイから
派生した可能性のセカイなのですよ
思ってたよりも、アナログなんだ
パラレルワールドという単語から、漠然とSFチックなメカニカルなシステムを想像していた。
でもよく考えてみれば、ウサギ耳の少年がお迎えにくるようなメルヘンな状況なのだ、こっちのほうがずっとしっくり来る。
それで、分岐セカイを取り除くって……
ここの本を処分するの?
んー、ちょっと違います。正しくは
この本たちに『結末を与えていく』んです
――彼の説明に、ふと小さい頃に書いていた小説が思い起こされた。
結局、その当時は一つの物語を完成させられる技量なんかなくて、そのまま放置したか、あるいは自ら捨ててしまったか……今ではその所在も、内容もうまく思い出せないような拙いそのお話。
分岐セカイも……
そんな『お話』みたいなものなのかな
そんな私の疑問に答えるように、ウサギは説明を続けた。
終わりのない分岐セカイは
癌細胞のようなものなのです。
醜く歪んで肥大化し、どこまで増えて
この書庫を圧迫していく
……
ウサギのその深刻そうな顔と、生々しいその喩えに、なんだか胸の締めつけられる思いがした。
けど、『結末』さえ与えてあげれば、
そのセカイはそれ以上変質したりせず、
一つの完全なセカイとして残り続けることを許されるのですよ!
ぴょんと飛び跳ねて嬉しそうにそう告げた後、
まあ……どれくらいの時間、どんなカタチで残っていられるかはカミサマ次第ではあるんですけどね。
と、ウサギはちょっとだけ寂しそうに付け加えた。
ま、『百聞は一見にしかず』ですよね!
さっそく分岐セカイを救済してみましょう!
分岐セカイを『壊したり』して取り除くのではなく、『救済』するお仕事。ウサギにその表現に、ちょっとだけ気分が軽くなった気がした。
そうですね、最初はこれにしましょう。
とても小さな分岐セカイです。
そう言って、ウサギは近くの棚から一冊の本を取り出して、私に開いて見せてくれたのだった――