私は、速水に自分の推察を説明した。
即ち、狼が今夜、15番――文月を狙うかもしれないと言う可能性を。
それを聞くと、彼女は眉を顰めた。
私は、速水に自分の推察を説明した。
即ち、狼が今夜、15番――文月を狙うかもしれないと言う可能性を。
それを聞くと、彼女は眉を顰めた。
どういうこと?
なぜ狙うのが相手するだけ無駄な村長なの?
時間の無駄じゃない
そう、勝負に関係の無い村長は放っておいても問題はない。
害はないだろうし、妨げにもならないだろうから。
そう考えるのが私達――いや、村人の考えるコトだろう。
だが。
そう考えるのはあくまで視点が村人だからよ
私は目を丸くする速水に説明した。
確かに、勝負には関係ないだろうね?
そりゃ村長は、言い換えれば自分護りに特化している役職だもの
攻撃されなけりゃ意味はない
攻撃に転じるのはあくまで、村人と同じ
攻撃の立場が同じ村人には大差はない
だけど……
見解が狼も同じだとは、限らないよ
……えっ?
狼と村人の立場は、真逆だ。
村人にとっては、取るに足りない存在だとしても、狼にとってはいつ村人と結託して昼間の投票にいれるか分かったもんじゃない。
狼は昼間は追い出される側、村人と村長は追い出す側なのだから。
狼にとっては、村人も村長も大差ないの
投票入れる昼間には関係ないでしょ?
生きていれば、それだけで脅威に成り得る
…………
大体、察したわ
理解は早くて助かるよ
そうね……
今一番あかれている役職は、村長だけ……
なら狙うなら、確実な方がいい……
頭の良い彼女は、それだけで理解したようだった。
結局、狼には第三陣営とて関係ないのだ。
みんな、村人陣営は狙うだけ。殺せばいい。
そしてなぜ狙うかの理由も、彼女は察した。
……昨日、速水に狙われた文月は20を身代わりにして難を逃れた。
だがその結果が、アレだ。
昼間、他の参加者達に、冷たい目で見られて、木島平に至っては堂々と糾弾した。
そんなことをされれば、二日連続で身代わりを差し出そう、などとは普通考えまい。
だから、今夜、きっと村長はノーガード。
狼の攻撃は確実に貫通する。
そして、護衛の警備兵と狩人はきっと護らない。
テロリストと殺人犯も私達だと知らない狼たちも分かってるはずだ。
一方的に狙えるメリットのある私達が危険を冒してまで狙う訳がないと。
そこを付け狙って、狼は村長を狙うのだ。
特化の護りも、そのメンタルがやられてしまえば、まともに機能しない。
なにより、無敵と称される村長を殺せれば、初日の無駄な死人の数にインパクトのせいで薄れた狼の尊厳も取り戻せる。
良い事づくめということになるのだ。
初夜に私の襲撃に失敗してる
つまりスタートで一歩遅れをとってる
それを取り戻すためには確実に狙える相手に的を絞る
理には適っているでしょ?
……成程
そーいえば、昨日言ってたよね?
狼が誰か一人だけ知ってるって
結局あれ誰だったの?
……ルール違反で死んだあの人よ
貴重なアドバンテージ、無くしちゃったの
あれま……
昨日話を持ちかけてきたとき、一人狼を盗み見ていると言っていたが、それは19のコトだったのか……。
あと村人を見ていたらしい彼女は、今夜はそれを狙うと言う。
まだ勝利のイメージは出来ない……
でも、もういい
勝てれば何でもいいわ
村人全滅でも狼全滅でも……
私は、村人を狙うだけだから
速水、気を付けなよ
テロリストは黒に攻撃すると、自滅するから確実に殺せる相手にしないと危険だよ
殺人犯と違い、リスクの伴うテロリストの襲撃。
初夜はうまくいき、今夜も多分うまくいくだろうが、グレー狙いで下手に動くと自滅する。
ここは、堅実に行くべきだ。
ならば、昼間の情報戦もテロリストには必須。
まとめ役の彼女には有利となる。
私は元々ルールの埒外。
そんなものは適応されず、狼の話を傍受して、誰が狙われるか聞いていればいい。
そもそも黒は全員透けている。
狼は10の小田、16の西郷、そしてもう一人。
内通者は11のあいつで、13のテロリストの速水と18番の私。
これが、今存命している、黒陣営の全て。
誰を殺すか殺さないかの匙加減は私自身が決める。
平気よ
盗み見た村人のストックはあと二人分残ってるから
あんた……ほんっとちゃっかりしてるね
こんな風に役立つとは思ってなかったけどね
まあ、いいや
今夜は私も、狙えそうなやつを絞ってある
そいつを、殺すわ
そう……
……迷わないでね、速水
決めたら、突っ走る
それが『覚悟』だよ
わかってるわ
こう見えて私、決めたら突き進むタイプなの
頼もしい限りで何より
おっと……そろそろお昼の頃合かな
一緒に食べてく?
見れば、時刻は正午を過ぎていた。
午前中、あんなことがあったので時間を忘れていた。
私は定時の薬を飲む時間だ。
そのついでに彼女を昼に誘う。
あれ……?
もうそんな時間?
彼女は室内に飾られた壁掛け時計を見上げる。
もうこんな時間だったのね……
朝の出来事のせいでおかしくなってるか時間感覚が狂いそう
私は嫌でも狂えないけどねー
薬飲まないといけないし
じゃらじゃらと錠剤を取り出して、口に放り込んで水で流し込む。
これで昼の分は問題ない。
それを見ていた速水は首を傾げる。
随分と一度に沢山飲むのね
心疾患でしょ? そんなに必要なの?
色々あるんだよ私にも
心臓以外にも飲んでるのがあるの
そう……
私は医学を学んだことがないからわからないけど……
末期患者のあなたが言うと重たいわね……
速水、同情はしないでね?
私は、そういう目が一番嫌いなの
事実だ。
私はああいう目が嫌いだ。
あの目は、私たちのような人間を惨めにさせる。
同情されるくらいなら、いっそ人生を交換して欲しいと何度思ったか。
それすら疲れて摩耗したココロは、今では死を望むようになった。
現実とは、何時だって冷たい。
無情で、無慈悲で、無駄。
私にとって現実なんて、そんなもの。
友達もいない、家族とも仲が悪い、そんな世界に何の意味がある?
下に見られることが長かったせいで私という人格は歪んでいるのだろうし、今じゃ死にたがりの自殺願望者だ。
どうせ私は弱い。知っている。
全て楽になりたくて、死にたいだけ。
この世界は、弱者には、余りにも生きづらい。
……ごめんなさい
いいさ、やめてくれれば
で、お昼一緒に食べる?
こんな状況で……よくできるわね?
あなた、メンタルが桁違いに頑丈よね……
一言多いよ、全く
お互い隠し事少ないし、いいじゃん
食ってけ食ってけ
呆れているようにいう彼女に否定のニュアンスを感じないのでちょっとうざったく誘ってみた。
……本当ならもっと上手に誘っていきたかったのだか。
何となくだ。
一人でいつも何かをしていた私が彼女を誘ったのは。
気紛れに過ぎないが、話し相手が欲しかった気がした。
ま、まあそこまで住吉が言うなら食べていかないこともないわよ?
何で微妙にツンデレ反応なのさ
う、うるさい
私は一日目の昼を、速水と一緒に適当にテレビを垂れ流しにして見ながら、しょうもない話をして過ごした。
……ちょっと、楽しかった気がする。