みんなが固唾を呑んで僕に注目していた。
それは期待なのか、不安なのか……。
いずれにしても
僕は想いを正直に伝えようと思う。
みんなが固唾を呑んで僕に注目していた。
それは期待なのか、不安なのか……。
いずれにしても
僕は想いを正直に伝えようと思う。
協力者として選ぶのは、
ここにいる全員です。
えっ!?
ビセットさん、
水晶に触れるのは2人以上でも
構いませんよね?
え、えぇ、まぁ……。
でも人数が増えれば、
失敗のリスクは
高まってしまいますよ?
だって通常より多くの想いを
1つにしなければ
ならないのですから。
僕はそうは思いません。
どういうことです?
僕にとっては
誰が欠けてもダメなんです。
もし全員で試練に臨めないなら
勇者の証も冠もいりません。
それが原因で
真の勇者になれないなら
それでもいいです。
足りない分の力は、
みんなが貸してくれる
はずですから。
勇者の血をひいているのは
僕だけですけど、
僕たち全員揃ってこその
勇者なんです。
アレス様……。
アレスらしい答えだな~☆
さすがです、アレス様!
もはや私には
何も言うことはありません。
どうぞ全員で
試練をお受けください。
もしそれで失敗したとしても、
審判者として
あなたを勇者と認めます。
いいんですか?
私が試練で
見させていただこうとしていたのは
『仲間を信じる心』です。
それがアレス様にあることは、
充分に感じ取れましたからね。
……ますますアレス様を
好きになってしまいました。
今やタック殿よりも
好感度は上ですよ。
はぁ……はぁ……。
なっ!?
はっはっは!
良かったじゃないか、アレス~♪
び、微妙に嬉しくないような……。
そこでアレス様に相談なのですが、
どうか私も旅に
加えてくださいませ。
いえ、ダメだと言われても
勝手についていっちゃいますけど。
私はこう見えて
格闘術が得意なのです。
仲間に加えて損はないと思います。
えぇっ!?
ど、どうしようかな……。
うげっ!
さすがに一緒に
旅をするのはなぁ……。
またまたぁ!
タック殿ったら心にもないことを。
本当は嬉しいんでしょう?
嬉しくないやいっ!
ミューリエたちはどう思う?
正直、私は乗り気ではない。
タックと同じで、
こいつも本能的に好かん。
やっぱりビセットさんが
審判者だからなのかな……?
判断はアレス様にお任せします。
却下! コイツ、ムカツクから!
私だって女性の皆様なんか、
眼中にありません!
なぁ、アレスよ。
今は接近戦の物理攻撃要員が
ミューリエ姉ちゃんだけだ。
コイツを加えれば
パーティのバランスが
良くなるんじゃねぇか?
俺が一緒に旅をしてやれるのは、
シルフィの港町までだしよ。
あ、確かに!
ふむ、一理あるな……。
さっすが、バラッタ殿!
よく分かっていらっしゃる!
ビセットさんは
すかさずバラッタさんに歩み寄り、
腕にピタッとくっついた。
また呼吸が荒くなってるみたい
なんですけど……。
うおあっ!
気色悪いから離れろっ!
バラッタさんは力で強引にビセットさんを
引き離そうとした。
でも不思議なことに、
ビセットさんの体はほとんど動かない。
ガッシリとしたバラッタさんに対して、
体の線が細いビセットさん。
体格差を考えれば、
簡単に引きはがせそうなのに……。
なんだコイツ?
体に吸盤でも付いてやがるのか!?
全然離れねぇっ!
体裁きを極めれば、
相手の力を受け流したり
発揮させにくくしたりするのは
簡単なことですよ。
ほぅ?
なかなかやるな……。
それに相手の急所さえ衝けば、
最小限の力で無力化できます。
魔法や剣術など
無駄が多すぎるんですよ。
ちょっとアンタ!
そのセリフは
聞き捨てならないわねっ!
魔法こそ究極の技術なのよ!
私は魔法を否定したわけでは
ありません。
無駄が多いと言ったまでです。
これだから
理解力のない人は困ります。
っっっっっ!
――アレスッ!!
はいぃっ!
こんなやつ、
ぜぇっっっったいにっ、
仲間に加えちゃダメだかんねっ!
え、えーとぉ……。
お願いですよぉ、アレス様ぁ!
仲間に加えてくださいよぉ!
ビセットさんはバラッタさんから離れ、
僕の足に抱きついた。
そして涙を流しながら懇願する。
っていうか、
うっとりとした顔で頬を擦り寄せるのは
やめてほしいんだけど……。
じゃ、じゃあ、
とりあえず
仮加入ということで……。
ちょっと!
ホントにアレスは甘いんだからっ!
わーいっ♪
っっっ!
戦力にならないと思ったら、
即刻クビだかんねっ!
……ぐへへ、
これでタック殿とアレス様の
そばにいられますぅ。
オイラ、
不安しか感じないんだけど……。
その後、僕たちは全員で
水晶が安置されている場所へ移動した。
そこは町の中心にある教会のような建物の中。
大広間の奥の台座に祀られている。
大きさは両手一杯に抱えるほどで、
その輝きから
どことなく神秘的な雰囲気が漂ってくる。
これに勇者の冠が
封じられているんですね?
はい。よくご覧いただくと、
微かに透けて見えるはずです。
あ、確かにそうみたいですね。
では、全員で水晶に
手をお載せください。
アレス様は世界を守りたいと、
ほかの皆様は
アレス様の力になりたいと
それぞれ強く願うのです。
よろしいですね?
はいっ!
僕たちは声を揃えて返事をした。
まずは僕が水晶に手を載せ、
続いてミューリエ、シーラ、タック、
レインさん、
最後にバラッタさんが手を触れさせる。
ビセットさんも
早く手を載せてくださいよ。
私もですかっ?
その気持ちは嬉しいのですが、
私はこの試練の審判者ですから
それはできません。
その代わり次の試練で
何か協力できることがあれば、
喜んでお役に立たせて
いただきます。
分かりました!
では、その時は
よろしくお願いします。
さぁ、皆様。
目を閉じて心を1つに……。
…………。
僕は仲間を、みんなを、
そして世界を守りたい。
僕は強く念じた。
すると次第に水晶に触れている部分が
温かく感じられるようになってくる。
さらに体の中を爽やかな風が吹き抜けていく。
あぁ……心が静かだ……。
癒されていくような感じで、
すごく気持ちいい……。
……あれ?
不意にその心地よさが消えた。
目を開けてみると、
そこにあったはずの水晶は
跡形もなくなっている。
僕の手にみんなの手が重ねられているだけ。
みんなも目を開け、
僕と同じようにキョトンとしている。
っ!?
アレス様、その冠は?
えっ?
シーラに指摘され、
僕は自分の頭に手を伸ばした。
そして被っていた冠を手に取ってみる。
それは今まで装備していたものと同じ冠――。
ただ、全体が淡く銀色に輝いていて、
はめ込まれている石は
透き通った蒼い魔法玉に変わっていた。
勇者の冠は
伝説の勇者様の力が
具現化したもの。
その力がアレス様の冠に
宿ったのです。
おめでとうございます。
アレス様は正真正銘、
私の試練を乗り越えました。
やったぁっ!
よーしっ!
それじゃ、
第4の試練の洞窟へ出発だ!
なんだっ?
その時、辺りに大きな振動と爆発音が響いた。
それは断続的に続き、
地震や火山の噴火といった自然現象とは
明らかに様子の異なるものだった。
建物は激しく揺れ、埃が舞い上がる。
外へ出るのだっ!
天井が崩れてきたら危険だ!
僕らは急いで建物を出た。
すると遠くの方で
砂煙と炎が立ち上っているのに気付く。
――いったい、何が起きたというんだ?
次回へ続く!