早く居間に行かなければいけないという気持ちを抑え

私たちは少しの間、台所で様子を伺っていた。

もしかしたら
女が1階に下りて来ている可能性もある。

ここからは慎重に進む事にした。

何か武器になるようなものはないかな……

アノ女に物理的な攻撃が効くのかはわからない……

でも、何かしら対抗できそうなものがある方が心強い気がする。

台所にありそうなものなら……
包丁……フライパン……鍋……
そんなところね……

私とマリエは台所を物色しだす。

まっ、待って!!

ここにも約束があるんだ!!

ヒロは慌てて私たちを制止した。

ここに、オルゴールがあるらしいんだ……

それには絶対触ってはいけないって……

オルゴール……?

殺された子供のもので

触れると呪われるって……

懐中電灯で辺りを照らすが、それらしきものは見当たらない。

では、箱のようなものがあったら
気をつけましょう

う……うんっ

マリエに同意し、使えそうな物を探す事を再開する。

包丁は錆びていて使えそうにはない……

ガス台に置かれた鍋の蓋を開けてみると……

うっ……
けほけほっ……

異臭を放つ腐った何かが入っていた……

食卓には割れた皿が散乱し

中には……

やだっ……これって……血!?

血のようなシミの付いた皿まである。

あまり使えそうなものはないわね……

うん……

私はガス台から離れ、マリエのいる戸棚の方へ行こうとした。


その時──







コツン……

なんだろ?

何か蹴っちゃった……

足元に何かが落ちている。

暗くてよく見えないが、箱のような……

開いた箱から、メロディーが流れ出す。

うそ……
これって……まさか……

お……オルゴール……?

そ、そんな……
どうしよう……私……

しっ!
何か声が聞こえる……

耳をすましてみると……

確かに、オルゴールの音に合わせて声が聞こえる。

赤い……目玉の……さそり……

ひろげた鷲の……

青い目玉の子犬……

これは……歌?

あっ……あっ……

アレっ……

台所の入口に、小さな人影が見える。

薄く透き通っている事から、それが人間でないとすぐわかった。


しゃがみこみ、後ろを向いているが恐らく女の子だ。

歌を歌っているのは彼女のようだ……



まだ、私たちには気づいていない。

ゆ……幽霊……?

今なら逃げられるんじゃ……

うん……

待って!

しゃがみこんでいた人影がゆっくりと立ち上がる。






そして、そのままこちらに振り向いた。

………………

何もしてこないみたいだけど……

少女の霊は黙っている。

だが、アノ女とは違い嫌な感じはしてこない。

もしかして……

何か伝えたい事があるんじゃないかしら?

…………

に、逃げた方がいいんじゃないかな!?

私は……

自分のカンとマリエを信じて、ゆっくりと少女の霊に近づいた。

あなた……
何か言いたい事があるの?

…………

少女は黙っていた。

が、手に持っていた紙を私に差し出してくる。

この……絵は?

絵を描いてたのはあなたなの?

…………
りょうくん……

この赤いものは……櫛かしら?

たすけ……て……

少女の姿は空気の中に溶けていく。

ちょっと……待って!!

残されたのは画用紙に描かれた絵だけだった……。

この絵に描かれている櫛……

あの櫛だと思うの……

マリエが絵に描かれた赤いものを指さす。

もしかしたら……
あの櫛は……

マリエはしばらく何かを考え込み

そして……

アノ女を封じていたのかも……

アイツを解放してしまったのは
私達なのかも……

えっ!?
だって、櫛を外せって言ったのは弟だよ?

助けてもらいたいのに
わざわざそんな事するかな?

そうだよ……

マリエは少し間を開けて続けた……

ほんとうに……

そのメッセージは……

ユカの弟からなのかしら?

えっ…………

私はポケットの中のスマホを握りしめた。

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