ミシっ……

一段、女が階段を降りる。

そして……

大きく開かれた女の口から……

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!

叫びとも咆哮(ほうこう)ともつかない奇声が発せられた。

サヤカの悲鳴をきっかけに、みんな同時に階段を駆け下りる。

なっ、なんなのよアレ!?

ともかく逃げるんだ!

急いでいるのに足が上手く動かない。

そんなに長くない階段のはずなのに、終わりが見えないとさえ思えて来る。

髪がっ!!

壁や床が暗闇の中ぞわぞわと蠢(うごめ)いている。


女の髪だ!


まるで生き物の様に這いまわり、私たちを捕らえようと伸びて来る。


いっ、いやっ!!

悲痛な声に振り返ると、女の髪に足を取られたさやかの姿があった。

さやかっ!!

髪は一瞬で、ぐるぐるとさやかを締め付けていき

さやかの体が真っ黒な髪に飲み込まれていく。

いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!!

叫んださやかの口の中へ、ずるずると女の黒い髪が入って行くのが見えた。

助けて……たずげ……おがぁざんっ……

助けなきゃっ!!

だめっ!
もう間に合わないわっ!!

ぼくらじゃ助けられない!
に、逃げよう!!

でも、さやかがっ!!

あっという間に髪がさやかの体を包み込み、ギュウギュウと締め上げる。


気が付けば床は大量の血に染まっている……

いっ…いや……
さや……か……

耳を塞ぎたくなる何かの折れる音が響き


黒い髪の中のさやかは、それからぴくりとも動かなくなった……

いや、やだよ……
どうして……

ユカ!
今は逃げるのよ!

私達はもう、その場から逃げ出すことしか出来なかった。


1階に下りると、ヒロが玄関へと走り出す。

ちくしょう!
開かない!!閉じ込められた……

ドアノブをガチャガチャと動かすが開く様子はない。

お、女は……?

階段を見上げると、女の姿は見えない。

1階にはこないのかも……

私達が逃げられない事を知っているから
わざわざ追っては来ないのかもね……

それって……

いつでも殺せるから
今は追わないだけなのかも……

そ、そんな……

と、とりあえず他の出口を探そう

玄関のすぐそばにはガラスの扉があった。

ヒロはそちらへと進んで行く。

…………

マリエ、行こう

何故か、マリエは例の玄関にある見てはいけない絵を凝視している。

マリエ、その絵は……

…………

ちらっと視線を私も絵に向けた。


女の自画像みたいだ……
ならべく絵の女と視線を合わせないようにする。

ごめんなさい……
ちょっと気になって……

行きましょう……

なんだか
マリエの様子が……

どうしようもない不安を抱きながら

私たちはガラス扉を開けて進んだ。

どうやら、ココは台所のようだ。

カナリ中は荒らされている。

ダメだ……
窓に板がはられていて
出れそうにない……

どうしよう……

私のせいだ…………
私のせいでさやかが……

みんなも私のせいで……

こんな恐ろしい事に巻き込んでしまった。

…………

ユカ?
あなたもしかして今
自分を責めてるでしょ?

えっ……?

うっ……

私は自分の意思でココへ来たのよ

あなたには
私みたいな思いをさせたくないから……

マリエの弟は、数年前に事故で亡くなった。

家族旅行の帰りだったそうだ。

車の後部座席にいた弟さんとマリエは、事故の時些細なケンカをしていたらしい。

けれど、事故の瞬間

弟さんはマリエをかばって亡くなり、マリエはそれからずっとふさぎがちで学校にもほとんど来なくなった。

それから明るかったマリエはすっかり変わってしまったのだ。

だから、あなたは弟さんを絶対に助けて

続けてヒロが口を開く。

さやかは、僕が守らなきゃいけなかったんだ

だから、ユカさんは自分を責めないで欲しい……

ヒロ……

私は胸が苦しかった。

さやかを、みんなをここに連れて来てしまった事を
ただただ後悔する。


でも、今は弟を助けてここを逃げ出すしかない。

見て、これ……

マリエは壁に貼られたカレンダーを指さす。


そこには……

……この家にいるのは黒い女。


その女の髪の呪いでこの家の家族は殺された……

そう、なぐり書きされていた……

その下には画鋲で画用紙が留められている。

私は背筋が寒くなる感覚を覚えた。


やはり、さっきのアレが黒い女なのだろうか?



けれど、この先に進まなければならない、そう再び強く思った。



なぜなら、弟はココに生きているという確信が心の中にあったから。


私に助けを求める弟の感情が、自分に流れ込んで来ている……そんな気がした。

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