俺が所属している部活は、パソコン部。


 具体的な活動内容は? って聞かれると、
特に説明できることは無いんだよな。
ただ、毎日パソコンの話をしたり、ゲームをやったりしているだけの集まりなわけだ。


 学校祭では毎年、
自作ゲームの発表なんてのもしているが……。


 何しろ製作の進行が、物凄く遅い。
だから本気を出せば3ヶ月くらいで作れそうな作品を、
1年がかりで制作している。


 敢えて言うなら、学校祭に向けたゲーム製作が
主な活動内容になるんだろうな。


 まあそんなグタグダな感じでも、
顧問の先生は特にうるさい事は言わないし、
必要な程度には部費もちゃんと出る。


 部員は少ないが、
とにかくのんびりしていて楽しい部活だ。


 さて……今日も昨日やりかけだった
ゲームの続きを始めるか。

天崎 さゆら(てんざき)

あー!
また学校で変なゲームやろうとしてる!
女の子がいっぱい出てくるやつ!

 後ろから、『天崎(てんざき)さゆら』が
画面を覗き込んで、わーわーとわめきだした。


 こいつは、1年生の女子で
俺の後輩にあたる奴なんだが……。


 いつもちょっとした事で大騒ぎする。
元気が良いムードメーカーと言えなくもないが、
正直うるさい。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

変なゲームとは、人聞きの悪い……。
先代の部長が貴重な部費で買った、
列記とした部の備品だぞ?

天崎 さゆら(てんざき)

だけどさあー、
見つけたからってそれをやるかなぁ?
しかも学校で!

瀬海 平和(せかい ひらかず)

あー、うるさいなあ。
天崎が家でやってるような、
なよなよした男キャラと恋愛するゲームと
大して変わらないだろ

天崎 さゆら(てんざき)

あっ、あっ、あっ……あたし!
そんなゲームやってないよ!


 おっ、顔真っ赤にした。


こいつって、からかうと面白いんだよな。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

それはすまなかった。
じゃあ、あっちか……?
男同士が裸で抱き合って
愛を確かめ合う……

天崎 さゆら(てんざき)

BLゲームなんて、
やってなーい!

 そんな調子でふたりで騒いでいると、
静かに戸が開いた。

白坂 ゆきの(しらさか)

また、さゆらちゃんをいじめているの?
瀬海くん


 この、子供な天崎とは打って変わって、
清楚で涼やかな声は……。


 3年生で、パソコン部の部長でもある、
『白坂(しらさか)ゆきの』先輩だ!


 この部に入部したのは、
半分はこの美人な先輩目当てだったんだよなあ……。


 いかん。
俺にはめぐりという超可愛い彼女がいるのに、
鼻の下を伸ばしている場合ではない。


 俺は緩んだ表情を慌てて引き締め直して、
こう答えた。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

いじめているんじゃないです。
遊んであげているんです

白坂 ゆきの(しらさか)

そう……。
良かったわね、さゆらちゃん

天崎 さゆら(てんざき)

ふみゅ……。
遊んでもらってたわけじゃ
ないんですけどぉ……


 あれだけやかましかった天崎も、
白坂部長に頭を撫でられるとすぐに大人しくなる。


 頭を撫でられるのが好きなんだろうな。
まったく、猫みたいな奴だ。

白坂 ゆきの(しらさか)

ところでね、瀬海くん……

 俺がゲームに没頭していると、
白坂部長が隣の椅子に座った。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

なんですか?

白坂 ゆきの(しらさか)

滝岡さんとまた付き合い始めたって、
本当?

瀬海 平和(せかい ひらかず)

だっ、誰から聞いたんですか?

白坂 ゆきの(しらさか)

菊田くんが、今朝……。
わたしの教室に届け物に来たときに、
そう言っていたの


 菊田……あいつ何を勝手に喋ってんだ。
白坂部長にはずっと秘密にしておこうと
思っていたのに。


 ……いや、深い意味はないけど。

菊田 誓(きくた せい)

ドーンッ!!

瀬海 平和(せかい ひらかず)

うごっ……!

菊田 誓(きくた せい)

なになに?
何話してるの?
僕も混ぜてー!

瀬海 平和(せかい ひらかず)

なんで体当たりしてくる、テメー!


 たった今、意味もなく体当たりして
俺にダメージを与えたこの男が、
俺と同じ2年生の『菊田誓(きくた せい)』だ。


 空気の読まなさは、
この学校じゃ右に出る者はいない。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

お前さ……。
なんで勝手に、
めぐりのこと部長に話しちゃったんだ?

菊田 誓(きくた せい)

えっ、ダメだった?

瀬海 平和(せかい ひらかず)

駄目に決まってるだろ!
せめて俺に断ってから言えよ

菊田 誓(きくた せい)

だってさ、滝岡さんって
ここの元部員じゃないか……。
それに、白坂部長も
ずっと気にしてたみたいだから……

 白坂部長は、少し寂しげに溜息を漏らした。

白坂 ゆきの(しらさか)

だったら、滝岡さん……。
また戻って来てくれればいいのに

瀬海 平和(せかい ひらかず)

ほら、その……。
家の事情が変わって、
あんまり学校に残れなくなった
みたいですよ


 俺は白坂部長を安心させるために、
とっさに作り話をした。


 実際の所は、めぐりが部活に戻らない理由を
俺も知らない。


 事情を言いたいなら本人から言うだろうし、
俺からわざわざ聞く事でもないしな。


 大方……出たり入ったりするっていうのが、
気まずいとでも思ったんだろう。

白坂 ゆきの(しらさか)

そう……。
それなら、仕方ないわね

 白坂部長の顔は笑っていたが、
やはりどこか寂しそうだった。


 めぐりは、誰とでも仲良くなるからな……。
きっと白坂部長の
お気に入りの一人だったんだろう。

天崎 さゆら(てんざき)

えっ、めぐにゃんがどうかしたの?

 菊田の横から、
天崎が小動物のようにひょこっと現れた。


 天崎が言った、めぐにゃんっていうのは……。
天崎が、めぐりを呼ぶときの愛称だ。
まあ、説明しなくてもわかるか。


 2年である先輩のめぐりを
『にゃん』と呼ぶのはどうかと思うが……。
それだけふたりが、仲が良かった証拠なんだろう。


 今年の4月に入学した天崎が、
めぐりと話したのは実質1ヶ月くらいしかない。
なぜなら、4月の終わり頃には
もうめぐりは退部をしていたからな。


 その後も天崎とめぐりは、
少しの間メールを送り合っていたらしいが。


 何にしても、そんな短い期間で
後輩と仲良くなれるめぐりの社交性には恐れ入る。


 ……いかん。
人と話している時に、
思い出にひたってしまった。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

どうもしねえよ。
大人の話だから、
ガキはあっちに行ってろ

天崎 さゆら(てんざき)

瀬海になんか、聞いてないよーだ!
ねえ、白坂部長。
めぐにゃんがどうかしたんですか?


 憎たらしい態度をとる天崎に、
白坂部長は穏やかな笑みを向けた。

白坂 ゆきの(しらさか)

滝岡さんと瀬海くん、
また付き合うことにしたんだって

天崎 さゆら(てんざき)

ええっ、何それ?
聞いてないよ!

天崎 さゆら(てんざき)

……あ、そっかぁ。
あたし、最近めぐにゃんと
メールしてなかったからなぁ


 下を向いてしまった天崎に、
菊田が余計な一言を発した。

菊田 誓(きくた せい)

天崎さんは、
瀬海と仲が良かったから
ショックだよね?


 ……こ、こいつは。
また天崎が騒ぎ出すような言葉を、平然と言いやがって。


 てっきり怒り出すものだと思って、
天崎の方を見ると……。

天崎 さゆら(てんざき)

…………

瀬海 平和(せかい ひらかず)

て、天崎……。
お前、なんて顔してるんだ?

天崎 さゆら(てんざき)

えっ……

 顔を真っ赤にしている……というよりも
頬を染めている、という表現の方が
近いんだろうな。


 とにかく天崎は、
ただでさえ円らな瞳をさらに丸くして、
きょとーんとしていた。

天崎 さゆら(てんざき)

バカッ!
今日はもう、帰る!!

瀬海 平和(せかい ひらかず)

いでっ!!
何すんだバカ天崎!


 俺の頭を鞄で叩いた天崎は、
足早に部室を出て行ってしまった。

菊田 誓(きくた せい)

あっ、天崎さん。
バイバーイ

瀬海 平和(せかい ひらかず)

菊田……。
のん気に見送るなよ


 それにしても、天崎の奴……。


 さっきは照れていたかと思えば、
今度は勝手に一人で怒り出して……。
わけがわからん。


 ……いや? ちょっと待て。
わけがわからないことなんて、あるもんか。
さっきの様子から察するに、ひょっとして天崎は……。


 俺に惚れているんじゃないのか!?


 そこで、白坂部長のありがた~い一言が。

白坂 ゆきの(しらさか)

さゆらちゃんったら……。
瀬海くんをお兄ちゃんみたいに
思っていたから、
また滝岡さんにとられて
悔しかったのかな?


 ……お、お兄ちゃん。
俺の幸せ気分を、
5秒足らずでぶち壊さないでください。

菊田 誓(きくた せい)

ねえねえ、部長! 瀬海ー!
学祭用に作るゲームの案なんだけど、
これでいいかな?


 いつの間にか部屋の隅に行っていた菊田が、
一冊のノートを持って来た。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

って、それ現国のノートだろ

菊田 誓(きくた せい)

いやあ~。
授業中、すごく暇だったからさあ


 俺たちのやり取りを見て、
白坂部長がクスッと笑った。

白坂 ゆきの(しらさか)

じゃあそれ、
菊田くんが読んでくれない?

菊田 誓(きくた せい)

ええ~っ、ふたりの前で読むの?
恥ずかしいなあ


 菊田が頬をポリポリと掻きながら、
まるで女の子のようにはにかんでいる。


これは、つっこまずにはいられまい。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

照れるな、気持ち悪い!
早く読め!

菊田 誓(きくた せい)

ひ、ひどいよお。
……それじゃ、説明するね

 菊田はノートを持ったまま、黒板の前に立った。

菊田 誓(きくた せい)

ふたりとも。
夢を見ている時の感覚って、
覚えてる?

 俺と部長は、顔を見合わせた。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

なんとなくは覚えてるけど……。
それがなんだ?

菊田 誓(きくた せい)

その感覚を、ゲームに応用するんだ。
夢の中の出来事って、
目覚めるまでは現実みたいに感じるよね。
ゲームもそんな風に遊べたら、
楽しいだろうなぁって思ってたんだ


 そう言いながら菊田は、
黒板にわけのわからない数式やら
模式図やらを書き始めた。


 俺より成績が悪い菊田が、
こんな複雑な物を書き出すとは……。


 驚いている俺とは反対に、
白坂部長は冷静に目を細めた。

白坂 ゆきの(しらさか)

目を介さずに、
視覚に直接ゲームのデータを
送り込むっていうこと?

菊田 誓(きくた せい)

そういうことなんです、部長

 瞬時にして理解した部長と、
嬉しそうにする菊田。


 ……なんだか、俺だけ除け者の気分なんだが。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

おい……。
俺にもわかりやすく説明しろよ

 眉根を寄せている俺を見て、
菊田が満面に笑みを浮かべた。

菊田 誓(きくた せい)

あっ! うんうんっ。
ノートにまとめたやつを読むね~

 菊田の読み上げたものは、
ゲームのストーリーといった単純なものではなかった。


 それはアクションゲームでもなく、
シミュレーションゲームや
アドベンチャーゲームでもなく……。


 『ゲームを遊ぶ』という概念を、
根底からくつがえすものだった。
例えて言うなら、『ゲームに支配される』という
印象を受けるものだった。


 元来、パソコンやテレビで遊ぶ
ゲームソフトといわれる物は、
ハードといわれる機器が必要だ。


 モニターに映し出される映像によって、
プレイヤーである俺たちは……。
さながらその世界にいるような、
疑似体験が出来る。



 モニターを見るという事は、
目という感覚器官を介して
視覚に情報を伝えているという事だ。


 つまりゲームというのは、
大半が視覚情報に依存している世界なんだ。


 BGMや効果音を含めれば、
聴覚にも訴えているとも言えるか。


 更に付け加えるなら、
コントローラーが震えて
触覚に働きかける物もある。


 視覚・聴覚・触覚……。
あとは嗅覚と味覚さえ揃えば、
高度な擬似世界が完成するかもな。


 香りが出たり、味が楽しめるようになったら、
グルメゲームなんて新しいジャンルができそうだ。


 日常的に脳がインプットしている情報量の割合は、

 視覚83%

 聴覚11%

 嗅覚3.5%

 触覚1.5%

 味覚1.0%

──と、以前どこかで聞いた事がある。


 その理屈でいけば、
視覚・聴覚・触覚に訴えているゲームは、
脳が認識する情報の、95.5%を占めていると言えるだろう。

 9割以上を占めるなんて、
脳に相当な影響力がありそうだ。


 だけど……実際にゲームをしていて
『これは現実なんだ』と認識する事なんてのは、
まず有り得ない。


 100%の内の残りの4.5%が、
『これは作り物なんだ』と訴えているからなのか?


 ……それも一部あるが、
大半の理由は別にあると思う。


 俺は学者でもなんでもないから、
数字に表すことは出来ないが……。
それらに共通して言える事が、一つあるからだ。


 それは、どれもそれぞれの感覚器官の
『一部』にしか働きかけていないという事だ。

 一つ、視覚を例にあげよう。


 どんなに美麗なグラフィックを
モニターに映したとしても、
どうしても周りの環境が視界に入ってしまう。


 それは自分の部屋であったり、
ゲームセンターであったり……。


 都心のアミューズメントパークに行けば、
視界を360度カバー出来るゲームも有るだろう。


 だが、映像を限りなく3次元に近づけたところで、
所詮それらは2次元の物として、
脳に視覚情報が行くだけだ。


 つまり、脳がインプットする視覚情報の
『83%』の内、半分にも訴えていないわけだ。


 それはBGMや効果音である
聴覚情報11%、
コントローラーなどから与えられる
触覚情報1.5%にも、同じことが言える。


 結論から言えば、
それらは『遊び』としての完成度が高いだけで、
『現実』と認識する人間はいない。


 正常な感覚を持っているなら、
という条件付きの話だけどな。


 言ってしまえば、
飽くまでプレイヤーの想像力を刺激して、
プレイヤー自身の脳で異世界を創り上げるという……。


 “人間の想像力に依存した物”に過ぎない。


 どこまで行っても、作り物の域を出ないわけだ。


 人間の技術は未だ、
人間を完全に騙せるほど進歩していない。

 それで本題の、菊田のゲームの話に戻ろう。


 菊田が提案したゲームの企画は、
俺が今まで説明してきたような、
想像力を刺激するなんて生半可なものじゃない。


 人間の想像力を、“拘束”するものだった。


 拘束といっても、
想像する事を制限するわけじゃない。


 作り手の意図する世界に、
プレイヤーが否応なしに引き込まれ、
それを現実として受け入れる事を
強制されるシステムだ。


 つまり、作り手のルールに則っていれば、
何を思い描いても自由なわけだ。


 それは、普段の菊田の能天気ぶりからは
想像できないほどに、
ち密な計算がなされた企画だった。


 中盤以降は何を言ってるのか
サッパリわからないほど、
難しい話をしていて……。
正直に言うと、俺はついて行けていなかった。


 白坂部長は、すべて理解したみたいだけどな。

白坂 ゆきの(しらさか)

へえ、すごいわね……。
もしそのシステムが実現できるなら、
高校生のゲームなんてレベルじゃないわよ

菊田 誓(きくた せい)

部長なら、わかってくれると思ってました


 意気投合するふたりに割って入るように、
俺はおずおずと手を上げた。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

あのう……。
つまり、どういうゲームなんですか?

白坂 ゆきの(しらさか)

…………

菊田 誓(きくた せい)

…………

 盛り上がっている所に水を差されたせいか、
ふたりが目をパチクリとさせている。


 ……すいませんね、理解力に乏しくて。


 しかし、そんな俺の気持ちを察してくれたのか
白坂部長が優しく微笑んだ。

白坂 ゆきの(しらさか)

視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚の五感を、
フルに活用するの。
脳に直接電気信号が送られるから、
そのゲームで起こった事が
まるで現実のように感じられるのよ

瀬海 平和(せかい ひらかず)

あー、なるほど……。
脳みそを完全に騙すシステム、
ってわけですか

 とは言ってみたものの……。
わかるようで、わからん説明だな。


 だが、部長に残念な子だと思われるのも嫌だから、
ここは理解した振りをしておくか。


 腕組みをしてひたすらうなずく俺に向かって、
今度は菊田が解説を始めた。

菊田 誓(きくた せい)

イメージとしては、
仮想世界に体ごと
ワープしちゃう感じだよ


 ……うーむ。
さっきのシステムのどこがどうなったら、
そういうゲームが完成するんだ?


 話について行けないひがみではないが、
俺は皮肉めいた口調でこう言った。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

……で、そのゲームは
どうやって作ればいいんだ?
どう考えてもパソコンだけじゃ無理だよな。
だとすると、ハードその物から
作らにゃならんように思うんだが

白坂 ゆきの(しらさか)

それは私も知りたいわ


 俺と白坂部長の視線が、
一心に注がれる中……。
菊田は、笑顔でこう答えた。

菊田 誓(きくた せい)

えっ……。
そんなの、作れるわけないじゃないか!


 その瞬間、俺の右ストレートパンチが
菊田の頬に炸裂した。

菊田 誓(きくた せい)

なっ、何すんだよぉ~瀬海!

瀬海 平和(せかい ひらかず)

お前なあ……。
出来もしない架空のアイディアを出して、
それをみんなに喋りたいだけなら
ノベルゲームでも作ってろ!

白坂 ゆきの(しらさか)

瀬海くん、それ……。
ノベルゲームに喧嘩売ってる

 白坂部長が、俺の制服の裾を引っ張った。

白坂 ゆきの(しらさか)

なんにしても、
面白い話ではあるんじゃない?

瀬海 平和(せかい ひらかず)

そうですかあ?

白坂 ゆきの(しらさか)

現実逃避をしたい人間が後を絶たないから、
脱法ドラッグは無くならないのよ。
そのドラッグに代わるほどに、
人間に影響力を与えるゲームがあるなら
これ以上に良い物……


 言いかけて、白坂部長は口をつぐんだ。

瀬海 平和(せかい ひらかず)

……どうかしたんですか?

白坂 ゆきの(しらさか)

いえ。
例え第三者のコントロールが
利くものだとしても、
現実逃避を容認するのは良くないわね。
それがドラッグに勝るほどの物なら、尚の事

菊田 誓(きくた せい)

そんなに深く考えるような物じゃ
ないですよお~


 自分のアイディアを
全否定された気持ちになったのか、
菊田がしょんぼりとしている。

白坂 ゆきの(しらさか)

あっ……ごめんなさい。
菊田くんのアイディアが駄目だと
言ったわけじゃないのよ?

瀬海 平和(せかい ひらかず)

まあ、いいさ。
それはそれで研究発表っぽく、
模造紙にでも書いて貼り出すとして……。
実際のゲームは、
去年みたいにRPGでも作ろうぜ!


 普段は深く物事を考えない菊田が、
どうしてあんなに複雑な話をしたのか……。
それが少しだけ気になった。


 だけど、菊田だってパソコン部の一員だ。
何かの縁に触れて、
隠れていた才能が覚醒することもあるんだろう。


 その縁がなんなのか?


 ……なんて、そこまで考える必要はない。








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