あの日から俺とめぐりは、
また以前のように一緒に登校するようになった。
……本当に良かったと、しみじみと思う。
別れたのはたった1ヶ月前の事だ。
だけど、ふたりの仲がおかしくなり始めたのは、
バレンタインデーからだから……
かれこれ、3ヶ月以上は心が離れていたように感じる。
またこうして、並んで歩く日がくるなんて
思ってもみなかった。
初夏の日差しを浴びて、めぐりが少しだけ目を細めた。
おはよっ、平和くん
よお
あの日から俺とめぐりは、
また以前のように一緒に登校するようになった。
……本当に良かったと、しみじみと思う。
別れたのはたった1ヶ月前の事だ。
だけど、ふたりの仲がおかしくなり始めたのは、
バレンタインデーからだから……
かれこれ、3ヶ月以上は心が離れていたように感じる。
またこうして、並んで歩く日がくるなんて
思ってもみなかった。
初夏の日差しを浴びて、めぐりが少しだけ目を細めた。
まだ6月になったばかりなのに、
もう暑くなってきたよね
ああ……だな。
そう言えば、
今月中に夏服に衣替えしろって
先生が言ってたような……
平和くん。
夏の制服、
すぐに出せるように用意してある?
カビてない?
し、失礼な。
おふくろがちゃんとしまってある……
と思うぞ、たぶん
めぐりは呆れながらも、少しだけ笑った。
お母さん任せなの?
しょうがないなぁ
ほっとけ
こうしてめぐりと交わす、
何気ない会話をする事にすら喜びを感じてきている。
……重症だな、俺。
思えば、めぐりと付き合い始めたのも
去年の今頃だったな……。
夏休みに入る直前……
つまり終業式に、俺から告白したんだっけ。
まさか、こんなにすぐに別れたり
戻ったりするとは思っていなかったけど。
俺たちが久し振りにふたりでいるところは、
すぐに友達連中に見つかって、
ずいぶんと冷やかされたが……。
なんだかんだ言って、
俺たちを祝うためにパーティを開いてくれた。
結局、何かと理由をつけて集まって
騒ぎたいだけなんだろうけどな。
ねえねえ、平和くん
学校までの道のりを歩いていると、
めぐりが肩を叩いてきた。
なんだ?
昨日、これを徹夜で作ったんだけど……
めぐりが、小さいクマのストラップを2個差し出した。
なんだ? このピンクのクマ
ただのピンクじゃなくて、
ピンクのギンガムチェック!
そんなのどっちだっていいが、
手芸が好きなめぐりのこだわりがあるんだろう。
……で、これを徹夜で作ったのか。
暇なのか?
暇とかじゃなくって……。
平和くんと私で、
何かお揃いの物を持ちたいなって
思ったの
そう言ってめぐりは、クマのストラップを一つ、俺の手に乗せた。
ストラップの紐に指を通して、
なんとなくクルクルともてあそんでみる。
しかし、小さいながらもちゃんとクマの形をしてるな。
感心しながら縫い目を眺めていると、
ある事に気づいた。
おい……
今、お揃いって言わなかったか?
うんっ。
あっ……ちょっと失敗しちゃって、
違う形に見えるかもしれないけど……
いやいやいや、そうじゃなくてだな!
俺にも! この! ピンクのクマを!
付けろって言うのか!?
クマを握り締めて、俺が力の限り主張をすると……。
めぐりは両手で耳を塞いで、眉をひそめた。
もう、声がおっきい
めぐりが唐突に、俺からクマのストラップを取り上げた。
……まずい、怒らせたか?
い、いや……あのな。
クマは大切にするけど、
さすがに男が付けるのには……
…………
ん?
めぐりのやつ、なんで俺のカバンから
携帯を取り出しているんだ?
……おい、ちょっと待て
何?
勝手にクマを付けるなああぁーっ!!
な、なんて事だ。
めぐりは強引に、
俺の携帯にクマのストラップを付けてしまったのだ。
そこまでして、この銀紙チャックのヒグマを
俺に付けて欲しいのか?
平和くん……
合ってる所が、一個も無いんだけど。
もういいよ、そんなに付けたくないなら
今度は、俺の携帯からクマをはずしている……。
思いっきり拒否するのも、ちょっと可哀想だったか?
徹夜で作ったって言ってたもんな……。
わかったよ。
めぐりが目の下にクマまで作って、
作ってくれたクマだもんな……。
付けてやるよ
ありがとう、平和くん!
ダジャレは面白くないけど、
すごく嬉しい!
ダ、ダジャレのつもりはなかったのに。
なんだか、めぐりの巧妙な手口に
乗せられたような気もするが……。
それを考えないようにして、
俺は自分の携帯に、
めぐりのお手製のクマのストラップを付けた。
……まあ、彼女の手作りとして
みんなに自慢するのも良いかもな。
毎朝教室の前で、めぐりと別れる。
めぐりとは違うクラスだから、
昼休みに飯を食うまでは別行動だ。
それじゃあ、また昼にな
うん……
俺が教室に入ろうとすると、
めぐりが制服の裾を引っ張った。
どうした?
離れるの、寂しいな……
なっ……!
なんて可愛い事を言うんだ!
今すぐここで、抱きしめたくなるだろう!!
……しかし、背後でクラスの連中が
ニヤニヤしてこっちを見ているのに気づいた。
バカか。
たった数時間の話だろ?
……それもそうだね。
先生が来るから、もう行くね
教室へ向かっためぐりの後ろ姿は、
少し寂しそうだった。
……もう少し、優しく言ってやれば良かったかな。
そう思った瞬間、俺の指はメールを打ち始めていた。
『さっきはごめん。
今日の昼飯は、俺がおごるから』
送信完了……っと。
携帯を閉じると、さっきめぐりにもらった
クマのストラップが目に入った。
他のストラップと比べて異彩を放っているが……
これもこれで、悪くないか。
これを見る度に、めぐりの事を思い出せるしな。
そんな事を考えつつも教室に入ろうとすると、
唐突にメールの着信音が鳴った。
はやっ! もうめぐりから返事がきた!!
『大丈夫だよ。
今日はお弁当を作ってきたから。
平和くんの分もあるから、
パンとか買っちゃダメだよ』
……俺が昼飯をおごるって
送った事に対する返事か。
なんてよく出来た彼女なんだ。
俺の恋人とは思えないくらい、完璧すぎる。
ホームルーム始まるぞ。
バカ面してないで、
早く教室に入れ
感慨にふける暇も無く、
俺は担任によって教室に押し込まれた。
放課後もめぐりと一緒に帰りたいところだが、
俺は部活があるし、
めぐりは帰宅部なんだよな。
めぐりは1年生の頃、
俺と同じくパソコン部の部員だった。
入学したての頃は
どこの部にも所属していなかっためぐりだが、
俺と付き合い始めてからは、
俺に合わせてパソコン部に入っていたんだよな。
……別れると同時に、退部したけど。
でも、よりを戻してからも
パソコン部に入り直す気は無いようだ。
元からパソコンには興味なさそうだったもんな。
それじゃあ、また明日ね!
ああ、またな。気をつけて帰れよ
帰る時も寂しがるかと思ったが、
意外とそんな素振りはまったく見せなかった。
俺の部活を邪魔してまで、
ワガママを言いたくないと思っているんだろうな。
繰り返し言うが、本当によく出来た彼女だ。
そうしてめぐりの後ろ姿を見送ると、
俺は部室へと向かった。